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ボクシングの重岡兄弟にビッグチャンスが到来した。2人は4月16日、東京・代々木第二体育館で開催される「3150FIGHT vol.5」でともに世界タイトルマッチに出場することが決定。兄弟は6日に都内で開かれた記者会見で、チャンピオンベルトにかける熱い思いを口にした。

 古今東西、兄弟ボクサーや兄弟チャンピオンは少なからずいるが、兄弟が同じ階級で同じ日に世界タイトル獲得に挑むというケースは聞いたことがない。「こんなにうまく組まれるとは思わなかった」と驚いてみせたのは弟の銀次朗。タイミングが合ったのは1月の“アクシデント”が始まりだった。

 23歳の銀次朗は1月、2歳上の兄に先立つ形でIBF世界ミニマム級王者、ダニエル・バジャダレス(メキシコ)に挑戦した。弟は高校を出てすぐプロになり、兄は大学を経て(中退)からプロ入り。この差により弟が先に世界タイトルマッチのチャンスをつかんだのである。

銀次朗は世界初挑戦にも動じることなく、優勢に試合を進めた。ところが3回に偶然のバッティングで王者が耳を痛めてしまう。流血しているわけでもなく、試合はすぐに再開されると思いきや、バジャダレスが試合再開に応じる気配はなく、主審は試合の続行が不可能と判断。突然試合は終わり、無効試合という裁定が下ったのだ。

 納得のいかない銀次朗サイドはダイレクトリマッチをIBFに訴え、これが認められる見通しだった。ところがバジャダレスが耳のけがを理由に戦線離脱を表明し、銀次朗は元IBF王者、レネ・マーク・クアルト(フィリピン)と暫定王座決定戦を行うことになった。3150FIGHTの亀田興毅ファウンダーはIBFとやり取りをする一方で、WBC王者のパンヤ・プラダブスリ(タイ)営と交渉。優大との対戦を取り付け、こうした兄弟同時の世界王座挑戦が実現したのである。

 兄弟にしてみればついに悲願を達成するチャンスを己の拳でつかみ取ったという思いだろう。2人は物心ついたころから父親の指導を受けて空手に親しみ、のちにボクシングに転向して、ボクシング一筋の人生を送ってきた。「人生をかけてきた」という優大の言葉は決して大げさではない。

 小学生時代から父親の指導は容赦がなかった。学校が終わると道場やジムへ行き、終わったら自宅の車庫で練習を続けた。同級生が楽しそうに遊んでいるのを尻目に、泣きながらトレーニングに励むことも一度や二度ではない。中学時代は熱が入るあまり、スパーリングで互いに頭突きを見舞いあって、頭から血を流しながら練習を続けたこともあった。

 優大曰く「オレたちがチャンピオンになれなかったら誰がなるんだって兄弟で話していた」というからすさまじい。こうした努力は報われ、高校時代は優大が4回、銀次朗が5回の全国優勝を経験。プロではともに無敗のまま、そろって日本王座とWBOアジアパシフィック王座を獲得した。「結果が出たから何とかやってこられた。そうじゃなかったら辞めていたかもしれない」と振り返るのは銀次朗だ。

 そんな兄弟の世界タイトルマッチを手がけるのが亀田3兄弟として注目を集め、兄弟3人とも世界チャンピオンとなった亀田ファウンダーというのも何かの縁だろう。「3150FIGHT」の東京進出第1弾で重岡兄弟をメインに据えた亀田ファウンダーは「ボクシングの新たな歴史ができると思う」と大きな期待を寄せた。

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 さて、チャンスを手にした両選手はベルトを獲得できるのだろうか。銀次朗が対戦するクアルトはバジャダレスが2-1判定でベルトを奪った元王者。銀次朗はバジャダレス戦で3回途中までリードしていたから、それに負けているクアルトは敵ではない――となるかと言えば、三段論法が通じないのがボクシングの面白いところである。

 銀次朗はクアルトを「正直言ってバジャダレスよりもいい選手。たぶん気持ちが強いし、パンチ力もあって、どんどん前に出てくる選手」となかなか警戒している。その上で「どんな倒し方ができるのか楽しみにしている」と話した。スピードがあって足も使える銀次朗が前に出てくるクアルトにどうやって強打を打ち込むのか。その口ぶりからは既にイメージができているように感じられた。

 一方、優大が挑戦するパンヤは40戦39勝(23KO)1敗という戦績が示すように、6戦6勝(4KO)の優大とは比べものにならないくらいのキャリアを持つ実力者であり、試合巧者でもある。しかし、優大は「キャリア関係ない。僕と弟は格闘技を始めて20年」と語り、経験の差という指摘を一蹴した。

チャンピオンの実力を「普通っす。ボチボチの選手」と言ってのけ、試合の予想を聞かれると「ワンパンフィニッシュです」と一撃KOを宣言した。ビッグマウスと荒々しい攻撃スタイルは優大の代名詞。このボクサーは試合を盛り上げることも自分の仕事だと自覚しているのだ。

 決戦の日となった4月16日は兄弟にとって特別な日であることにも触れておきたい。2016年のこの日、兄弟の故郷である熊本は大きな地震に襲われた。273人の犠牲者を出した大地震で、銀次朗は家族とともに罹災した。自宅は水も電気も止まって風呂にも入れず、1週間の車中生活を余儀なくされた。

 東京の大学に進学していた優大はすぐさま福岡行きの飛行機に乗り、福岡で買えるだけの水を買い集め、救援物資を車に詰めて福岡に乗り込んだ。あれから7年が経つが、熊本の人たちが4月16日を忘れたことはない。「自分たちの活躍が少しでも熊本の人たちの笑顔につながれば」。故郷はいつだって兄弟の心を支えているのだ。

 銀次朗と優大はさまざまな思いを胸に決戦のリングに立つ。この試合に勝利した先には、重岡兄弟でミニマム級の4団体王座を独占するという野望も抱いている。実現すればもちろん史上初の快挙。大志を抱く重岡兄弟が踏み出す大きな一歩に期待が集まる。

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