今年、世界最大のプロレス団体WWEの殿堂入りを果たした武藤敬司(グレート・ムタ)と、2017年に日本人として初めてMMA(総合格闘技)の最高峰UFCで殿堂入りをはたした桜庭和志。ともに近年はプロレスリング・ノアのリングを主戦場にしていた“世界の武藤”と“世界の桜庭”が初対談。お互いが出席した殿堂入り式典の秘話を語り合った。(取材・文/堀江ガンツ)

武藤 サクちゃんと対談するのは初めてだよね?

桜庭 たぶんそうですね。

――だから同じノアのリングに上がっていたのに、すごく新鮮な顔合わせですよね。

武藤 まあ、派閥(ユニット)が違うからな。どっちかと言えば、闘うほうが多かったから。

――お二人の最初の接点は、1995年10.9東京ドームで行われた新日本プロレスvs.UWFインターナショナル全面対抗戦ですよね?

武藤 その時は、話す機会もなかったけどね。サクちゃんは第1試合(桜庭和志&金原弘光vs永田裕志&石沢常光)だったでしょ? あの試合が、(アントニオ)猪木さんのハートに刺さったんだよ。緊張感があるケンカに近いような試合でさ。で、メインで俺がステージ上で大見得切って入場したら、猪木さんにすげえ怒られた(笑)。

――猪木さん、亡くなる前までずっと言ってましたもんね(笑)。桜庭さんは、メインの武藤さんと髙田(延彦)さんの試合を観てどう思いましたか?

桜庭 最後は「足4の字か! そう来たか!」って思いましたね。

――UWFの髙田が、足4の字という古典的なプロレス技で負けたインパクトはすごかったですからね。

桜庭 僕も第1試合で足4の字やっとけばよかったなって(笑)。

武藤 ダメだよ! インパクトが薄れちまう(笑)。

――そんな伝説的な10.9東京ドームのメインと第1試合を務めたお二人が、その後、桜庭さんはUFC殿堂入り、そして今回、武藤さんがWWE殿堂入りをするというのもすごいですね。

桜庭 なんか最近、UFCとWWEは会社が一緒になったんですよね?

武藤 俺が殿堂入り式典(現地時間3月30日、ロサンゼルス)でアメリカに行って、日本に帰る次の日(現地時間4月3日)にUFCの親会社(エンデバー・グループ・ホールディングス)がWWEを買収したんだよ。だから今後どうなるかわからねえよな。もしかしたらWWE殿堂入りも俺が最後でなくなるんじゃねえか。

――そうなんですか?

武藤 わからねえけど、組織が変わればいろいろ変わることも出てくるだろうからね。UFC殿堂入りっていうのは、1年にどれくらい選ばれるの?

桜庭 僕が行った年(2017年)は3~4人でしたね(パイオニア部門が桜庭とモーリス・スミス、現代部門がユライア・フェイバー、貢献者部門がジョー・シルバ)。

武藤 WWEより少ないんだ。まあ、プロレスとMMAじゃ歴史が違うからな。UFC殿堂入りが決まるときって、向こうから連絡が来るの?

桜庭 僕の場合は式典の1カ月くらい前に連絡が来たと思います。

武藤 最初は「わざわざアメリカまで行くのめんどくせえな」と思ってたんだけど、いざ向こうにいってみると、WWE殿堂入りっていうのは思った以上に名誉があることだなと思ったよ。ロスのデカい高級ホテルをWWEが貸切みたいにして、そこにほとんどのレスラーが泊まってるんだけど、会う人みんなが「おめでとう!」って言ってくれてさ。

 ただ、そういう時は愛想ふりまくのがアメリカじゃん。だから、俺も「コングラチュレーション!」って言われるたびに「ハーイ!」って応えてさ、いちいちハグとかしてたからそれに疲れたよ。もう人に会いたくなくなって(笑)。

桜庭 僕がUFC殿堂入りした時もいろんなファイターや関係者が話しかけてきたですけど、英語わからないから何言ってるのか理解できなくて(笑)。

武藤 誰も付添はいなかったの?

桜庭 いましたけど、その人も全然しゃべれないんで(笑)。

武藤 そりゃ大変だな(笑)。で、スピーチはしたの?

