優勝チームの強さは、勢いだけのものではなかった。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Aリーグ第3試合が4月29日に放送された。チーム豊島とチーム稲葉による実力者同士の対戦は、互いに一歩も譲らぬ大激戦を展開。負ければ予選敗退のチーム豊島が前半戦で星を集めたが、最後はチーム稲葉が3連勝を飾り、フルセットの激闘から5勝4敗で勝利を飾った。前回優勝のチーム稲葉が、強豪揃いの予選Aリーグで堂々首位通過を決めた。
第1局には、チームの元気印・服部慎一郎六段(23)が登板。予選通過のために絶対に負けられないチーム豊島からは、早々に豊島将之九段(33)が登場した。角換わり早繰り銀の一局は豊島九段の豊富な経験が光り、服部六段の勢いを封じる勝負術で圧倒。最後は▲2九飛から押しきられ、手痛い黒星発進となった。しかし、初戦の一敗でへこたれるチームではない。すぐに気持ちを切り替えると、出口若武六段(28)が連投した豊島九段から星を取り返して見せた。
第3、4局では、チーム豊島から木村一基九段(49)が連投。出口六段、稲葉八段が続けて敗れ、1勝3敗と苦しい星取りとなった。続く第5局では、再び服部六段が登場。池永天志五段(30)との攻め合いを受け切って白星を奪い、連敗の悪い流れを断ち切った。「連投がこのチームのカラー」と稲葉八段に背中を押され、第6局では服部六段が続投。しかし、敵将・豊島九段との再戦でまたしても持ち味を封じられて連勝を飾ることは出来なかった。
2勝4敗と後がなくなったチーム稲葉は、「ここで出なければリーダーの意味がない」と稲葉八段が立ち上がった。相手にとっても予選突破に望みをつなげるため絶対に負けられない勝負所。これまで個人で5戦4勝と好調の木村九段と再戦に向かった。第4局では逆転負けを喫しただけ借りを返したい稲葉八段は、相掛かりの一局に「ここを乗り越えないと上には行けない」と奮起。今度は絶対に譲らない、と気迫をみなぎらせて勝利をもぎ取った。
この一勝で予選突破が決まったチーム稲葉だったが、前年優勝のプライドをかけて1位通過は何としてでも果たしたいところ。個人としてもチームとしても貪欲に1勝を求め、第8局では出口六段が池永五段との角換わり腰掛け銀の一局を制して4勝4敗に追いついて見せた。こうなれば、フルセットでの勝利は是が非でも叶えたい。最終第9局では、稲葉八段が連投の池永五段に貫禄を示して5勝4敗でチームの勝利を決めきった。
手に汗握る大・大激戦。難敵揃いのAリーグを堂々首位で突破したチーム稲葉だが、前年を含めてもフルセットは初めての経験だった。それでも王者の貫禄を見せ付け、稲葉八段は「良い経験が積めました」とホッとした表情。本戦一番乗りを決めたが、「1つ勝つのは本当に大変ということを今日改めて感じた。フィッシャールールはほんの少しの気の緩みや、勝ちかなと思った時に一瞬で暗転してしまう。集中力を本戦でも続けていきたい」と戦いの厳しさを噛みしめていた。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)