将棋の第8期叡王戦五番勝負第4局が5月28日に岩手県宮古市の「浄土ヶ浜パークホテル」で指され、藤井聡太叡王（竜王、王位、棋王、王将、棋聖、20）が菅井竜也八段（31）に勝利しタイトル防衛と3連覇を達成した。決着局は異例の2度の千日手指し直しと将棋史に刻まれる死闘に。2回目の指し直し局で藤井叡王が見せた圧巻の即詰みに、解説者からは「あまりにも鮮やか。叡王らしい一局だった」と感嘆の声が上がっていた。
今期で8期目となる叡王戦の名称は、公募で寄せられた3422件の名称案の中から選ばれたもの。命名者は、その由来について「知恵や叡智を競う将棋の頂点に相応しい称号を考えた。“叡”という字には、明らか、聡明、物の道理に通じた、という意味がある」とのコメントを残している。人間の叡智を競うべく、第8期では3連覇を目指す藤井叡王に、振り飛車党の絶対的エース・菅井八段が挑戦。藤井叡王にとってはタイトル戦で初めて振り飛車党と戦うシリーズとして大きな注目を集めていた。
挑戦者の菅井八段が用いた作戦は三間飛車。振り返ってみれば、開幕局から通して2局の千日手局を含む全6局でその戦型が用いられた。さらに互いに固く囲い合う相穴熊も多用され、決着局後に行われた記者会見に臨んだ藤井叡王は「相穴熊の戦いが多かったが、中盤から終盤にかけて距離感を測れないという局面がいくつかあったと感じている。全体を通して大変な将棋が多かったシリーズと感じています」と難局づくしだったことを語っていた。
藤井叡王の2勝、菅井八段の1勝で迎えた第4局、午前9時から始まった1回目の千日手局は序盤の44手で千日手が成立。午前11時30分から先後を入れ替え、藤井叡王の先手で指し直し局が開始された。前局までと同じ三間飛車の戦型となると、互いに一歩も譲らぬ大激戦に。終盤で勝負に出た菅井八段に藤井叡王がしがみ付き、午後6時32分に116手で2度目の千日手が成立した。
この指し直し局では、中盤で菅井八段が力技を見せて流れを引き寄せリードを拡大していたこともあり、感想戦では「（2回目の）千日手を死ぬほど後悔した」と吐露する場面もあった。一方、藤井叡王は「2局目（指し直し局）の将棋は終盤に差し掛かるところでミスが出てしまって苦しくなってしまった。もし打開されていたら足りない形勢だったと思うので、千日手はこちらからすると“御の字”だった」と語っており、明暗を分けた象徴的なシーンにABEMAの視聴者からは悲喜こもごもの声が続出していた。
2回目の指し直し局では、両者ともに疲労が滲む午後7時15分からスタート。解説を務めた阿久津主税八段（40）は「もうさっきまでの細かな駆け引きがなく、殴り合いの将棋になった」と激しい進行を見守った。藤井叡王は飛車交換からこじ開けた先手陣にと金を滑り込ませるとペースを掌握。歩切れで立て直しが厳しい菅井八段の渾身の端歩に対して、解説陣が「やりにくい」とした角切りから「非常に際どかったと思うが、最後抜け出せたのかなと思う」と優勢を自覚。最後はABEMAの「SHOGI AI」にも示されていなかった竜切りから鮮やかに詰みに討ち取り、大激闘に決着を付けた。
解説の阿久津八段は「3局とも見せ場十分、熱戦続きだった」と両者を称えるとともに、竜切りからの終局には「最後いきなり詰んじゃうんだ…」と驚きを隠せない。続けて、「ぴったりすぎる詰み。3局指した最後にこんなに鮮やかな詰み筋を見事発見したのは藤井叡王らしい。終盤の切れ味が発揮された一局だった」と総括。大舞台にふさわしい大熱戦を演じた両者とあり、視聴者からも3連覇を果たした藤井叡王はもちろん、挑戦者の菅井八段にも「最強の挑戦者でした」「こんなかっこいい人いるんだね」「菅井さんやはり手ごわかったです」「振り飛車党かっけー」「また藤菅のタイトル戦が見たい！」と労いのコメントが大量に押し寄せていた。
藤井叡王は休む間もなく次の戦いの場へ。5月31日・6月1日には挑戦中の名人戦七番勝負の第5局、6月5日には防衛戦となる棋聖戦五番勝負がベトナムで開幕する。国内から海外へと活躍の場は無限に広がる20歳とあり、ファンにとっては楽しみは尽きない。次戦ではどのような輝く一手を披露するのか、胸躍る日々はこれからも続く。
（ABEMA／将棋チャンネルより）
