日本初の4階級制覇王者、井岡一翔(志成)が6月24日、東京・大田区総合体育館でWBA世界スーパーフライ級王者のジョシュア・フランコ(米)に挑戦することになった。両者は昨年大みそか、井岡が保持していたWBOタイトルもかけた2団体統一戦でドロー。ダイレクトリマッチにかける井岡の思い、そしてその先に見据えるものとは――。

 4月24日、都内で開かれた記者会見で井岡は次のように切り出した。

「自分自身が一番望んでいた試合が決まったので、気合いが入ってますし、うれしく思います。(大みそかの試合を終えて)自分の中では防衛戦をするのか、王座を返上してフランコと再戦するのかという選択肢の中で、もう一度彼と決着をつけてチャンピオンになることが一番の形だと思う。自分がまた挑戦してチャンピオンになる姿をお見せしたいと思います」

 少し説明が必要だろう。井岡は大みそかの統一戦の前から、WBOスーパーフライ級1位にランクされた前WBOフライ級王者、中谷潤人(M.T)との指名防衛戦を指令されていた。中谷か、フランコか。会見では口にしなかったが、井岡が真に対戦を望む相手はこの2人ではない。揺るぎなきターゲットはWBC王者のフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)。つまり正確に言うと、フランコは現時点において「エストラーダの次にやりたい相手」ということになる。

 井岡は2017年に引退表明、翌年のカムバックにあたりスーパーフライ級の第一人者で、世界的にも評価の高いエストラーダを標的に定めた。WBO王座を獲得したのは、日本選手初の4階級制覇という勲章を手に入れるためではあったが、一方でベルトを保持することでエストラーダとの試合に近づく狙いも同じくらい意味があった。

 井岡は粘り強く指名試合をこなしながら、エストラーダ戦が実現するのを待ち続けた。昨年大みそか、6度目の防衛戦ではエストラーダがメキシコから来日してリングサイドで観戦。井岡の思いは届くかとも思われたが……。

「もうすぐそこまで来ているというのはあるんです。前回の試合がドローでベルトは守ったから、次はエストラーダという思いがありました。結局、いろいろな事情で実現しなかったですけど、自分の頭には常にエストラーダがあって、どうやったら彼と試合できるかということを一番に考えています。だから今回もフランコと決着をつけて、その次はエストラーダだと思っています」

 2012年に初めて世界チャンピオンとなり、10年以上世界のトップで戦い続け、日本人初の4階級制覇を成し遂げた井岡も34歳。残された時間はそうたっぷりあるわけではない。「ここまできたら自分のやりたい試合がしたい。ベルトは関係ない」。これが井岡の執念だ。もちろん多くのベルトを獲得してきたから王者だからこそ言えるセリフでもあるだろう。

 譲れない標的に迫るためにもフランコとのダイレクトリマッチは勝利が求められる。前回の試合のジャッジは115-113でフランコ、残る2人が114-114で決着はつかなかった。旺盛な手数で攻勢をアピールしたのがフランコ、持ち前のポジショニングとディフェンス力で試合を組み立てたのが井岡という構図で、見方によってスコアが分かれる内容だった。

 井岡は第1戦を次のように語る。

「チームを含めて自分はあの試合のパフォーマンスに満足しています。インターバルごとにセコンドと『これでいい』と確認してプラン通りに試合を運べました。反省があるとすれば『勝ってる』と思ってしまったことですね。それがパフォーマンスに出たかは分からないけど、気持ちが緩んだところはあったかもしれない。一方でフランコの気持ちとスタミナ、あのボクシングを12ラウンド続けてきたのは想像以上でした」

 いずれにせよ、井岡とフランコがそろって認めるように前回の試合が接戦だったことは間違いない。それで決着がつかなかったのだから、今回は両者とも「より明白な形で勝つ」がテーマになる。通算33戦目、世界戦は日本人歴代最多の24戦目を迎える井岡は次のように決意表明した。

「見せなくちゃいけないのは僕の進化でしょう。口で言うのは簡単ですけど、それを実際にやるには相当の覚悟が必要だと思います。でも、気持ち的にはこれまでにないくらいの材料がそろっています。見せなくちゃいけないですけど、見せる自信はあるんです」

 元2階級制覇王者、1990年代のスター選手である井岡弘樹さんを叔父に持ち、デビューから注目を集める中、井岡は不屈の闘志で何度も、何度も、ファンの期待に応えてきた。同時に負けも、引退も経験し、身に覚えのないスキャンダルにも巻き込まれ、それでも真っ直ぐ前を見て歩み続けてきた。

 キャリアも終盤に入り、目標とするエストラーダを引きずり出すまで足踏みするわけにはいかない。己のプライドのために、支えてくるファンのために、井岡一翔は戦い続ける。今月中にはキューバの名将、イスマエル・サラス・トレーナーの待つラスベガスに飛び、フランコ戦に向けトレーニングのピッチを上げる予定だ。

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