日本の最重要課題の1つである少子化問題。岸田総理が力を入れているのは児童手当などの手厚い子育て支援。しかし、社会保障が充実している北欧でも、近年は出生率が大きく低下しているという。日本の「異次元の少子化対策」は効果があるのか?
【映像】スウェーデン、デンマーク、フィンランド…激減する出生率(グラフ)
北欧は福祉が手厚く子どもが育てやすいと言われているにもかかわらず、なぜ出生率が低くなっているのか。北欧で進む少子化の現状について、南デンマーク大学で少子化問題を研究している茂木良平氏に話を聞いた。
「2010年ごろから、北欧で急激な少子化が始まった。子供がいない人を『無子(むし)』と言うが、無子割合が増えている。社会・経済的地位の低い人口集団で無子の人たちが増えており、経済状況の影響が大きいと見られている」(茂木氏、以下同)
また、ノルウェーとイタリアを比較した研究がある。今後の経済状況について、①「良くなる」と聞かせる、②「悪くなる」と聞かせる、③何も聞かせないの3グループに分けて、出生意欲を調査した。
すると、②の「経済状況が悪くなる」と聞かせたグループでは出生意欲が下がり、2カ国を比較するとイタリアよりも経済状況が良いノルウェーの方が大きく低下した。
「イタリア国民は、経済状況の悪さに慣れてしまっているので、今後経済が悪くなろうが良くなろうが、自分たちの決断にはあまり影響しない。一方、ノルウェー国民は社会福祉も整い、経済も今まで比較的良かったので、今後の社会の悪化に対し不安が出やすく決断に影響しやすいのではないか。
総合すると、最近の経済の悪化などが社会・経済的地位の低い人達をカバーしきれてないことが、現在の少子化につながっているとも考えられる」
社会福祉が充実していても経済状況が低下すれば出生率は低くなるようだ。そして、日本政府が進める男性の育休取得などのジェンダー平等は、出生率には影響がないという。
ジェンダー平等は出生率への影響は小さい?
「『U字型論』という考え方がある。ジェンダー平等の度合いが上がってくると、これまでジェンダー“不平等”により支えられてきたシステムがうまくいかなくなる。そのため一旦は出生率が下がるが、平等度合いが上がってくるに従い出生率も上がるというもの」
しかし、今の北欧にはその理論が当てはまらなくなり、期待できなくなっている。
「北欧はジェンダー平等度合いを維持したまま出生率が下がっているので、U字型というよりも“坂”のようになっている。ジェンダー平等を高めれば少子化や出生率が改善する、というストーリーはもう成り立たないのではないか」
日本の少子化対策への取り組み方はどう変えるとよいのだろうか。
「ジェンダー平等はそれ自体で必要なことだし、僕も育児をした身として、男性育休は絶対必要なものだと思うが、男性育休と出生率の話は分けて議論したほうがいいと思う」
日本の「異次元の少子化対策」について、北欧の少子化問題を見てきた茂木さんは、子育て世帯への支援だけでは日本の少子化問題の根本的な解決は難しいという。
「日本の『異次元の少子化対策』は『結婚後の子育て支援』が基本。それは少子化には3割程しか影響がないと言われている。日本の少子化の7割の原因は結婚行動の変化なので、経済状況の悪化で結婚したくてもできない層への支援が必要。だが、経済状況をどんどん上げていくのは短期的には難しい。
短期的には、政府が『こんなに素晴らしい環境なら第3子を持ちたい』と感じさせるような環境づくりや、既婚者の出生数を増やすことで出生率を上げるのも一つの方法だ」
ハフポスト日本版の前編集長で、PIVOT チーフ・グローバルエディターの竹下隆一郎氏はこの話をどう見るのか。
「メディアを含めて私たちは北欧を教科書にしがちだが、北欧でも先進国特有の、同じような問題がある。日本や北欧の国々がどちらが優れている、劣っているというより、それぞれが抱える課題をお互いに話し合う意味でも、議論が成熟してきている時期だと感じた」(竹下氏、以下同)
今見つめるべき少子化対策の課題とは?
「少子化対策も色々いい政策があるが、『本当に支援が必要なターゲット』を見過ごしていないか、常に検証しないといけない。それにはデータに基づいた政治が求められる。例えばマッチングアプリを使う人は結構増えているので、それらの企業と連携して、困っている人たちの本当のニーズは何なのか、なぜ結婚しない、できない、あるいはしたくないのかを掴み取ることが次のステップでは大事」
企業にできることはあるのか。
「結婚直後に希望しない強引な転勤をさせられると安定して家庭を持ちづらいかもしれない。あるいは賃上げや子どもの送迎や看病などがしやすい環境づくりも必要になる」
■イスラエルの“出生率3”の秘訣
「イスラエルの合計特殊出生率は“3.00”と高く、子どもが多い。宗教的な理由や国の歴史的背景の中で、国を存続することに対する思いが非常に強いという理由もあるようだ。朝日新聞の高久潤記者が書いた「『出生率3.0』は幸せか」という連載記事では、イスラエルを『文句を言い合える社会だから』と分析していた。子どもや大人が自由に文句を言って対等に付き合える社会なので、何かに困ったら打ち明け、支えてくれる。子育てにはインフラや経済的支援が大事だが、それとは別に社会的な制度、ネットワークがある。子どもを産みたい社会とは、『子どもが生まれたくなる社会』だと思う」
――「文句を言い合える」ということは「信頼し合える」ということ?
「そうです。出生率は、信頼する社会を私たちは作れているのかと、突きつけている数字かなと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)
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