桜庭 僕が日本語でしゃべったのを通訳さんがその場で英語に訳してくれたんですけど。ぶっちゃけ、そのスピーチの文面も僕が考えたわけじゃなくて、書いてもらったものを読んだだけですから(笑)。

武藤 俺も最初は、英語で文面作ってもらってそれを読もうと思ってたんだよ。猪木さんや藤波(辰爾)が殿堂入りした時のスピーチしてる映像をちょっと見たら、猪木さんはカンペ用意しながら英語でしゃべってたんだけど、藤波さんは全部読んでたんだよ。これだとお客に伝わらねえし、「これはカッコ良くねえな」と思ってさ。それで俺は「ムタでいくしかねえな」と思ったんだよ。

――素顔の武藤敬司でスピーチする案もあったんですね。

武藤 それは俺の自由だからさ。ムタならもともとしゃべらないキャラクターだし、俺のヘッポコ英語でも短いフレーズぐらいなら暗記できるからさ。それで最後は毒霧をかましたら、ちゃんちゃんで終わるわけでね(笑)。

――WWEは世界を相手にしていて子供も見てるイベントだから、短くて簡単なフレーズだったのは逆に良かったと思いますね。

武藤 アメリカ人はああいうスピーチが大好きだから、他の人はみんな話が長いんだよ。だから「逆に短い方がいいですよ」っていうアドバイスもいただいてたからね。

桜庭 たしかにUFCの殿堂入りの時も他の人のスピーチは長かったですね。

武藤 そうでしょ?

桜庭 めっちゃ長くてお客さんがダラけてるのがわかるんですよ(笑)。

武藤 今回、インダクター(殿堂者の紹介者)をやってくれたリック・フレアーなんか、俺の紹介よりも自分の自慢話を長々としてたらしいからな(笑)。

桜庭 僕のときは、前の人の話がすごく長くて、なんの話をしてるのか聞いたら、「お金の話をずっとしてる」って教えてもらって、「えーっ!?」と思って(笑)。

武藤 アメリカ人、カネの話も好きだからな。

■武藤「WWEホール・オブ・フェーマー」の肩書きで、全世界相手にビジネスしたかった(笑)

――殿堂入り式典では、グレート・ムタが和柄の入ったタキシード、桜庭さんは紋付羽織袴でしたね。

武藤 俺はWWEがタキシード作っていいって言ってたから、ちょっとアレンジして仕立ててもらったんだよ。羽織袴は日本から持っていったの?

桜庭 いや、向こうで用意してくれてたみたいですね。日本人だからってことだと思うんですけど。もう昔のことなので、いろいろ忘れちゃいました(笑)。

――それで羽織袴姿にサクマシンのマスクを被って、わざと緊張した感じで手足両方が一緒に動くような歩き方で登場したんですよね(笑)。

桜庭 スピーチが終わってから、「あれはサクラバダンスか?」って言われましたね(笑)。

武藤 UFC殿堂入りした日本人って、サクちゃん以外にもいるの?

桜庭 たぶん、僕だけですね。

武藤 それはすごいね! 素晴らしいことだよ。他になれそうな人はいるの?

桜庭 いや、わかんないですね。

――まだUFCでチャンピオンになった日本人が誰もいないので、次の殿堂入りはかなり先になりそうです。

武藤 だったら日本人で唯一の栄誉として、もっと「UFC殿堂入りの桜庭和志」っていうのをビジネスにつなげていったほうが絶対にいいよ。そんな「忘れちゃった」とか言ってないでさ(笑)。

桜庭 アハハハハ(笑)。

武藤 俺だってどうせなら現役時代に殿堂入りさせてもらいたかったよ。引退してからこんなのもらっても、それをビジネスとして使うことできないもんな(笑)。

――「WWEホール・オブ・フェーマー」の肩書きで、全世界相手にビジネスしたかったのに(笑)。

武藤 もう引退したから、それもできねえよ。

桜庭 じゃあ、もう一回復活しますか(笑)。

武藤 もうダメだよ。十分だよ(笑)。

写真/橋詰大地 

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