2024年度から1人1000円、新しい税金として「森林環境税」が住民税に上乗せされる。主な目的は森林整備で、木の密度を調整する間伐や人材の育成、木材の利用促進などの費用に当てられるという。
【映像】3位は「大阪市」 森林環境税の配分額ランキング(画像あり)
課税を前に、国は2019年度から先行して各地域へ譲与税の配分を開始。3年間で配られた金額は市町村で約840億円だ。
しかし、活用状況を見ると、全体の47%が使われておらず、Twitterでは「活用されてないのに1000円払うのか」など、疑問の声があがっている。千葉県長生村では、3年間で約305万円交付されたが、森林がほぼない村のため、有効活用するアイディアを出している状況だ。
徴収が始まれば1年間で620億円の税収になるが、はたして本当に有効活用できるのか。ニュース番組「ABEMA Prime」に出演した、財政学者の佐藤一光氏(東京経済大学准教授)は「制度は地方自治に基づいて作られている」と話す。
「『使い道が決まっていないのに、税金を取るのは変ではないか』という主張もよくわかるが、自治体にはいろいろな事情があり、その事情に合わせて住民の方々が考えてお金を使う。林業の専門家が自治体にいない場合も多く、農林水産業を全部1人でやっているパターンもある。国は『お金は渡す。あとは考えて』と言うが、考える人もいないし、時間も経験もなく、困っている自治体が多い」
今年度までは「復興特別税」という名前で住民税に1000円が上乗せされているが、来年度からは「森林環境税」になる。名前を変えて徴収し続けているようにも見えるが、どのように考えるか。
「私は財政学の専門家だが、そう疑われてもやむを得ない取り方だ。いい税金とは何か。『1人いくら』という取り方は普通あり得ない。消費税は逆進性があって、低所得層にはきつい。森林環境税は1人1000円だから、消費税よりもひどいと思う。年収が100万円でも1000万円でも1億円でも、みんな1000円だ。税の取り方としては最悪だ。厳密にいうと、1人ではなく1世帯だが、それでもみんな1人1000円はおかしい。学者が10人いたら9人は『おかしい』と言うだろう。一番やってはいけないことだし、私は大問題だと思っている」
森林面積がゼロの東京・渋谷区にも3年間で約4600万円が交付されている。これはどのように考えたらいいのか。
「森林環境譲与税の使い方はゆるくて、代々木公園や明治神宮などの公園整備、都市の緑化対策などにも使える。むしろ『アイディア出しをしてくれ』『自由に使っていい』と言われている。森林を整備するだけではない。花粉症対策で、花粉を出さない杉に植え替えてもいい。そういう使い方も悪くない」
東京五輪・パラリンピックのメインスタジアムになった国立競技場は、国産木材がふんだんに使われた。佐藤氏は「森林がなくても、適切に使ってくれさえすればいい」と話す。
「安く買い叩くのではなく、国産の良いものを適切な価格で買ってくれて、しかもどこから買ったか分かる。これは持続可能な森林にとても大切だ。林業労働者もブラック労働だったり、低賃金であえいでいたりする」
林業従事者の働く環境について、佐藤氏は「はっきり言って林業はお給料が低く、最低賃金で働いている方が多い。そして、今後も賃金が上がる見込みはない。将来の見通しが立ってお給料が上がっていくようなシステムを作るには、今の仕組みでは無理だ」と指摘する。
「どこの業界もそうだと思うが、人手不足、高齢化が進んでいる。林業は全産業の中で最も危ない産業で、事故が多く、死亡者も多い。そういう中で働く人はなかなかいない。少子化が進み、人口減少が手遅れになっているのと同様、林業も20年ぐらい前なら間に合ったかもしれないが、今やってもゼロから再構築しないといけないレベルまできている。森を育てるには、林業従事者を育てる必要がある。だが、育林は本当に儲からない。公共事業と同じようにやっていかないと森林が維持できない」
佐藤氏の説明に、プロデューサー・慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「ビジネスとして成り立たないなら、自治体がやるべき仕事として組み込むことはできないのか」と質問。その上で「完全に公務員化することに何か問題があるのか?」と疑問を投げかけた。
これに対し、佐藤氏は「この20年ぐらいの間、行政改革といって、地方自治体の職員はずっと減らされてきた」と役所の人員計画に言及。「組織をスリムにして、今まで長期で勤めていた地方公務員も『会計年度任用職員』という非常勤かつ単年度の契約で不安定な雇用にした。今もこれは進められている。完全公務員化が私も正解だと思うが、世の中の流れが逆になっている」と述べた。(「ABEMA Prime」より)
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