ロシア国営メディア「スプートニク」の現役日本人記者、日本の通信社の代表取締役、国際政治学者が激論 ウクライナ侵攻1年“SNS時代の情報戦”
【映像】日本人記者はなぜロシアの国営メディアに身を置くのか
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 センセーショナルな映像だったため、記憶している方も多いだろう。

【映像】ロシア国営テレビの元職員女性が生放送に割り込んだ瞬間(動画あり)

 2022年3月、ロシア国営テレビの元職員 マリーナ・オフシャンニコワ氏が生放送中に「戦争反対」「プロパガンダを信じないで」と書かれた紙をもって割り込んだ。

 彼女は拘束されるも、その後家族を連れてロシアを脱出したという。

 ロシアのウクライナ侵攻から1年。ロシアによる攻撃は全く収まっていないなか「情報戦」も熾烈を極めている。

 この記事では、ロシア国営メディア「スプートニク」の現役日本人記者、日本の通信社の代表取締役、そして慶應義塾大学教授で国際政治学者、この3者の『ABEMAヒルズ』における25分にも及ぶ白熱した議論の一部を掲載する。

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 まずはEUとアメリカの動きだ。

 ウクライナへの侵攻を正当するための情報操作を行なっているとして去年3月、EUはロシアの国営メディア「スプートニク」と「RT」の放送を中止。アメリカでは両メディアのフェイスブックやYouTubeも接続不可能にした。

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 いっぽうロシアはというと国内からの反発も強くなるなか、政府は軍・政府に批判的な報道を行うメディアを活動停止にできる法律を施行。

 法律では「虚偽」とみなした情報を報じた記者や個人に最大で15年の刑が科せられる。ロシアは徹底して情報統制を行なっているのだ。

 では、ロシアの「外」に向けた情報戦略はどうか。

「実はロシアは海外でメディアを作ったりと、宣伝にも熱心なのです」

 そう語るのは、JX通信社 代表取締役 米重克洋氏だ。

「ロシアは自分たちの立場をうまく伝えることに注力しています。例えば、ヨーロッパを拠点にしたとあるメディア。このメディアは平時はSNS上で災害・事故など衝撃的なニュース動画を発信しフォロワーを集めますが、どこかのタイミングで“ロシアの立場”を発信する存在に変わってしまうのです」(米重氏)

 実際のロシアメディアの現場はどのような状況なのか。

 ロシアに10年在住し、現在はロシア国営メディア「スプートニク」の記者である徳山あすか氏に聞いた。

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「私自身はこれまで日本メディアに取り上げられなかったロシアに光を当てることにやりがいを感じていました。以前はテーマの枠組みのなかで私の裁量に任されていた領域もあったのです。しかし現在は編集部の自主規制ではないですが、『前はこうしていたんだけど今は難しい』などさまざまな変化があります」(徳山氏)

 こう話す徳山氏はマリウポリに関する署名記事で、現地のボランティアの「1500人の民間人を殺したのはロシアではなく、ウクライナが自分でやったことだ」と綴っている。これは自身の見解ではないとしながらも「現場にはこのように思っている人がいます。生の声としてかぎかっこ付きでその方の見解を紹介することには意味があると思う」とコメントした。

 この言葉を受けた慶應義塾大学教授で国際政治学者の廣瀬陽子氏は

「言論の自由が侵害されているなかで発する情報を我々はどのようにみたらいいのか、悩ましいですね。徳山さんの視点で重要だと思われて出された記事にも意味はあると思いますが、そういった状況を知らない人が読むとそれが100%事実だ、と思ってしまう可能性もあります。一般に信じられている情報と徳山さんが書かれた記事、どちらが正しいのか。こういう見解もあるし、こんな見解もある、というバランス感覚がジャーナリズムには必要なのではないでしょうか?」

 と疑問を投げかけると徳山氏は

「それはむしろ読む方の考えによるのではないでしょうか。『スプートニク』はロシアの国営メディアと隠しているわけではなく、日本の大手メディアとは全く見解が異なります。読み比べることで『こういうことを言っている人もいるんだな』とわかります」

と回答。裏付けは取っているのか、という問いには

「例えばマリウポリについては、さまざまな目撃情報があり、中には『ウクライナ側が仕掛けた』『ロシアから攻撃してきた』と180度逆のことを言われることもあります。こうなると判断材料がありません。その場合、AさんBさん両方の言葉を書かなければいけません」

 これに対し、米重氏は

「裏付けのないものについては第三者の意見でも伝えない、というのがメディアの規範ではないでしょうか。Aさん、Bさんの意見が違っても、徳山さんはロシアの『ウクライナが自爆して、それをロシアのせいにした』という見解の記事を出されています。事実よりも意見を優先して、あまり裏付けが取れない情報でも出す、ある意味開き直り的なメディアのスタンスではないでしょうか?」

 という追求に徳山氏は

「その指摘は納得しかねます。先ほどの現地ボランティアの言葉はあくまでその方の見解をかぎかっこで書いています。現地の目撃者が何を見て何を感じたのか出すだけです。それを読み手の人が判断すれば」

 これまでのやり取りを受けて廣瀬陽子氏は 

「正しい状況判断を読む人に与えていくのがメディアの重要な役割です。今、フェイクニュースが溢れており、我々研究者が見ても本当かどうか迷うこともあります。一般の方だとさらに難しいでしょう。海外の情報もインターネットで簡単に手に入るなかで読者が『正しい情報を選んでいく力』を持つことも非常に重要かと思います」

 と締めくくった。

 ロシアのウクライナ侵攻から1年。メディアも読者も情報との向き合い方を問われている。


(「ABEMAヒルズ」より)

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