「私のほうが高収入だとわかってしまうと、“家庭を支えている”という夫のプライドが崩れてしまう。だから、お金の話はタブーで…」
こう話すのは、法律関係の仕事をするあおいさん(30代)。結婚当初は会社員の夫のほうが自分より高収入だったが、あおいさんが産休中に資格をとったことで逆転。収入は夫の約1.5倍になったが、その事実を言えず、「夫が寝た後に仕事をし、仕事をしていることを感じさせないようにしていた」。さらに家事・育児もすべてあおいさんの担当だった。
一方、妻の稼ぎが自分より多いことを夫は勘付いていたようで、給料日に家に帰ると給料明細が置かれていたことも。「これだけ稼いでいるから仕事を辞めてもいいんだよ、という自分へのメッセージに感じた」と語る。
最終的にあおいさんは離婚を決意。「夫も耐えられないし、私も気を遣いながら仕事をするのは嫌だと思った」と、その理由を述べた。
海外では、「妻の収入が世帯収入の40%を上回ると夫は苦痛を感じる」との研究結果がある。また、稼ぐ女性が婚活で敬遠されるケースも。
働く女性が増えるなかでいまだ残る偏見に迫るべく、『ABEMA Prime』では夫側と妻側の両当事者の視点から考えた。
■ケース【1】 “年収は妻より100万円低い” 夫の苦悩
妻の年収が100万円ほど高く嫌だったという経験を持ち、収入アップのため放射線技師から転職した、まろんさん(29歳)は「妻のほうが稼ぐことで、自分が妻より稼いでいない情けなさや、“お金を稼ぐ”という家庭のなかでの重要な役割で妻よりも劣っているところに引け目を感じていた」と、率直な思いを語る。
お互いの年収に関して「具体的な数字を話し合ったことはほとんどないが、お互い医療従事者で概ね給料はわかる。これぐらいの差があるのはほぼ間違いないかな」と、妻との年収の差を自覚していたという。
妻はどう感じていたのだろうか。
まろんさんは「妻から“もっと稼いで”と言われたり、アピールされたことはないのでどう思っているかはわからない。おそらく自分が気にしている面が大きいと思う」と答えた。
妻は現在、育休中だというが、「子どもができてプレッシャーはより大きくなった。妻の収入がなくなって自分一人で妻と子どもを養っていかなければならない」と、以前にも増して年収格差へのストレスが高まったと吐露した。
では、具体的にまろんさんはどこにモヤモヤを感じているのか。
「妻には本当に感謝している。自分はお金にこだわりが強いタイプ。妻や子どものために給料を稼いでいる意識がある。少しでも稼ぎたい思いが強いので、一番身近にいる妻よりも稼いでいる方が、家庭の役割を果たせているのではないかな」と、本音を語った。
■ケース【2】夫より稼ぐ妻の本音「家事もやり、お金も稼いで、これは何だろう」
”夫より稼ぐ妻”も、悩ましい思いを抱いている人がいる。まろんさんとは別の夫婦のケースから見ていく。
ユイさん(30代)は年収600万円の会社員。夫はスタートアップ企業の代表だが、まだまだ事業は軌道に乗っておらず役員報酬はゼロだ。当初の想定とは異なり、家賃・生活費は妻が全額負担、家事はほとんどしない「亭主関白」な夫に、モヤモヤが募っているという。
ユイさんは「共働きでゆくゆく対等になっていくのかと思って結婚したが、実際には夫に対して気を使う感じになっている」と話す。
当初、お金のことは気にしていなかったというが「実際に家事も自分がやり、お金も稼いでという状況なり、これは何だろうと思った」という。
自身が抱えるモヤモヤについては、「お金のことで困っている感覚はないが、“妻としての自分”と“働く女性としての自分”の間で揺れている」と本音を明かす。それでも「夫はもっと支えてほしいと思っていると思う」とも答えた。
夫より妻の年収が高い=妻の方が能力も高いと感じ、不仲の原因にもなり得るという指摘もあるが、この点については「プライドを傷つけてはいけないという気持ちが強い。そうすると何でも話せる間柄ではなくなってしまうかなと。本当は女の子扱いされたいし、守ってほしい気持ちもあるけど、“稼いでいる妻はそうではない”と夫が思っているのではないかとも感じる」と考えを述べた。
では、結婚生活にどのような思いを持っているのか?
ユイさんは「子どもがいないので、お互い好きに仕事をしている部分はあると思う。夫はスタートアップ企業を経営しているので夜遅くまで働いている。お互いの価値観なので。それに、友人はみんな結婚していて、親もいつ結婚するの?と聞いてきた。”結婚は当然するもの、一度してみたい”という気持ちも正直あった」と答えた。
■妻が夫より稼ぐ問題の本質は“年収の差”じゃない?
双方の視点が出たなかで、”妻の方が収入が高い夫”のまろんさんは「離婚されるリスクも正直気にしている。出産という一大イベントは女性にしかできないし、産休中も家事や育児はほとんど妻に任せっぱなしだった。そのうえフルタイムで働いた時に給料まで妻のほうが高いとなったら、自分がいる意味はあるのかなと思う」と不安な胸のうちを明かす。
ジャーナリストの堀潤氏は「年収400万円と500万円というまろんさんの例は、いわゆる日本の世帯年収の平均値に近いが、米国は7万ドルぐらいだ(編注:1ドル=135円換算で約940万円)。2人合わせてようやく米国の平均年収分。少しでも稼いで家計の助けになりたいという視点なら、相手の年収が100万円高いことを気にする必要はなく、もっと稼ぐという方向性で考えるのが良いのではないか」と提案する。
プロスケーターで元フィギュア世界女王の安藤美姫は「30代半ばの私より上の世代は、“男性のほうが稼がないと”とか、“女性が支えないと”という考えは強いのかもしれない。でも、私より下の世代はデートに行っても“割り勘平気”という感じだったりして、“妻が夫より稼ぐことをよく思わない”という意識は低い気がしている」と述べた。
コラムニストの河崎環氏は「30年、40年という先を見た時に、日本経済に何が起こるか、夫や妻の業界に何が起こるかわからない中で、2人で稼いでいるというのは保険だ。どちらか片方だけがたくさん稼いでいるというのは全然自慢にならなくて、“よく結婚してるね”と私なんかは言ってしまう。両方がコンスタントに稼げているのは大事なことだ」と述べた。
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