まさかの幕切れには、棋士も視聴者も驚くことしかできなかった。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Aリーグ第2試合、チーム永瀬とチーム稲葉の対戦が4月22日に放送された。第2局はチーム永瀬が本田奎五段(25)、チーム稲葉が出口若武六段(27)による対戦だったが、詰むや詰まざるやの大熱戦は予想外の決着。視聴者からは「なんてこった」「フィッシャー怖い」と、驚きの声が大量に集まった。
出口六段に本田五段、いずれもタイトル挑戦経験がある実力者で、ABEMAトーナメントでも若さと勢い、研究の深さなどを見せている。特に出口六段は昨年、稲葉陽八段(34)、服部慎一郎六段(23)とのチームで初優勝。今大会は同一メンバーで初の連覇を目指している。
対局は本田五段の先手番から、プロの将棋界では大流行中の角換わりからスタート。本田五段が早い段階から工夫を見せたが、出口六段も難しい手順にしっかり対応。形勢互角のまま中盤を指しこなすと、終盤に入ったところでは逆に出口六段がリード、さらに勝勢にまで傾けた。
驚きの事態が待っていたのは、両者の残り時間がほぼ尽きかけた最終盤だ。本田五段は「最後ははっきり負けな局面」だったものの、勝勢だった出口六段は「最後はもう勝ちかどうか自分ではよくわからなかった」とパニック状態。すると「ピッ、ピッ」と刻まれるチェスクロック音に追い立てられたか、残り2秒、もしくは1秒のところで手にしていた角を落としてしまい、指し手を示すことも不可能に。切れ負けだけは避けようとしたのか、残り1秒を切ったところで咄嗟に「負けました」と投了を告げた。
最終局面では出口六段が詰まし切れず、勝ちを逃したようにも見えたところ。控室で見ていた永瀬拓矢王座(30)は「詰みがないですか」と冷静なコメントだったが、出口六段のチームメイト・服部六段は「駒、落としたんですか…」と切れ負けしたかと思い呆然。出口六段本人も「最後、変な終わり方にしてしまって申し訳ないです」と反省していた。
棋士の投了といえば、公式戦ならじっくりタイミングをはかって「参りました」「負けました」とゆっくり頭を下げるのが一般的なところだが、切れ負け寸前に起きたハプニング的投了に、ファンからも「まさかの駒落ち投了」「逆転につぐ逆転」「これは悔しいね」とコメントが止まらなかった。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)