将棋の順位戦A級プレーオフが3月8日、東京・将棋会館で行われ、藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、20)が広瀬章人八段(36)に勝利し、自身初の名人挑戦を決めた。タイトルホルダーは渡辺明名人(棋王、38)。藤井竜王にとっては、史上最年少名人獲得の記録更新に挑むシリーズとなる。注目の七番勝負は、4月5日に東京都文京区の「ホテル椿山荘東京」で開幕する。
若き絶対王者が、歴史と伝統を誇る名人位のタイトル獲得へ初挑戦する。第76期C級2組の参戦から6期目の今期、A級初参戦となった藤井竜王は、トップ棋士10人の総当たり戦のリーグを7勝2敗で駆け抜けた。最終戦を終えた時点で広瀬八段と同星に並び、挑戦権争いはプレーオフへともつれ込んだ。
両者は、昨秋から冬にまたいで行われた前期の竜王戦七番勝負でも対戦。4勝2敗で藤井竜王が初防衛を飾ったが、広瀬八段が入念な序盤研究をぶつけて藤井竜王に初めて“第6局”を経験させたことも記憶に新しい。決着局となった竜王戦第6局以来の手合いとなる本局では、振り駒の藤井竜王が先手番を握り、「角換わり」の出だしとなった。本局でも後手の広瀬八段が序盤で未知の局面に誘導したと見られたが、両者とも研究済みとばかりに速いペースで進行。藤井竜王が攻勢に出てペースを握った。
力と力のぶつかり合いとなった超難解な中盤戦では、広瀬八段が反撃に回り形勢はほぼ互角。夜戦突入後も一進一退の激しい攻防が繰り広げられた。藤井竜王はじわじわとポイントを積み重ねてリードを広げたが、広瀬八段も簡単には譲らない。しかし、最後まで強気に攻め切った藤井竜王が押し切り、待望の勝利を手にした。
厳しいA級リーグ戦とプレーオフ全10局を戦い抜き、念願の挑戦権を獲得。藤井竜王は、「そのことを意識するという感じではないですが、名人戦ですと持ち時間9時間で一番持ち時間が長い対局になるので、その中でしっかり良いパフォーマンスが出せるように頑張りたい」と健闘を誓った。一方、3度目のプレーオフ進出も、初挑戦を逃した広瀬八段は、「今の自分で(リーグ)7勝2敗は出来すぎ。少し届かなかったところがあるので、今後の課題にしたい」と今後の飛躍を期した。
棋王戦五番勝負でも対戦中の渡辺名人と藤井竜王が、冬から春へと季節をまたぎ再び激突する。現在の名人位獲得最年少記録は、1983年に谷川浩司十七世名人(60)が打ち立てた21歳2カ月。挑戦権獲得から奪取へ、7月が誕生日の藤井竜王にとっては今期が記録更新最後のチャンスとなっている。藤井竜王は、「対局に臨むにあたって(記録を)全く意識することはないが、谷川先生の記録にチャレンジできるのは光栄なことだと思うので、精いっぱい頑張りたいと思います」と意気込みを語った。
現在、王将戦七番勝負と棋王戦五番勝負のダブルタイトル戦に挑んでいる藤井竜王は、それぞれ防衛と奪取に王手をかけており、六冠は目前に迫っている。さらに名人挑戦を決めたことにより、“七冠”獲得も視野に入ってきた。ハードスケジュールが最大の難敵とも言えるが、「その方が状態を保ったまま次の対局に臨みやすいところはある。自分としても良い状態で臨めているのかなという感触は持っている」とどこ吹く風。最年少名人と、羽生善治九段(52)に並ぶ“七冠”獲りへ、期待は高まるばかりだ。
注目の七番勝負は、4月5日に東京都文京区の「ホテル椿山荘東京」で開幕する。
◆藤井 聡太(ふじい・そうた) 2002年7月19日、愛知県瀬戸市出身。中学2年生時の2016年10月に史上最年少で四段昇段、史上5人目の中学生棋士となる。2020年度の第91期棋聖戦でタイトル初挑戦。渡辺明棋聖(当時)を破り、17歳11カ月で最年少タイトルホルダーとなった。以降獲得と防衛を重ねて、竜王2期、王位3期、叡王2期、王将1期、棋聖3期の通算11期。棋戦優勝は8回。通算成績は314勝63敗、勝率は0.8328。趣味は鉄道、チェス。
(ABEMA/将棋チャンネルより)