間島博英さん(41)は7年前、養子縁組のために大阪から縁もゆかりもない、新潟県柏崎市へ移住した。
養子縁組といえば、男手の跡継ぎなどを目的に花婿や親族を養子に迎えるのが一般的だが、間島さんは面識のない高齢夫婦と親子関係になった。
「大人養子」と銘打って、マッチング事業をおこなう伊達蝶江子氏のもとには、養子になりたい若い世代から相談のメールが届く。財産を相続し起業したいと夢を持つ人、親から虐待を受け新たな家族を望む人など、理由はさまざまだ。
一方で高齢者の側には「お金はあるけれど、子どもがいない」という背景があり、温かい家族を夢見て、養親になることを希望する人が多いという。
間島さんは、有名企業に勤務していたものの、挫折を味わい思い悩んでいた時に、伊達氏から70代夫婦との縁組を持ちかけられた。行政書士を目指していたなか、事前に約束した「アルバイトで足りない部分の援助」を受けて資格を取得し、事務所も開設。養子縁組をきっかけに、新たな人生を歩むことができた。
大人同士の養子縁組は、新しい家族の形になり得るのだろうか。「ABEMA Prime」では、異なる経験を持つ当事者とともに考えた。
まず養子縁組には近年、どのような傾向があるのだろうか?
伊達氏は「老夫婦からの相談がよく入るようになった。少子高齢化につながる重要な話ではないかということで、ニーズがあって始めたというのが一番近い」と、事業開始の経緯を説明。
縁組を希望する人については、「比率は若い人が6、高齢の方が4ぐらい。マッチングのバランスとしては若い人の方が多い」という。
では、養親側からはどのような要望があるのか?
間島さんは、「養親は姓を残したいという強い願望がある2人で、柏崎市内にある畑や田んぼ、山、お墓を継承してほしいと。その願いは一番言われた」と語る。
今後も姓を継いでいくには自身も子どもを持つ必要があるが、「子どもを作るのか。もしくは養子をとるか」という話し合いも実際にあったという。
また、間島さんの場合、実の両親にも相談していて「悩んでいるなかで、変わるきっかけになるんだったらいいのでは」と後押しがあったという。「今は親が4人いるような感じ」と語るが、実親の「姓」は継げないものの、両方の親の財産は継ぐことができる。
ただ、このように上手くいくケースばかりではない。
3年前、夫と一緒に80代の夫婦と養子縁組をしたAさん(40代)は、半年ほど前に「違う名字に耐えられない」と夫が縁組を解消し、現在はAさんのみが養子に残る形に。
家族になることが決まったあとに「養親の名字を継いだ孫が欲しい。孫のためなら財産を全部相続する」という養親の思いが判明。結果的にお互いが意図しない形になったという。
Aさんは、「夫には旧姓を通称として使うことも提案したが、職場が旧姓使用を認めていなかった。名字に慣れず、自分が自分でない感じもして、かなり悩んだようだ」と、当時を振り返る。
そもそも夫婦で養子に入ったのは、「共働きをすれば生活はできるが、夫の所得もそんなに高くはなかった。2人でそれを続けるよりも、財産を分与してもらえるのであれば、家や老後、子どもを授かった時の教育費などの面で安心だと思った」という経緯だった。
夫が元の名字に戻ったことで、婚姻関係にあるAさんも元の名字に戻ったが、今も夫婦は養親の近くに住んでいるという複雑な状況だ。
このようにさまざまなケースがあるが、養子縁組といえば遺産相続も大きなテーマのひとつ。
相続人がいない人の遺産は国が引き取ることになっているが、2021年に国庫帰属となった相続財産は過去最高の647億円にも達している。
伊達氏は「遺産が現役世代に回ることはすごく重要。結婚と一緒で、養子縁組はうまくいく例ももちろんある。そのなかで若い子に夢と希望を与え、例えば起業するなど、日本の国力になったらいいのでは」と述べた。
とはいえ、自身の著書に「養子縁組は婚活の10倍難しい」と書いている伊達氏は、「若い人の結婚で同年代なら理解しやすいが、70代と20代となると時代の相違があって難しい」と、養子縁組の難しさを指摘する。
実際にAさんの例では、「契約書は交わしておらず、覚書のような」状態になっていて、夫が抜けるときは「すごく揉めた」という。
それでも“大人の養子”は、人生を変えるきっかけになるなど、新しい家族の形として可能性も秘めている。
「本当にこれがないと僕の人生はどうなっていたかわからなかった。養子縁組はありがたかったし、本当に4人の両親がいる感じになっている」という間島さんは、「実親もだいぶ歳を取ってきたので、いずれは逆に新潟に来てもらおうかなと思っている」と、将来の展望を語る。
伊達氏は、“大人養子”の可能性を次のように総括した。
「今、40代で子どもがいない人が多い。これが20年後、自分たちが60歳、70歳になったときに間島さんみたいな素晴らしい人が子どもになってくれる可能性は希望につながるのではないか。今、“子なし”ということがよくSNSで出ているが、日本の国の力になると思う」
(「ABEMA Prime」より)
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