誰もが一度は「死」について、漠然とした不安を覚えたことがあるだろう。先月にTwitterでトレンドワードになったのが「死恐怖症」(タナトフォビア)だ。恐怖症といえば、高所や先端、閉所などが知られているが、死を異常に恐れてしまうとはどういうことなのか。
当事者の鈴木隆聖さん(23)。幼い頃から「死んだらどうなるんだろう?」と恐怖を覚え、毎日のように考えてしまうという。「電車をホームで待っている時に後ろから突き落とされることを妄想して怖くなったり、電車の音を聞いて轢かれるんじゃないか?とか。呼吸が落ち着かなくなってパニックになったりする」。
取材中、横断歩道の信号機から3メートル近く距離を取った状態でも、「車が近いのでもうちょっと内側にいたほうがいい」と話す鈴木さん。「マンホールの穴も怖い。自分でも支離滅裂なのはわかるが、スイッチが入ると怖くなってしまう」。何かの拍子に考え出すとあらゆるものから死を連想し、精神的に疲弊。外出を控えるようになり、行動範囲が狭まってしまうという。
ただ、家にいるからといって心が休まるわけではない。もっとも深く考えてしまうのが1人の時だ。「寝る時に意識が遠のいていく感覚がすごく怖い。眠りにつく寸前に起きてしまって寝られなくなることもある」。
恐怖を抱く理由は、死後が未知であることだという。「死んだ後にどうなるかがわからない。意識がどうなるのかとか、自分が生きている、見えている景色が見えなくなってしまうとか。何から何まで未知の世界であることが恐怖につながっている」。
■「目の前に死神がいる」恐怖を克服した方法
そもそも死恐怖症という病は存在するのか。また治療法はあるのか。精神科医のTomyさんによると、死に恐怖を抱くのは普通の感覚で、病気として診断できないという。また、何が怖いのかは当事者によって差があるほか、考え込んでしまう背景には不安障害や強迫性障害、うつ病、パニック障害が関わっている場合もあるという。治療法や対処法については、背景にある病気の薬で発作や症状を軽減したり、死よりも「どう生きるか?」を考えるようにカウンセリングを行うことだとした。
約6カ月をかけて回復したのが上坂さん(26)。自身の体験を次のように振り返る。
「ある日、お風呂からあがって体を拭いている時に、“今見ているこの光景もいずれ無くなって、こう考えている自分も無くなるんだ”と思ったら、急に怖くなってきた。死そのものは、避けられないという事実も含めて、一気に絶望したような感じ。細い路地の奥に追い込まれて目の前には死神がいる、または自分が崖にいるような感覚だ。料理をしたり読書をしたり、普通の生活を送っている中で時間の経過を感じることすらも怖くなってきて、布団にこもって“助けて!”と泣くような時もあった」
恐怖を克服するまでには、2段階あったという。
「まずは脳の集中を別のところへ逸らす。四六時中張りついている状態なので、YouTubeをずっと流し続けていた。とにかく音と映像を脳に詰め込んで注意散漫にする。あとは人と話したり、歩けそうなら1、2分だけでも散歩してみたり。死ではないことに無理やり意識を向けることで、“この10秒ぐらいは忘れていたかも”と思う瞬間が出てきた。それを積み重ねていった。
ある程度生活を戻したら、死や人生に対するいろんな人の解釈を調べて、“自分にとって死とは何なんだろう?”“人生とは何か?”といったものをゼロから定義し直していった。そうすると矛盾点や疑問点、納得できないことが出てきた。半年ぐらい自問自答を続けていたらあまり気にしなくなった」
そして、上坂さんはある結論に至ったという。
「私の場合は、“死んだらどうなるかわからない”というのが怖かった。自分が自分じゃなくなることのように考えていた。でも、裏を返せば、“自分という存在がある間は、自分から見た人生の中で死は存在していないのかな”と今は思っている。確かに死は存在するだけれども、自分の人生の中ではないものとして切り捨てている」(『ABEMA Prime』より)
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