2月21日に行われる武藤敬司引退試合は、東京ドームという大会場で開催し、ABEMAでの有料生配信(PPV)も決定。さらに主催のプロレスリング・ノア所属選手だけでなく、新日本プロレス、全日本プロレス、DDT、DRAGONGATE、東京女子プロレスなど、他団体のトップ選手も参戦。オールスター戦の様相を呈してきたが、そこには日本プロレス界の発展を願う武藤の願望が反映されていた。
インタビュー後半は、そんな武藤に2.21東京ドームでの引退試合の意義を中心に聞いてみた。(取材・文/堀江ガンツ)
ーー今回、引退試合を東京ドームという大きな会場で行うのは、自身の引退を盛大にというだけでなく、「プロレス界に何かを残したい」という思いがあると以前語られてましたよね?
武藤 そうだね。だから引退試合を内藤(哲也)とやるわけだけど、彼は1995年の武藤敬司vs高田延彦(10.9東京ドーム)を観て、プロレスラーになろうと決めたんだって。それで実際プロレスラーになって、いまの地位まで這い上がってきたと。だったら今度は武藤vs内藤を観て、今のちびっこや若者が「内藤みたいになりたい」と思ってくれたら、それでいいんじゃないかと思ったりね。
――あと2.21東京ドームは、武藤さんご自身も望まれていたPPV有料生配信がABEMAで行われることが正式決定しました。
武藤 そういう時代がようやく来たなって思いますよ。今までの日本のプロレスって、力道山の時代、馬場さんや猪木さんの時代って、馬場商店であり、猪木商店だったんだよ。俺だって全日本プロレスで社長をやったりもしたけど、それだって武藤商店だった。だけど今のノアってそういう個人商店ではないじゃん。すでにPPVができるABEMAというメディアが付いていたり、映像を撮るのだってその道のプロがやったりしててさ。いまのプロレス界はいいですよ。これが揃ってるから俺もノアで引退試合をしようと思ったんだから。
ーープロレスの興行会社というだけじゃなく、総合エンターテイメント企業になりつつありますよね。
武藤 そうそう。いち個人商店じゃなくて、その道のプロがみんな集まって、それで世界に打って出ようという気持ちもありそうじゃん。だから、ホントは今ぐらいにプロレスラーとして俺は生まれたかったよ。自分の試合が世界に配信される時代にね。生まれるのが40年くらい早かったよ。
――これから世界を含めた試合の映像配信は加速していくと思いますが、「本格的なPPV時代は武藤敬司引退試合から始まった」と言われるようなものにしたいという思いはありますか?
武藤 いや、それはわかんないよ。「あの時が起点だったな」っていうのは後世の人が決める問題であって、俺たちが決めることじゃないよ。
――でも、PPVの定着がきっかけとなって、レスラーがもっと稼げる世界になってほしいという思いはあるんじゃないですか?
武藤 そうですね。そのチャンスもあるからね。パイが大きくなればそれだけ報酬もきっと大きくなるだろうし。でも、そうなると今度は世界レベルの戦国時代だからね。
――WWEやAEWといった海外のメジャーとも張り合っていかなければならなくなるわけですもんね。
武藤 いいねえ。俺もそこで闘いたかったな。
ーー「これからは大変な時代だ」じゃなくて、夢がある時代だと感じてるわけですね。
武藤 そうそう。もし生まれ変わったら、中学校でも他の科目は落としても英語だけはしっかり勉強したりしてね(笑)。
――では、26歳の清宮海斗選手がうらやましかったりもしますか?
武藤 そうだね。彼にはチャンスがあるからね。
ーーそれこそ2.21東京ドームのオカダ・カズチカ戦なんかは、清宮選手にとってブレイクする大きなチャンスですよね。
武藤 ドームという器でより多くの人が観てくれるわけだからね。
――ちなみに1.21横浜アリーナでのオカダ選手に対する清宮選手の顔面蹴りについてはどう思いますか?
武藤 いや、話題になってるのは知ってるけど、その場面を直接観てねえんだよ。他人のあれにあんまりコメントしたくねえし、観てないからコメントのしようがねえよ。
――でも、プロレスで起こったことを飛躍に繋げることができるかどうかは、本人次第ですよね?
武藤 まあ、そうだね。今回の東京ドームは、俺のジェネレーションのファンの人たちもひさしぶりに行くかとか、普段ノアを観てない人たちもたくさんくると思うんだよ。そういう人たちをリピーターにさせるのは、いま頑張ってる選手たちの器量次第だからね。俺はもうそんな必要がないし。俺がしょっぱいことをやったら、「ああ、しょっぱかったな」で終わるわけだからさ。次がねえからさ。挽回する手立てがねえんだもん。
――両脚にケガを負った中でも「もう挽回できない」っていうのは、引退試合に向けた大きなプレッシャーですね。
武藤 失敗しても挽回できないんだから。「もう一回やらせて!」とか、泣きの一回やってもいい?(笑)。
――引退試合のテイク2(笑)。
武藤 でも、映画なんかと違って撮り直しが効かねえからな。そこがライブであるプロレスの厳しさであり、おもしろさですよ。
――38年闘い続けてきて、これが最後の試合になるというはどんな思いですか?
武藤 東京ドームでこうやってみんなが盛大に見送ってくれるっていうのはうれしいことで、やっぱりレスラー冥利に尽きることだけど。両脚の肉離れを抱えた今のコンディションでは、その期待に応えられない自分がいそうな感じがしていて不安で怖いよ。期待が大きければ大きいほど全部が俺にプレッシャーとしてのしかかってくるわけであって、いまはあまり強気なことは言えねえよ。
ーー感傷的な気分にひたってる場合ではないと。
武藤 いま必死だよ。ホントに最後の最後にプロレスの神様は俺に試練を与えたなって思ってますよ。これをこなさなきゃ卒業できねえんだもん。
――過酷な卒業試験ですね。
武藤 ただ、まだあと3週間あるからね。そこをどうもがいて苦しむかだよ。かといって、あまりもがいて苦しんでると悪化させる可能性もあるし、大変なんだよ。俺自身が追い込まれてるよ。
ーーある意味で武藤敬司最大の一戦になると。これまで何千試合とやってきたと思いますけど、そんな気持ちでやる試合は初めてですか?
武藤 そりゃあ、これまで高熱が出てても試合しなきゃいけないとか、ヒザが痛くても試合しなきゃいけないときがあったけど、またちょっとスケール感が違うからさ。関節痛とか慢性的な痛みは我慢できるけど、肉離れはズキュンという激痛が走るわけだし。まだ3週間あるから、どうなるかわからないけど。3週間後にインタビューしたら、「余裕だよ」って言ってる可能性もあるからね(笑)。
ーーそうなってることを願います(笑)。
武藤 まあ、どうなるかわからないけど、どんな状況であろうと、ありのままの武藤敬司を全部ぶつけるよ。