5月2日にベルーナドームで行われた埼玉西武ライオンズ対北海道日本ハムファイターズの一戦で、日本ハム・伊藤大海が7回1失点の好投で、今季初勝利を挙げた。その際に披露された“超スローカーブ以外の球”が、野球ファンの間で注目を集めている。
伊藤といえば、打者のタイミングを外す“超スローカーブ”の「サミングボール」が、ファンの間でもしばしば話題となるが、この日、伊藤が投じた108球を見ていくと、4月5日の千葉ロッテマリーンズ戦で投じて話題となった“推定球速47キロ”の「サミングボール」はなく、“別のボール”を上手く活用しているのが印象的だった。
【映像】画面から消えるボール!?
この日の伊藤の投球で目を引いたのは、球速が概ね100km/h強といったところのナックルカーブだ。今季の伊藤の球種配分を見ていくと、このボールの比率が占める割合はスライダーや、カットボールやスプリットに比べるとかなり低いが「意外と多く投げている」というのが実情だ。
しかも、このボールとストレートとの球速差は40km/h程度の開きが生じるため、「サミングボール」ほどではないにせよ、見せ方次第では、充分に機能するボールであるといえる。実際、この球を絶妙に織り交ぜながら、ストライクゾーンを広く使い、140km/h台のストレートやカットボール、130km/h台のスライダーやスプリットを挟みつつ柔軟に組み立てるという伊藤ならではの投球で、西武打線を翻弄することとなった。
これだけ「サミングボール」が話題となると、各球団の打者たちは、遅い球が来そうだと感じた際に、どうしても「サミングボールでは?」という意識が働いてしまうものだ。しかし、そうした際に伊藤が、“「サミングボール」よりは速い別のスローボール”を、安定して投じることで、打者を惑わすことができ、投球の幅がさらに広がるというわけだ。
ちなみに、伊藤の「サミングボール」は、2021年7月1日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦で投じて三振を奪った際には、まだ96km/hと、現在ほどの“遅さ”ではなかった。しかしその後、8月21日の同じく楽天戦では、なんと球速72km/hをマーク。短期間でその“遅さ”に磨きをかけることに成功している。とはいえ、この時点では、まだまだ進化の途上であったせいか、投球を見た野球評論家の里崎智也氏は、“打者の意表を突く”という点で評価しつつも、「まだ速いですね。北海道日本ハムには多田野がいたんでね。画面から消えるくらいのボールを期待したいですね」と、かつて超スローボールで話題となった多田野数人氏を引き合いに出す形で課題を口にしていた。
ところが、その後も伊藤は、「サミングボール」の完成度を上げ続け、昨年6月25日に行われた福岡ソフトバンクホークス戦では、見事、“画面から消える”ほどのスローカーブを披露。これには思わず里崎氏も「これは完璧ですね。コースも高さも良かったです」「多田野はガチョーン投げみたいな感じでしたけども、多田野より投げ方、フォームいいです、合格です」と太鼓判を押している。
こうした伊藤ならではのこだわりと不断の努力、そして持ち前の器用さを鑑みれば、前出のナックルカーブが、前出の「サミングボール」と同様に、今後、さらなる“進化”を遂げる可能性は大。その際にこのボールの威力が、一体どのようになるのか、楽しみなところといえそうだ。