今年7月からオーストラリアで、幻覚作用のあるキノコの成分「シロシビン」の処方が認められる。
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いわゆる“マジックマッシュルーム”と呼ばれる毒キノコから抽出される「シロシビン」。通常の抗うつ剤が効かない患者に対して処方が承認され、またPTSD(心的外傷後ストレス障害)患者には合成麻薬「MDMA」の処方も認められるという。
麻薬の原材料でもあり、吐き気や幻覚、幻聴などを引き起こすため、日本ではマジックマッシュルームの所持や栽培は禁止されている。オーストラリアの承認に、Twitterでは「幻覚キノコで治療って、大丈夫?」「副作用とかリスクはないの?」「少しでも苦しむ人が減るなら承認してもいいのかも」など、賛否の声が上がる。ニュース番組「ABEMA Prime」では、専門家と共に幻覚キノコの可能性とリスクについて考えた。
幻覚剤の抗うつ薬利用を研究する衣斐大祐氏(名城大学薬学部准教授)はこう話す。
「数千年か数百年前から植物として知られ、特に有名中南米では、シャーマンの儀式などで使われていた。過去には日本でも法の目をくぐり、使っていた人もいた。2000年初頭に法規制が入り、禁止薬物になった。うつ病治療として注目されているのは、マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分『シロシビン』だ」
シロシビンを摂取すると、どうなるのか。
「基本的にはLSD(※半合成の強い幻覚剤)と同じような作用を示すといわれている。このニュースを聞いた時、私も少し驚いた。この研究では、アメリカとイギリスが最先端を走っている。ちょうどアメリカで第3相試験が先月始まったばかりだ。治験といわれるもので、第1相では健常時に処置して毒性がないかをみる。第2相で小規模で、少人数のうつ病患者に投与して効果をみる。第3相でもっと大規模に投与をして検討をする。オーストラリアの中でどれくらい研究が進んでいたかは詳しく分からないが、すごく早いなと思った」
うつに悩む人は世界で3億人いるともいわれる。効果的な治療が得られない人がいる中で、救世主となるのだろうか。
「3分の1の患者が、既存の抗うつ薬が効かない『治療抵抗性うつ病』と言われている。彼らは、死亡するリスクが非常に高いのに、これまで使える薬がなかった。シロシビンが本当に効くのであれば、患者にとっては待ち望んでいたことだと思う」
実際の治療はどのように行うのか。
「やはり幻覚が起きてしまうので、処置するときは、基本的に暗い部屋で目を閉じて静かにしている。数時間が経たないと家に帰れない。投与時もサイコセラピーといって、心理療法士が近くにいる。幻覚といっても良い幻覚ばかりじゃない。LSDでも問題になるが、バッドトリップといって、悪い幻覚が出て、不安や恐怖を感じるときがある。それが起きないように専門の人が隣にいて、いい方向に誘導してあげる役割をしている」
効果に個人差はあるのか。また、依存性はあるのか。
「個人差もあるだろうし、効かない患者さんがいる可能性もある。リスクに関しては、精神に作用する薬の中でもマジックマッシュルームはかなり毒性が低いと言われている。抗うつで使う濃度や投与スケジュールを考えれば、依存はまず起きないだろう。幻覚は見えてしまうが、かなり安全性は高いのではないか。今はまだ治療抵抗性うつ病患者(※既存の抗うつ薬で十分な効果が認められない患者)に使われているが、普通のうつ病患者にも使われる将来が来るかもしれない」
日本では現在リスクを重視して規制されているが、海外では医療使用が進み始めている。慶応大学特任准教授の若新雄純氏は「症状が起きてから緩和させるよりも、原因と向き合うことが必要だ」と指摘する。
「うつの原因はストレスや日常生活における自己不一致が原因だと言われている。『こんなはずじゃなかったのに』『自分が思っていた人生と違う』みたいなズレだ。薬で原因そのものを回避することはできないと思っていたが、良いトリップは症状を緩和させるものなのか。それとも根本に効くのか」
衣斐氏は「摂取によって『まるで自分がアマゾンの奥地に行って旅をしてきたような感覚だった。意識が変わった』という話を聞いたことがある。もしかすると、自分の考え方や概念そのものを変えるような何かがあるかもしれない」と回答。
若新氏は「自分を追い込みすぎない人間性に変われるなら、話が変わってくる」と話す。「今までの抗うつ剤は、飲むと楽になるけど根本は治っていないものが多い。でも、良いトリップによって『俺は万能だ』と思えたり、嫌なことがあっても『あれは俺への励ましのメッセージだ』みたいに思えるようになれば、根本的な概念のズレが生じなくなる。いわゆるポジティブなマインドに変わる。従来の対症療法的なものと違ってくるし、そうなればいいなと思う」
(「ABEMA Prime」より)
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