
2月21日、プロレスリング・ノアの東京ドーム大会『chocoZAP presents KEIJI MUTO GRAND FINAL PRO-WRESTLING “LAST” LOVE ~HOLD OUT~』で、“プロレスリング・マスター”武藤敬司が引退試合を行い、39年にわたる現役生活に終止符を打った。
引退試合の相手は、1.21新日本プロレス・横浜アリーナ大会のリング上から武藤自身が指名した男。武藤に憧れてプロレスラーとなった“武藤チルドレン”でもある新日本の内藤哲也だ。
「思い出ではなく、今を闘いたい」という武藤は、最後に“最高の作品”を残すべく現在の新日本のトップの一角を指名したかたちだが、引退試合のカードが決まった翌日、1.22ノア・横浜アリーナでの試合中、“一心同体の化身”であるグレート・ムタが負傷。武藤は両脚のふともも肉離れで全治6週間の診断が下される中、完治せぬままケガから4週間で引退試合のリングに上がることとなった。
試合に先駆けて、まずこの試合の PPVゲスト解説を務める蝶野正洋が「CRASH」のテーマ曲に乗って立会人のごとく花道から入場。リングインしてマイクを握ると「ガッデム! アイアム、チョーノ!」の掛け声から「ついにこの日が来てしまいました。武藤敬司引退試合、本当にお疲れさまでした。今日は皆さん、最後まで武藤敬司の応援、よろしくお願いします!」とあいさつ。
これが引退試合開催の合図となり、まずは黒のダブルのスーツに赤と黒のロングガウン姿の内藤が入場。続いて、歴代入場テーマ曲メドレーから「HOLD OUT」のテーマ曲に乗って、大「武藤」コールの中、武藤敬司が長い花道を踏みしめるように入場。リングイン前には小走りになり、無言のうちに「ふとももの肉離れは問題ない」とアピールし、リングインした。

19時53分、運命のゴング。
序盤は武藤が得意とするグラウンドの攻防で、あっという間に5分が経過。ここから武藤はフラッシングエルボー、盟友・蝶野正洋の得意技STFと畳み掛ける。これに対し内藤は場外戦に持ち込むと、かつての武藤のお株を奪うように花道疾走から低空ドロップキック。リングに戻りメキシコ流のジャベ、羽根折り固めで武藤のスタミナを奪にいく。
内藤は非情な足攻めで武藤の動きを止め、リストをつかんで首筋でエルボー連打。しばし中腰のまま動けなくなった武藤だったが、亡き盟友、橋本真也が得意とした袈裟斬りチョップで反撃。天に向けてLOVEポーズを決めてからジャンピングDDTを放つと、場内は「橋本」コール。さらにエメラルドフロウジョンを決めると、「三沢」コールが巻き起こった。
盟友の力を借りて反撃に成功した武藤は、シャイニングウィザードからシュミット式バックブリーカーで内藤をマットに寝かせると、コーナーに上がり封印したはずのムーンサルトプレスを狙うが、これは発射を断念。悔しそうな表情を一瞬見せた武藤だったが攻撃の手は緩めず、串刺しシャイニングから内藤をコーナーに担ぎ上げて、かつて得意にした雪崩式フランケンシュタイナーを狙うが、これは内藤が回避。逆に膝裏へのドロップキックで撃墜した後、雪崩式エスペランサを決める。
これに対し武藤は向かってきた内藤に低空ドロップキックから、ドラゴンスクリュー、そして足4の字固め。95年10.9東京ドームでの伝説の髙田延彦戦で披露した得意技で勝負に出るが、内藤は悶絶しながら目を見開き雄叫びを上げて意地のロープブレイク。
脚のダメージが大きい内藤に対し、武藤はドラゴンスクリューからシャイニングウィザード。さらに延髄シャイニングを決めると、LOVEポーズから照準を定めてシャイニングを放つが、これはカウント2!
すると「シャイニングで決まらないなら、やはりこれしかない」とばかりに、武藤は一瞬天を見つめ覚悟を決めたような表情を浮かべると、ふたたびシュミット式バックブリーカーからコーナーに上りムーンサルトを狙うが、やはり断念。
この隙を突いて息を吹き返した内藤が、武藤のお株を奪うドラゴンスクリューからのシャイニング。そして足4の字固め。髙田戦で失われた必殺技だった足4の字固めをよみがえらせた武藤だが、その足4の字で追い込まれてしまう。
ここが勝負と見た内藤は、足4の字固めを解除すると延髄シャイニングから正調シャイニングという武藤の技でダメージを蓄積させ、ついにデスティーノを決めて3カウント奪取。かつて憧れた武藤敬司を見事に介錯してみせた。

試合後、内藤が拳を突き上げると、武藤もプロレスLOVEポーズの原型であるウルフサインを拳に合わせ、ガッチリと握手。武藤敬司の現役生活はこれにて終止符が打たれた。……と思われたが、マイクを握った武藤が引退の挨拶を行ったあと、突然「まだ自分で歩いて帰れるし、ちょっとエネルギーも残ってるし、まだ灰にもなってないわ」と語り出すと、「どうしてもやりたいことがひとつあるんだよ。蝶野!俺と闘え!カモン!」と、放送席でゲスト解説中の蝶野にまさかの対戦表明。
唖然とする蝶野だったが、ファンの大「蝶野」コールに押され、覚悟を決めてヘッドセットを外すと、場内に「FANTASTIC CITY」のテーマが流れ出す。これは1991年、記念すべき第1回「G1クライマックス」決勝で蝶野が武藤と対戦した当時に使用していた曲だ。
蝶野が杖をつきながらリングに上がり、ロングコートを脱ぎ、指輪とサングラスを外すと、レフェリーは武藤が指名したタイガー服部、実況は蝶野が指名した辻よしなりという、闘魂三銃士が大活躍した90年代黄金期の役者は揃った。長年腰と首を痛めていた蝶野は、2014年以来じつに9年ぶりのリング。これは武藤が望んでいた、デビュー戦を闘った同期にふたりによる事実上のW引退試合か。
試合はロックアップでスタートし、蝶野が武藤の顔面をかきむしり、胸板へのチョップでダウンさせると、ロープに飛んでシャイニング・ケンカキック! 杖なしでは歩けないはずの蝶野がリングで躍動する。そして一気に代名詞であるSTFを決めると、しばし耐えた武藤がマットを叩いてギブアップ。その直後、技を解いた蝶野は後ろから抱き締めるように覆いかぶさったまま、武藤の耳元で何か語りかけ、肩を叩いて労をねぎらった。
最後は武藤の若手時代の『ワールドプロレスリング』実況アナウンサーだった古舘伊知郎さんによるリング上からの詩の朗読を受けて、リングを去っていった武藤。そして自分の足でステージまで戻ると、惜別のラブポーズを決めて、39年にわたる現役生活を締め括った。
(C)プロレスリング・ノア
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