2022年の出生数は、およそ77万人(日本総合研究所推計)と統計開始以来、最少となった。一方で、新生児医療の発展によって、重症心身障害児は増加している。
日本にいる約4万3000人の重症心身障害児のうち、自宅で生活を送っているのは約8割(全国重症心身障害児(者)を守る会)。国は医療費の抑制などを理由に在宅医療を推進しているが、家族には肉体的・精神的負担が重くのしかかる。
たくさんの医療機器に囲まれた女の子・ケイちゃん(0歳11か月)は、寝たきりで意識もない。不妊治療の末に生まれたが、自発呼吸が弱く、24時間人工呼吸器を使って空気を送り込んでいる。
口から食事をとることができず、栄養はおなかに穴をあけて胃に直接注入。筋肉には過度な強張りがあり、手足の曲げ伸ばしも容易ではない。ケイちゃんを育てる春日隆さん、恵さん夫婦は、朝4時から4時間おきに計5回、睡眠時間を削りながら、交代でケアを行う。
ニュース番組「ABEMA Prime」に出演した春日さん夫婦は「とにかく子どもから目が離せない」と訴える。
「吸引など、様子を見ながら行うケアがある。外出するのにも医療機器が常に必要で、気軽には出られない。急を要するような状態になると、2人が揃っていないと大変。呼吸状態が良くないときは、2人で助け合いながらケアをしている」(恵さん)
春日さん夫妻は共働きで、恵さんがフルリモートだという。
「日中は私がメインで子どもをみている。夫は午前中は在宅勤務、午後は出社。午前中は一緒に、夜は夫にも手伝ってもらって、明け方に交代して睡眠をとる生活だ」(恵さん)
睡眠は十分に取れているのだろうか。隆さんは「断続的なので寝不足だ。24時間365日娘を見ていないといけない。長期間の外出は絶対にできない。緊張感や不安との戦いだ」と話す。ケアを休めるタイミングや息抜きについては「訪問看護師が毎日1時間半から2時間半ぐらい入ってくれる。その間に仕事をしたり、休んだりできる。息抜きは休日に看護師さんがいる間。外出するなどしてリフレッシュしている。また休息を入れたいときに、レスパイトを使って子どもを預けられる」(恵さん)
レスパイトを使うことに何かハードルはあるのだろうか。
「1カ月前に入院を取るルールになっている。予約を取るのも大変だったり、移動のせいで体調を崩したりすることもある。慣れが必要で、なかなか上手に使えてない面もある」(恵さん)
金銭面の負担はどのようになっているのか。
「移動の費用が大変。病院に行く際に利用する介護タクシーの往復代が地味にかさんでくる。娘は体温調節がうまくできないので、エアコンをつけっぱなしにしているから電気代もかかる」(隆さん)
常に命に係わる危険性を抱えながら、ケイちゃんを育てる春日さん夫妻。恵さんは「入院生活が長かった分、娘と暮らせる幸せは本当に大きい」と話す。
「『つらいな』『もうダメかな』と思うことも多いが、ネガティブな面だけじゃない。最後まで娘と幸せに過ごすための支援が今後もっと増えていってほしい」(恵さん)
「私も同じ気持ちだ。中には子どもの看病で働けない人もいる。生活の選択肢が増え、行政の理解がもっと進んでほしい」(隆さん)
■ 周産期・新生児医療はトップクラスも…NICUは不足? 少子化対策と支援のギャップ
元特別支援学校教員でNPO法人「地域ケアさぽーと研究所」理事の下川和洋氏は「周産期新生児医療はトップクラスに進んでいる」と話す。
「WHO(世界保健機関)の統計だが、日本は新生児や乳児の死亡率が世界の中でも本当に少ない。一方でそれが新生児集中治療室(NICU)の不足を招いている。長くNICUにいる子どもが増え、入りづらくなった。医療費を抑えるために、国も病院よりも在宅医療を勧めている。そして、その医療費を親御さんが肩代わりしている。結果、家族の疲弊に繋がっている」
▲下川和洋氏(左)、大空幸星氏(右)
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「国は少子化対策をやろうとしているが、子どもが増えると当然、医療的ケア児や重症心身障害児も増える可能性がある」と指摘する。
「社会の中に、重症心身障害児やその親を支える仕組みがない。2021年に法律ができたが、まだ支援に大きな差がある。その状況の中で少子化対策だけをやっていいのだろうか。非常に無責任だと思う。そのギャップがどこにあるのか、問題を洗い出してから埋めていく作業が必要なのではないか」
(「ABEMA Prime」より)
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