多くのサポーターが、三笘薫がビッグクラブのユニフォームを着て、世界一の選手になることを望んでいる。たしかに、三笘のプレーとスタッツを見れば、ビッグクラブへのステップアップに値する成績を残していると言える。
しかし、移籍の成否は、選手の能力だけでなく、移籍先のチーム状況がカギを握る。その点では、三笘の適正な移籍時期は今夏(今季終了後)ではない...。その理由を考察する。
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三笘薫「こんなにいい環境はない」
第一に、現在プレーしているブライトンは、三笘にとって最高にプレーしやすい環境だということだ。ボールを保持して相手陣内深くに押し込むとなると、どうしてもスペースが消されて攻めあぐねてしまうが、ブライトンの場合は最終ラインやボランチの選手がダイレクトでパスを回しながら相手を前に釣り出す。いわゆる「疑似カウンター」と呼ばれる戦術だ。前に釣り出したタイミングで、三笘は背後を取る動きや数的優位となった状況でのドリブル突破など “崩し”の一手の役割を担っている。このアクションに対してロベルト・デ・ゼルビ監督から三笘への信頼度はかなり高い。
『SPOTV』の独占インタビューを受けた三笘は、「ブライトンのサッカーは楽しいですか?」という質問に対して、「こんなにいい環境はないなと思う」と発言。続けて「ポゼッションもカウンターもできて、自分自身がストレスなくサッカーができることはなかなかない。すごく素晴らしい環境でプレーさせてもらっている」と、ブライトンでのプレー環境に充実を感じている様子だった。
三笘薫は“ビッグ6”にハマるのか
移籍を成功させるには、移籍先のチーム状況が重要な要素となる。今回はプレミアリーグにおける“ビッグ6”と呼ばれる強豪クラブの現在の状況を見てみよう。
チェルシーとトッテナムは現在、暫定監督の下での戦いとなっており、次期監督が誰になるかによってほしいタレントは変わってきそうだ。この2クラブに関しては不確定要素が多いため、今回は移籍先の選択肢から外して考えていく。
それ以外の4クラブの左WGを見ると、どこのクラブも核となるレギュラーがいる。
現在リーグ首位を走るアーセナルでは、ガブリエウ・マルティネッリという絶対的な選手がプレーしている。このブラジル代表FWは現在21歳であり、25歳の三笘を獲得してまで出場機会を減らすことは考えにくい。また三笘の元同僚であるレアンドロ・トロサールが、最前線であればどのポジションでもプレーできるという役割を担っているため、選手層にも不安はない。そう考えると、三笘のアーセナル移籍は現実的ではなさそうだ。
2位のマンチェスター・シティにはジャック・グリーリッシュとフィル・フォーデンという2人のイングランド人選手がいる。シティはブライトン以上にボールを保持するクラブであり、基本的には相手チームを敵陣奥深くに押し込んでいる。こうした状況で避けたいのがカウンターだ。そのためWGには圧倒的なボールキープ力を求められており、こうしたタスクをグリーリッシュ以上にうまくこなせる選手はなかなか見当たらない。
また、敵陣深い位置でプレーすることが多いため、突破力が活きるスペースも少なく、ブライトンとは対照的に左WBがオーバーラップすることは戦術的にもない。こうした環境の違いを考えると、選手層的にも戦術的にもブライトンのほうがプレーしやすそうだ。
マンチェスター・ユナイテッドには背番号10のエース、マーカス・ラッシュフォードが君臨している。リヴァプールにもルイス・ディアス、ダルウィン・ヌニェス、コーディ・ガクポ、ディオゴ・ジョタと左WGでプレーできる選手が多く、いずれもこのポジションが補強ポイントではなく、それよりもむしろ中盤の補強が急務とされている。
「今夏」が適正な移籍時期ではない
以上を踏まえると、直近でのプレミアリーグ内でのステップアップはあまりお勧めできない。仮に、ブライトンが下位に沈むようなクラブであればクラブを移る選択肢もあるかもしれないが、現在7位と来季のヨーロッパ大会の出場権を獲得する可能性も十分にある。となれば、急いで移籍する必要性はないだろう。
ブライトンは三笘のキャリアにおける最終目的地ではないはずだ。ただ、三笘はデ・ゼルビ監督から「多くのことを吸収できている」と語っており、ブライトンでも多くのプレーや戦術を学び、レベルアップすることができている。
今後、自分自身をさらに成長させるために、名将が率いるビッグクラブやUEFAチャンピオンズリーグでのプレーを希望することがあるかもしれない。そのタイミングで、さらにレベルの高い環境に身を置くことを選択するのではないだろうか。
ビッグクラブでのプレーが必ずしも成長につながるとは限らない。ブライトンで急速に成長できている、三笘の移籍時期は今ではない──。
文:安洋一郎 (ABEMA/プレミアリーグ)(c)aflo