番組スタッフが向かったのは、埼玉県桶川市にあるヘリポート。スタンバイされていたのは「Bell 505 Jet Ranger X」、5人乗りの中型ヘリだ。取材の目的は、ヘリコプターという乗り物の特性、飛び方、そしてエマージェンシーに対する安全性とどう危機を回避するかを、実際に確かめること。
4月6日午後3時56分、陸上自衛隊のヘリが消息を絶った。沖縄の宮古島分屯基地を離陸した「UH-60JA」に乗っていたのは、陸上自衛隊第8師団第8飛行隊。九州と沖縄を管轄する中核となる部隊だ。ヘリには坂本雄一陸将を含む10人が搭乗。21日までに6人が見つかり、その中には坂本陸将の名前も。行方不明となっている4人の捜索を続けている。
「そんなに低くもないし、高くもない。違和感のある高度ではない」
高度200mあたりを飛びながらこう話すのは、パイロット歴35年、雄飛航空株式会社の山本哲朗さん(以下、同)。一方の陸自ヘリが消息を絶つ前に飛んでいたとされる高度は150m。これは法律で決められたギリギリの高さだ。
ヘリはメインローターと呼ばれる大きなプロペラで上下左右前後の動き、後部のテールローターと呼ばれる小さなプロペラでバランスをとったり旋回をしている。それを「サイクリック・スティック」(進行方向の調整)、「ラダー・ペダル」(機体の向きの調整)、「コレクティブ・レバー」(揚力の調整)の3つで操作するのだ。山本さんによると「慣れればMT車を運転する感覚とほぼ変わらない」という。
「UH-60JA」多用途ヘリはエンジンを2つ積み、パワーと安定感があると言われ、災害現場でも活躍。また、ヘリはエンジンが突然停止しても、メインローターとテールローターはともに止まらない構造になっているという。ローターが回っていれば機体が浮く力は働いているため、急に落ちることはないそうだ。
事故機はSOSを出して脱出する猶予もなく海底に沈んでいったのか。現在明らかにされている情報で考えられる事故原因について、山本さんにフライトシミュレーターで当時の現場の状況を再現してもらった。
4月6日16時ごろの気象は「どちらかというと良い条件」と山本さん。宮古島を離陸し、数分で事故現場上空へ。起こりうる可能性の1つ目がエンジントラブルだ。
「エンジンが止まって音がなくなった。回転系は0になっている」
その状態から、ローターを使って自然降下するオートローテションという降り方で着水へ。
「……今海の上に降りた。航空機は空気をはらんでいて、きれいに降りてあげれば機体はそんなに壊れないし、その後けっこう長く浮いていると思う。エンジンが止まっただけなら比較的安全に降りられる。どの機体もそうだ」
起こりうる可能性の2つ目がパイロットの操作ミス。
「高度を下げて、わざとデッチング(衝突)してみる。高度がどんどん落ちているが、洋上がベタ凪だとよくわからない。もうちょっとで海面にぶち当たってしまう」
横で体験する番組ディレクターは「もうそんなに低いんですか?」と驚くが、これが「空間識失調」と呼ばれるパニック障害の1つ。海上など対象物がない場所を飛行している際、自分がどの高度や位置にいるのかわからなくなる。特に霞がかかったベタ凪の際には起こりやすいという。
ABEMA NEWS政治担当の今野忍記者は、政府関係者の話として「米軍だって使っている信用の高いヘリ。空間識失調といっても2人同時に起こすなんて万に一つだ。パイロットが2人乗っていて、普通は管制塔と無線で常時やり取りしている。なのに緊急信号も出せないほどの緊急事態が起こったとしか考えられない」としている。
さらに、事故機に詳しい元航空自衛官とコンタクトをとることができた。同型のヘリに1000時間以上の搭乗経験があるという元自衛官YouTuberのAkikinn氏は「人為的ミスか何らかの操作ミス、見誤りの可能性があるのではないか」と話す。
また、残る4人の捜索については厳しい見方を示した。
「キャビンドアが破損するとトンネルみたいになって水がガバッと入ってくる。そうなると当然、後ろに乗っている5人は流されやすい。同型機の浜松の事故で私の仲間が亡くなり、1人はまだ見つかっていないが、やはり後ろで作業員をやっていた。特に航空自衛隊の救難の部隊なので、水没してしまった場合を想定して、携帯ボンベをつけて空気を確保して外に出るようなイメージトレーニングも含めてやってきたが、(水深)3~5m過ぎたらすごい勢いで吸い込まれるように落ちていく。“潜水墜落”という表現もしたりする。(機体が発見された水深)100mから脱出して上がれるかというと、無情だがかなり厳しい状況」
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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