昨年末に全日本プロレスを退団して元日の日本武道館に出現、3・19横浜武道館で清宮海斗からGHCヘビー級王座を奪取し、4・16仙台で中嶋勝彦相手に初防衛に成功したジェイク・リーは、参戦半年も経たないうちに外敵というよりも、すっかりとノアの中心に立っている。まさしく方舟の舵を取る船長の風格が漂う。

 気付けば、ノアに異文化を持ち込んで“新しい風景”をもたらしたのはジェイクだった。192センチ、110キロの巨体を生かした独特のリズムの大きなプロレス、論理的なマイクパフォーマンスは、ノアのファンにとって新鮮に映っているに違いない。

 だが、そこに「お前の舵取りは船酔いする。俺が教えてやる」と、挑戦の名乗りを上げたのが丸藤正道だ。ノアの創始者・三沢光晴の付き人を練習生時代の18歳から務め、常に行動を共にしてノアの旗揚げに参加し、09年6月の三沢急逝後もノアを支え続けてきた“方舟の継承者”である。

 2人の決戦の舞台は5月4日の両国国技館。4月29日の東京・後楽園ホールにおける『STAR NAVIGATION 2023』ではジェイク、ジャック・モリス、アンソニー・グリーンvs丸藤、マサ北宮、稲村愛輝の6人タッグで最後の前哨戦が行われた。

 両雄の正式な激突はスタートと中盤の2回。2人が先発を買って出て試合がスタートし、丸藤がジェイクの顎をクイッと上げて逆水平チョップを打ち込み、フロントキックを顔面に連発するもジェイクは倒れず、逆にタックルで吹っ飛ばした。

「俺のこの体は、ただ相手を蹂躙するだけじゃない。どんな攻撃でも受けきれる頑丈さもある。そのための大きさだ。俺は受けなきゃいけないし、受けるべき。受け切ってみせる。それが俺のテーマのひとつでもある」と言うジェイクは、丸藤の攻撃を真正面から受けてみせた。

 中盤の攻防は目まぐるしかった。ジェイクのボディスラムを背後に着地した丸藤が逆水平チョップからロープへ疾走、それをキャッチしたジェイクが今度こそボディスラムからバックドロップの体勢に入ったが、ブロックした丸藤は膝蹴りから逆水平。これにジェイクがエルボーを返して逆水平vsエルボーになった。ここから丸藤がフェイントをかけた動きを織り交ぜてフックキック、トラースキック、ラリアットを速射砲で叩き込んだがジェイクはジャイアント・キリング! この中盤の攻防は互角だ。

 そして最後は丸藤が魅せた。グリーンに前方回転式不知火を決めると、場外のジェイクに指で作った銃口を向けてロックオン。グリーンに背後からリストクラッチ式虎王、正面から腹部、顔面に虎王を炸裂させ、虎王3連打でグリーンを料理。再び銃口を向けてジェイクにロックオン。これにジェイクも銃口を向けて応えた。

「腰やって、腹やって、顔やれば効くっしょ。どんな大きな相手にでもできる」と、虎王3連打に胸を張った丸藤。振り返れば、丸藤のプロレス人生は大きな相手との戦いの連続だった。ジュニアヘビー級時代の丸藤は「ヘビー級はデカくて頑丈だっていうイメージがありますけど、本当に頑丈なのは、ヘビー級の攻撃に耐えて耐えて、それでもなお試合をしている僕らジュニアの人間じゃないかって思っているんですよ」と言っていたものだ。そんな丸藤だからこそ、大きなジェイク攻略に自信を持っている。

 そして今の丸藤が置かれている状況は17年前の師匠・三沢に似ている。今年、25周年イヤーを迎えた丸藤だが、17年前の06年は三沢の25周年イヤー。三沢はその記念すべき年の最後のビッグマッチの12・10日本武道館で27歳の若きGHCヘビー級王者・丸藤に挑戦したのである。当時の三沢は44歳、誰もがここで完全な世代交代がなされると思っていたが、三沢は雪崩式エメラルド・フロウジョンで勝利して時代を呼び戻すと、そこから1年3ヵ月も頂点に君臨し続けた。

「今、このノアには俺より強い奴、俺より凄い奴はたくさんいる。だけどな、“腐っても丸藤”だ」と言う丸藤。9月26日には44歳になる丸藤が、17年前の師匠と同じように再び方舟の舵を取ることができるのか…まさに正念場と言えよう。

 もうひとつ、4・29後楽園では両国決戦とは別の新たな動きがあった。全日本プロレスの諏訪魔が第5試合の拳王、征矢学、近藤修司vs清宮海斗、AMAKASA、ショーン・レガシーの試合後に乱入して拳王をラストライドでKOするという暴挙に出たのだ、

諏訪魔は全日本の3・21大田区総合体育館で拳王&征矢が青柳優馬&野村直矢から世界タッグを奪取すると、すぐさま挑戦を迫ったが、拳王は諏訪魔に絶縁を宣言。さらにノア・マットでの防衛戦をぶち上げていた。そこで諏訪魔は実力行使に出たのである。

「ノアでしか世界タッグやらねぇって言ってんだろ!? 俺がノアに乗り込んでやるよ!」と言う諏訪魔に対して拳王が「いいぞ、諏訪魔。全日本の試合が入っていないノアの大会で組め!」と返答したことで5月21日の神戸サンボーホールで拳王&征矢vs諏訪魔&KONOの世界タッグ戦が急遽決定。ノアにまたひとつ新たな戦いの火種が生まれた!

文/小佐野景浩
写真/プロレスリング・ノア