「口を開けられ無理やり食べさせられた」園児失禁で波紋…過度な“給食の完食指導”でトラウマに? 教員・学校側は”残量調査”で躍起に
【映像】“給食指導”で虐待が疑われる「長寿認定こども園」
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 三重県桑名市の「長寿認定こども園」で虐待が疑われる、過度な“給食指導”が問題となっている。

【映像】“給食指導”で虐待が疑われる「長寿認定こども園」

 市によると、保育士が給食を食べるよう、約4時間にわたり強要。園児は失禁したという。3月中旬、保護者からの相談で発覚し、立ち入り調査されることとなった。

 このニュースが報じられるやTwitterでは「授業が始まってるのに食べさせられていた」「給食が残せない恐怖で登校拒否していた」「あの時の辛い思いは今も忘れない」など似た経験をした人が、声をあげている。

 食べ物を粗末にしないことは良いことだが、給食指導によって食べること自体に抵抗感を覚えた人もいるようだ。

 果たして、厳しい指導は必要なのか。『ABEMA Prime』ではトラウマを抱える当事者と専門家を招き、考えた。

「最後まで残って食べるのが嫌で…」当事者が語る給食のトラウマ

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 保育園の給食が原因で、その後の幼稚園・小学校・中学校でもほとんど給食を食べられなかったというナオミさん(30代)は「4時間も給食指導をするのは虐待に近いのではないか。そこまでしなくてもと思う」と答えた。そのうえで自身の経験を次のように語る。

 「私だけ好き嫌いが多く、食べるのも遅くて、完食できなかった。お昼寝の時間まで先生と給食を食べる機会があり、先生がイライラしながら口にスプーンを向けて“食べなさい”ということが結構あった。給食自体がトラウマになっているので、街中で子どもが無理やり食べさせられているシーンを見ると、思い出して嫌な気持ちになる」

 将来、子どもができたとしても「同じ思いをさせたくないので、保育園に入れることを躊躇してしまうかもしれない」と考えているという。

 「私は最後まで残って食べることがとても嫌だった。先生が隣にいて、ずっと見られながら食べろと言われ、食べないと毎日にように続く」と、自身のトラウマを語った。

そもそもなぜ“完食を指導”する? 食べ残しは一律ダメ?

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 過度な給食指導は人権侵害だ、と訴える教育評論家の親野智可等氏は「給食の残量調査が強化され、自分のクラスの残量を減らすことに躍起になる先生もいる。地域によって異なるが、主食の欄、主菜の欄、牛乳など“今日は何%残ったか”を先生が目測で決めて書く。それを給食センターや教育委員会に提出して統計を出す。残量が少ない=良い指導ができている先生という刷り込みがある」と実情を述べつつ、背景について次のように解説する。

 「一番の元は学校給食法で、そこに給食の望ましい習慣を作るといった目標があり、文科省で手引きを作っている。“楽しく気持ちのよい食事環境の準備”として、手を洗う、白衣を着るなどの身支度、食事を丁寧に運ぶ、配膳量の調節や食器の並べ方、あいさつ、箸の持ち方、片付けなど、食に関するさまざまことを総合的に指導していこうというものだ」

 完食指導もここに含まれ、「食事の量は学年に応じてカロリーやタンパク質などが決まっていて、科学的データに基づき、クラスの人数と先生の分で食缶に入ってくる。栄養学的にちょうどいい分量が来ているから、食べ残さないで食べてほしい」という前提がある。だからこそ、食べきれない=必要な栄養分を摂れていないことになり「完食指導を目指してしまう」と指摘する。

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 一方で、近年は食品ロスの問題もある。

 リディラバ代表の安部敏樹氏は「小学生たちの間でSDGsの浸透率は高い。食品ロスをなくすという大義名分が追加され、“食べろ”となっている可能性がある。残量調査のように可視化すると、同調圧力も含めて“食べなくては”という意識が高まっているのではないか」と述べた。

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「給食がビュッフェ形式の学校もある。同じ小学生でも6年生くらいになると、小さい子から大きい子まで極端に体格が違う。その個人差をあまりにも無視し過ぎているのではないか。一方で、日本の食育は海外では絶賛されている。整然と給食をみんなで配膳して食べて、みんなで片付けて掃除もする。日本はすばらしいと言われている。海外は一般的なレストランでも食べ残しは当たり前だ。ただ、日本人としては、給食に限らずそれが抑圧になっているケースが多い。それを減らす努力をしないと、食育も会食恐怖症のようなゆがみを生んでしまうことを意識する必要がある」との考えを示した。

“完食指導”が必要ない理由と見過ごせないリスク

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 佐々木氏は「今の子どもには、強制的にこれをやれと黙ってやらせるよりもロジックが大切だ。なぜサバみたいな生臭い魚を食べないといけないの?という問いに、“これはDHAが入っていて…”といった説明をすると、食べるようになる子は意外と多いという趣旨のことを書いている先生もいる」と述べた。

 親野氏は「日本の給食にはすばらしい面もある。ただ、その律儀さが行き過ぎた結果、不登校になってしまった子もいる。問題は、食べられないのに食べろと言われ、“自分はダメな子だ”と、自己肯定感が下がり、親や先生に対して不信感を持ってしまうことだ。小さい時に無理やり食べさせられることで、ナオミさんのようにトラウマになったり、先生にバナナを食べさせられて今でも食べられないといった例がある」と指摘した。

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 「私は、完食指導は必要ないと思っている。なぜなら、人によって食べる量は違い、基礎代謝量は遺伝子レベルで決まっている。これは同じ学年の同じ性別・体重の人でも20%ぐらいの幅がある。さらにその日の体調によっても変わってくる。どれくらい食べられるかは本人もわからないからだ」

 そして、この完食指導は、大人になってから健康に大きく影響すると重大な問題点を指摘した。

 「完食指導の何が悪いかというと、全部食べることが良いことだと、子どもの時に擦り込んでしまう。それが成人病の原因になっている。保健士さんが、メタボ予備軍の大人に講演をする時に、“食べ残す勇気を持とう”と言う。腹7分目で、食べ残す勇気を持とう。だが、それに日本人は罪悪感がある」

(『ABEMA Prime』より)

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