ユニクロなど従業員約8400人の“賃上げ” 国内に伝播するのか? 非正規社員に恩恵ない可能性も 東洋経済オンライン編集部長「正規との格差の広がりが心配」
賃上げ状況の推移
この記事の写真をみる(3枚)

 物価上昇率を超える賃上げの実現を目指す方針を示している岸田総理。まもなく春闘が事実上のスタートを切るが、きのう、経営側の方針が示された。

【映像】賃上げ状況の推移

「物価を重要な要素の1つとして見ていただき、“社会的責務”として、人への投資をやっていく」(経団連・副会長の大橋徹二氏)

 経団連の大橋副会長は、“企業の社会的責務”と表現したうえで、ベースアップを前向きに検討するよう求めた。

 今年の春闘の賃上げ率について、エコノミスト33人の予測値をまとめた日本経済研究センターによると、ベースアップの平均は1.08%、定期昇給が1.78%で、総平均は2.85%だった。

 予測通りとなれば、26年ぶりの高さとなる。ただ、去年11月の消費者物価指数は、前の年の同じ月より3.7%上昇していて、政府が目指す物価上昇率を上回る賃上げの目標には届きそうにない。

 そんななか、大胆な賃上げに踏み切るのが、ユニクロやGUを運営する株式会社ファーストリテイリング。

「報酬テーブルに基づいて、1人1人の報酬は、成長意欲と成果により、数%から最大で40%上昇する」(株式会社ファーストリテイリング・CFOの岡﨑健氏)

 国内の従業員約8400人が対象で、初任給は25万5000円から30万円になる。多くの社員が入社1~2年目で就任する店長は月収29万円から39万円になる。

ユニクロなど従業員約8400人の“賃上げ” 国内に伝播するのか? 非正規社員に恩恵ない可能性も 東洋経済オンライン編集部長「正規との格差の広がりが心配」
拡大する

 世界水準での競争力をつけるための賃上げを大企業が発表する一方、止まらない物価高のなか、少しでも支援をしたいとの思いで、全社員に一律で5万円のインフレ手当の支給を決めた会社もある。しかし、さらに期待されるのは「賃上げ」だ。

 春闘までとても待てないと決めたインフレ手当。ただ、賃上げとなると経営者にとっては難しい課題だ。

「1回上げるとなかなか下げることができないので、『賃上げ』は経営者としては勇気がいる」(日本空調北陸・社長の西川博志氏)

 このニュースを受け、ニュース番組『ABEMAヒルズ』は、東洋経済オンライン編集部長の武政秀明氏に話を聞いた。

――今回の賃上げをどのように見ているか?

「物価がそもそも上がっているので、それに対応しなければいけないことに加えて、やはりこの10年ぐらい特にだが、諸外国との賃金の格差が広がってしまっていることから 賃上げのムードとしては高まっている。企業も2006年頃、180兆円ぐらいお金を持っていたのが、2021年320兆円まで増えているので、ちょっと溜め込みすぎている面もある」

ユニクロなど従業員約8400人の“賃上げ” 国内に伝播するのか? 非正規社員に恩恵ない可能性も 東洋経済オンライン編集部長「正規との格差の広がりが心配」
拡大する

――賃上げの不安要素について

「賃上げは、特に大企業、正社員が中心になってくるわけだが、日本には、非正規で働いている方が4割近くいる。それから、60歳を超えてくると再雇用も非正規であるという点から、そういった方々には、賃上げは、なかなか一律に及びにくい。そのあたりの格差の広がりみたいなことは、少し心配になる」

――格差の広がりというのは、5年後、10年後もまだ拡大するのだろうか?

「基本的には格差を修正するための具体的な政策が実行されていないように見えているので、(格差は)続くのではないかなと思っている。例えば、相続税だったり、富の再配分をどうするかというところ。 これに対するインパクトのある政策を出していかないと、格差はなかなか修正されない。資本を持ってる方が投資する方が、労働で稼ぐよりも給料が高いっていうのは、トマ・ピケティの理論だが、格差拡大が続いてしまうと、そういうふうになってしまう」

――ファーストリテイリングが、このタイミングで賃上げしたことの狙いは、どう考えているか。また、なぜこのタイミングだと思うか?

「ファーストリテイリングの狙いとして、世界水準の競争力というのは、大きなポイントになる。 海外のアパレル企業だと、『H&M』は、大体年収1600万円 と言われている。海外で戦っていくとになると、優秀な人材を確保することが必要になってくる。優秀な人材を採るためには、思い切って給料を上げていかなくてはいけないという狙いがあると思う。お金がないと、そこで働こうという魅力にならないということがあると思う」

――ファーストリテイリングのように、賃上げしていく企業は増える?

「日本企業は先を切るのは躊躇しがちなので、ここで突破してくれる方がいるとなると、続きやすい経営者も出てくるのではないかなというふうにも見える。ただ、業績がある程度好調で財務基盤が固い大企業からということになると思う」

――例えば、この影響を受け大企業がどんどん賃上げしていった結果、中小企業や非正規の人たちも賃上げに流れていく構図にはならないのか?

「なってくるっていうことを期待したい。何しろ、将来が不安というのが大きなテーマで、将来に対して備えたいから、企業も人もお金を貯め込んでいる状況。『あえて(お金を)使っていこう』『(給料を)上げていこう』というムードが出てくると、 (お金を)使おうかっていう気持ちになってくる。そうすると、それが巡り巡って経済を潤していく。極端な話をすれば、1人1万円でも多く、1年間に使うことをやるだけで経済は回る。“景気”の気は、“気分”の気ってこともあるので、そういった点にも期待したい」

(『ABEMAヒルズ』より)

この記事の画像一覧
「106万円の壁」対象拡大...どんな影響が?
「106万円の壁」対象拡大...どんな影響が?
給料は “ドル払い”「リモート出稼ぎ」円安で賃金↑
給料は “ドル払い”「リモート出稼ぎ」円安で賃金↑
給料の受け取りもアプリで完結!?
給料の受け取りもアプリで完結!?
円安で「ドル払い副業」 海外出稼ぎより日本からリモート出稼ぎ

■Pick Up
「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側

この記事の写真をみる(3枚)