脳と機械の間で情報をやり取りし、体の感覚を補おうとする「ブレインマシンインターフェース(=BMI)」。機械が脳の代わりとなる未来は訪れるのだろうか。
画面に向かって、何かを伝えようとしている男性。筋萎縮性側索硬化症(=ALS)を患い、うまく言葉を発することができないのだが、画面には次々と英単語が表示されていく。この男性は「言葉」ではなく、「脳波」を使って文字を入力している。
1月、アメリカ・スタンフォード大学のフランク・ウィレット氏らの研究チームは、言葉を話すときに口を動かそうとする脳の信号を解読し、きちんと発語できなくても言葉をパソコンに表示する研究を発表した。1分間に約62個の英単語を表示できたという。
その研究に使われたのが、「BMI」だ。
「人の脳に針型の電極を刺して、脳の神経細胞を記録。その信号を使って、自分が言おうとしていることを文字として画面に打ち込む技術」
こう話すのは、大阪大学高等共創研究院の栁澤琢史教授。
BMIとは、脳と機械の間で情報をやり取りし、感覚などを補おうとする技術のこと。この技術を使うことで、体が全く動かせない人や言語が話せない人でも、念じるだけで文字を書いたりロボットを動かしたりできるようになる。
日本でブレインマシンインターフェースに関する研究を行う栁澤教授は、今回の研究について「今までにないスピードで、正確に文字が入れられる。こういった技術を使うことで、非常に素早く意思を伝えられるだろうということで注目されている」と話す。
2021年にも今回と同様、脳に電極を埋め込むことによって、文字を書いているところを想像するだけで文字が入力できるという研究を発表しているフランク・ウィレット氏らの研究チーム。この時は、1分間に18個の英単語が表示できたようだ。
ALS患者などの新たなコミュニケーションの手段として、近年研究が進むBMI。自身もその研究の真っ最中だと話す栁澤教授は現在、脳でイメージしたものを画面に反映させる研究を進めている。
「頭に電極が入っている人に脳の信号から作った画像を見せて、それを自身で想像することで変化させる。例えば、こちらが指示した意味の画像を画面に出してもらう。それができることを示した報告をしている」
またBMIの研究は、自身が思い浮かべたことを実現させる「出力」のみにとどまらない。
「脳に情報を入れる研究も進んでいる。例えば、手の感覚がない人の脳に、ロボットが触れた物の感覚を信号として戻す。そうすると、頭で動かしたロボットアームが触ったものが、自分の感覚として返ってくる」
将来的には、メタバースといった分野でも活用が期待されるBMI。栁澤教授は今後、「脳が担っていた情報処理を機械が担う未来が訪れるのではないか」と期待を寄せている。
「体に埋め込む技術がより使いやすくなって、多くの患者さんの生活を改善する。体が動かなくても、アバターやロボットなどで社会生活を維持したり、自分の好きなところに行ってみたりする生活ができるようになるのではと期待している」
ニュース番組『ABEMAヒルズ』のコメンテーターで、琉球大学工学部教授の玉城絵美氏に話を聞いた。
――フランク・ウィレット氏らの2023年1月の研究では、理解できない言葉を発しても、脳に埋め込んだ電極が口を動かそうとする脳の信号をとらえてテキストや音声に変換してくれるという実験に成功した。2021年に発表された「手書きのテキスト」を思い浮かべるだけで文字入力をする研究の実験では、前回は毎分約18英単語の出力だったが、今回は毎分62英単語の出力で3倍の速度に上昇。今回の研究はさらに画期的なものになっているのか。
「はい。入力できる単語数が増えているのはもちろん、2021年は思い浮かんだことを入力する“認知”に近いところ(が画期的だった)かもしれないが、2023年1月の発表では発話しようとする情報をコンピューターに入力している。イメージしているものと行動しようとしていることは全然違う。書くことと喋ることの両方を捉えているところは学術的にももちろんすごいが、それよりも産業的な発展というところで大きなインパクトがある」
――自分の考えていることが、念じて伝わるのはとてもいいことだと思うが、 伝えたくないことがだだ漏れになる心配はないのか。
「実は、スマートスピーカーでも同じような問題が発生した。家にあるスピーカーに『電気つけて』と言うときには便利だが、導入された当時は日常会話がそのまま読み取られて、電気が勝手についちゃったり、消えちゃったり、鍵が閉まっちゃったりするのではないかとみんな心配していた。使ってみるとわかるが、キーワードを言ってからでないと動かないなど、ちゃんとルールが決まっている」
「今回の件も、2021年と2023年に発表された“文字を思い浮かべること”と“発話しようとすること”の2種類の情報入力がある。思い浮かべようとしたものは入力には使わないで、発話しようとしたものだけをコミュニケーションに使うという使い分けも考えられる。これからBMIの研究や事業開発に関連して、他の入力方法もたくさん出てくると思う」
――技術の発展が楽しみな一方で、恐れていることはあるか。
「はい。第一に考えられるのは、導入時の感染症。第二に、人間は身体を持って境界線が仕切られているが、その境界線自体が緩くなっていって、他者なのか、自分の思考なのか、AIの思考なのかが判別しづらくなるのではないかということ。この2点が気になっている」
(『ABEMAヒルズ』より)
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