
武藤敬司×桜庭和志のWWE & UFCホール・オブ・フェーマー対談。ふたりが今後のプロレスリング・ノアで期待している選手の可能性と課題についても語ってもらった殿堂対談の後編。(取材・文/堀江ガンツ)
ーー武藤さんは今回の『レッスルマニア』に行ってみていかがでしたか?
武藤 スケールがデカいよ。だって観衆8万人だよ? しかも2日間やってどっちも満員なんだから16万人だよ。ああいうところで試合できるレスラーは幸せだと思うよ。ただ、派手でゴージャスなんだけど、レスリング自体はちょっと淡白だよな。
桜庭 でも、8万人も入ったらそっちのほうがわかりやすいんじゃないですかね?
武藤 そうそう。細かい攻防なんて見えないからね。
桜庭 だからUFCが8万人の会場でやったら、遠くから見てる人は何をやってるかまったくわからないでしょうね。
武藤 プロレスの試合だってわからないから、ビジョンとかもすげえデカいんだよ。それもあってか、今は小さいレスラーが多いけど、WWEはまだまだデカいレスラーいたよ。今回、ブロック・レスナーとやったヤツがデカくてさ。
――身長221cmのオモスですね。
武藤 そいつとホテルで会って、向こうから挨拶してきたんだよ。「おー! すげえ」って思ってさ。デカいっていうのは、それだけでおもしろいよ。俺はデカいのフェチだから(笑)。
――桜庭さんもPRIDEでは、大きな相手とでもやるのが信条でしたよね。
桜庭 あの頃は、僕が何を言っても大きな相手を当てられた感じなんですけど。でも、格闘技って小さい人が大きな人を倒すからおもしろいというところもあると思うんで。どうしても大きな人のほうが有利だけど、その隙をついてやっつけたら面白いだろうなと思いながら、まあ、しょうがないからやってましたけど(笑)。
武藤 ボブ・サップとはやってる?
桜庭 サップはやってないですね。一番デカいのはミルコ(・クロコップ)くらいじゃないですか。
――ミルコは当時、105kgぐらいありましたから、桜庭さんと15kgは差がありましたよね。
武藤 そりゃでけえな。
桜庭 ミノワマンはボブ・サップとやってましたよ。
武藤 藤田(和之)もやったよな?
桜庭 やってましたっけ?
――K-1系の『ロマネスク』という大会でやってますね。藤田選手がサップの顔面にサッカーボールキック食らわして勝ったんですけど。それを今、藤田選手はノアでやってますからね。
武藤 昔は藤田がサップみたいな怪物退治をしてたけど、今のノアだと藤田が怪物だからな。
――でも、桜庭さんや藤田選手のような総合格闘技の猛者と肌を合わせられるっていうのは、ノアの若い選手たちにとってすごくいい経験になりますよね。

■「プロレスは“格闘芸術”だから、しっかりとした技術を身につけないとお客さんも感情移入していかない」(武藤)
武藤 だから俺がノアに来たばかりの頃、清宮(海斗)とかには「サクちゃんのところに練習しに行け」ってよく言ってたんだよ。最高の格闘技術を持った人が近くにいるんだから、こんなチャンスないぞって。プロレスは“格闘芸術”だから、しっかりとした技術を身につけないとお客さんも感情移入していかないよ。
――たとえ格闘技に詳しくなくても、本当に身につけた技か見よう見まねかって、お客さんもなんとなくわかりますもんね。
武藤 そうそう。ウソっぽいタックルしたって絶対に感情移入しない。
――実際、清宮選手は練習に来てたんですか?
桜庭 来てますよ。清宮選手だけじゃなく、稲村(愛輝)選手なんかも。地方巡業とかもあるんで毎回は来れてないですけど、来れる日は来てましたね。
――稲村選手もそういう練習をしてるんですね。
武藤 アイツもさらに上に行くためには、パワー以外のモノを身につけなきゃいけないからな。今回、アメリカに稲村を帯同させたんだけど、アイツはノアではパワーファイターで売ってるけど、アメリカではパワーファイターでは売れないからね。
桜庭 僕が練習で稲村選手に三角絞めをやったら、すぐ持ち上げられたんですよ(笑)。「すげーパワーだな」と思ったけど、アメリカに行ったら小さいほうですもんね。
武藤 そう、ちっちゃいもん。アメリカには、さっき言った2m20cmのヤツとかいるんだよ?(笑)。
桜庭 2m超えはさすがにあれですけど(笑)。
武藤 アメリカにいると稲村がデカく見えねえんだもん。だから、アイツが次のステップに進むためには、パワーとは別に何かもうひとつ武器を身につけなきゃいけない。ぶっちゃけパワーだけなら、俺が昔やってきたベイダー、バンバン・ビガロ、スコット・ノートンのほうがあったからね。
――古いファンは、すでにそれを観てしまっているわけですしね。
武藤 やっぱ新しいものを作っていくためには、そういう古いものを踏み潰すくらいのものがないと。パワーだけっていうのは難しいと思うよ。
桜庭 やっぱり毒霧を吹くしかないんじゃないですか?(笑)。
武藤 それも古いもんなあ。俺ですらカブキさんのリバイバルだからさ(笑)。
――グレート・ムタも、アメリカにいままでいないタイプのレスラーだったからウケたわけですもんね。
武藤 俺の場合はさ、ドラゴンスクリューにしたって毒霧にしたって、二番煎じだからね(笑)。
――「俺が元祖だ!」みたいな顔をしてやってはいたけれども(笑)。
武藤 二番煎じなんだけどオリジナルを超えちまったから俺がオリジナルになっちゃったんだよ(笑)。

