兄弟で同時世界チャンピオン誕生を目指す重岡優大、銀次朗(ワタナベ)兄弟の世界タイトルマッチがいよいよ目前に迫った。両選手は16日、東京・代々木第二体育館で開催される「3150FIGHT.vol4」で人生をかけた大一番に挑む。
何が起きるか分からないのが3150FIGHT――。
大会を主宰する亀田興毅ファウンダーの言葉通り、重岡兄弟が世界戦の舞台に上がるまでの道のりはアクシデントの連続だった。
始まりは1月だった。銀次朗がIBFミニマム級王者のダニエル・バラダレス(メキシコ)に挑戦した世界タイトルマッチがまさかの無効試合に終わった。第3ラウンド、偶然のバッティングによりダメージを受けたバラダレスが試合の続行に応じられなかったのだ。3150FIGHT初の世界戦が思わぬ消化不良の結末を迎え、銀次朗は茫然自失、亀田ファウンダーは頭を抱えた。
それでもIBFが事情を考慮して4月に再戦という流れができ、銀次朗も関係者も一度は胸をなで下ろした。ところがバラダレスから「けがが回復せず、出場できない」との連絡が入り、銀次朗が希望していたダイレクトリマッチは消滅。試合はレネ・マーク・クアルト(フィリピン)との暫定王座決定戦として開催されることになった。
そして試合まで二週間を切った4月3日、今度は優大に試練が襲いかかった。対戦予定だったWBCミニマム級王者、パンヤ・プラダブスリ(タイ)がインフルエンザを患い、急きょ来日できなくなったのだ。この大ピンチに亀田ファウンダーの動きは早かった。
試合のできそうな世界ランカーをピックアップし、脈がありそうな相手とすぐさま対戦交渉に入った。亀田ファウンダーはニューヨークまで出かけ、10日には元WBO王者のウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)を連れて帰ってきた。羽田空港で亀田ファウンダーは「どんなもんじゃい!」と胸を張った。
「世界戦を決めることはプロモーターとしての仕事。途中で不安になったし、なんでこんなことばっかり起きるのかなとも思った。でも、神は乗り越えられない試練は与えない。チャンピオン側が試合をできない、というのはそれだけ重岡兄弟が強いということだと思う。彼らの実力が16日に披露されると思う」
こうしてすったもんだの末、優大がWBCで、銀次朗のIBFで、前代未聞の兄弟による“ダブル暫定王座決定戦”が組まれたのである。
試合が確定したとはいえ安心してはいられない。クアルトもメンデスも元世界王者であり、重岡兄弟にとっては間違いなく強敵だろう。中でも直前で対戦相手の変更を余儀なくされた優大のミッションはより難易度が増したと言えそうだ。
パンヤがオーソドックス・スタイルだったのに対し、メンデスはサウスポー・スタイル。ずっと右構えの選手とスパーリングを積んできた優大は難しい対応を迫られることになる。急きょ代打に指名されたメンデスは調整具合が心配されるが、来日したプエルトリコ人の表情は自信にみなぎっていた。
「世界ランカーとしていつ試合が来ても大丈夫なように準備していたので問題ない。前回(21年12月の谷口将隆戦)はパンデミックでホテルに缶詰にされて、サンドバッグにジャブを打つくらいしかできなかった。十分な練習ができなかった。今回は外出もできてジムにも行けて万全の準備もできる。コンディションはいい」
メンデスは谷口に11回TKO負けでベルトを失ったが、今回はそのときよりも試合前の練習環境が断然いいという。メンデスが精神的にも、肉体的にも谷口戦よりいい状態であることは間違いなさそうだ。
試合に向けては「経験の差をいかしたい」とはっきり口にした。プロ6戦6勝(4KO)で世界初挑戦の優大に対し、メンデスは20戦18勝6KO2敗で世界タイトルマッチは今回で5試合目。パワーと勢は優大に分があると思われるが、メンデスのキャリアは確かに侮れないだろう。
優大は対戦相手の変更を受け入れ、メンデスとの暫定王座決定戦に一切文句をつけず、「この時期に試合を受けるのは勇気のいることだと思う。敬意を持ってぶっ倒しにいく」と力強くKO宣言した。奇しくも16日は優大の26歳のバースデー。弟と一緒にベルトを手にするためにも、絶対に負けられない夜となる。