■「清宮選手と稲村選手には期待。まだまだいろんな可能性がある」(桜庭)
ーー今回の殿堂入りのVTRでも「いろんな技のオリジネーターだ」って紹介されてましたね。
武藤 アメリカでは鎌固めが「ムタロック」なんて呼ばれてるけど、あれだって猪木さんが使ってた技だからな。さすがに「俺が元祖だ」とは言ってないけど、メディアが勝手に「ムタロック」って名前を付けたんだから(笑)。
――桜庭さんもPRIDEでローリングソバット決めたり、ホイス・グレイシーにモンゴリアンチョップやったり、プロレスの技がMMAでは「桜庭オリジナル」になりましたもんね。
武藤 それはサクちゃんの技術が、本物の技だからだよな。今後のノアは稲村と清宮に期待しているけど、ただ、さっきも言ったとおり課題があるからさ。それがなんなのかは、自分で見つけなきゃいけないし。あとは“強さ”だよな。プロレスでトップに立つためには、誰が見ても「あっ、コイツは強えな」って思わせることが必要だよ。そのためにもサクちゃんのところに行って、そのベースを磨くことはすげえいいことだと思うしね。
桜庭 ボクも清宮選手と稲村選手には期待してますね。ふたりとも若いから、練習したらすぐ吸収するんで。どんどんそういうものを吸収して、練習だけじゃなく、プロレスの試合でも活かせるようになっていったらいいと思います。僕とかはもうトシなんでここから変わりようがないですけど、彼らはまだまだいろんな可能性があるんで。
武藤 そうそう。清宮はGHCチャンピオンにはなったけど、まだまだプロレスラーとして伸びしろが全然あるよ。年齢的にもアイツは誰に負けようが、これからいくらでも挽回できるわけだから。マサさんの「GO FOR BROKE!」じゃないけど、当たって砕けろでなんでもチャレンジしていったらいい。稲村もサクちゃんのところに行って汗かいてさ、その汗が大事なんだよ。
桜庭 あれだけのパワーをさらに技に活かせられたら、すごいものができそうですよね。
武藤 アイツ流のものを作ればいいんだよ。あとは場数しかないじゃん。場数でそのうちカッコよく見えるようになってくるよ。

■「サクちゃんに期待しているのはクマとの対決。ノア中継視聴者数を増やす切り札だよ(笑)」(武藤)
ーー清宮選手、稲村選手が真のトップレスラーになるために、桜庭さんにさらに鍛えてほしいという感じですかね。
武藤 それもあるけど、俺がサクちゃんに期待しているのはクマとの対決だな。
桜庭 ク、クマぁ!?
武藤 人間vs動物。PPVでノア中継視聴者数を増やす切り札だよ(笑)。いや、PPVだな。PPV売れるぞ~!
――武尊vs那須川天心を超えるためには、桜庭和志vsクマしかない、と(笑)。
武藤 UFCは金網の中で闘うんだからさ、UFC殿堂入りしてるサクちゃんが檻の中で闘ってもいいと思うんだけどな(笑)。
桜庭 殺されますよ!(笑)。
武藤 クマにチョークスリーパーとか効かなそうだもんな(笑)。
桜庭 それなら武藤さんがやってくださいよ。
武藤 いや、俺はもう引退してるから。家で昔の大河ドラマでも観てるよ(笑)。
写真/橋詰大地