5月、女子プロレスラー・ジャガー横田の夫で医師の木下博勝氏が、救急搬送されベッドに寝ている長男の写真をSNSに投稿したところ物議に。また、ある男性タレントが5歳息子の遊園地でのおもらしをブログに公開したところ、「公にするのはかわいそう」などと親の発信による子どものプライバシーや肖像権の侵害が懸念され、批判が続出した。
そんな中、注目を集めている言葉が「シェアレンティング」。共有(Share)と育児(Parenting)を意味する言葉を合わせた造語で、親が子どもの写真や情報をインターネット上で発信する行為のことを指す。フランスでは今年、子どもの肖像権の保護を目的に、過剰に子どもの写真を公表する親を取り締まる法案が提出された。
子どものプライバシーはどこまで配慮すべきなのか。『ABEMA Prime』で議論した。
■法整備は必要? 海外では訴訟も
木下医師に話を聞くと「投稿写真は回復して元気になった後のもの。普段から息子が嫌がる場合はアップをしないで、話し合った上で投稿している」との回答があった。この事情を知らず、ただ「救急搬送された息子」として写真を見た人たちは戸惑ったことが考えられる。
弁護士の南和行氏は「子どもにも人格権がある。肖像権やプライバシー権はそれぞれ大人から独立して存在していることを確実に意識すべきだ。ただ、子どもは『プライバシーが侵害された』と自分で主張できないので、そこをできるだけ守ることが親の義務。もし自分の“いいね”を増やすために子どもを使っている側面があるとすれば、結果的に子どもの権利が侵害された際の責任は親にあるかもしれない」と指摘した。
フランスの規制法案には「子の私生活コンテンツの公開には両親2人の同意が必要」などと盛り込まれているが、6月1日の両院協議会で可決はされず、議会で練り直す予定となっている。
パックンは「子どもが問題を起こしたら親が賠償責任を負う構造がある中で、親が“自分の子どものことをしっかり考えている”“子どもにとって一番良いことをやろうとしている”ならば、外からはあまり口出しできないと思う。『傷つくかもしれない。考え直すべきだ』と注意喚起するのはいいかもしれないが、『子どもの写真をアップしちゃダメ』というところまで干渉していいのか」と投げかける。
「ニルヴァーナ」のアルバムジャケットに「裸の赤ちゃん」が採用されてから30年後、大人になった当該男性が写真は「児童ポルノ」に当たるとして訴訟した事例がある。州・連邦地裁は訴えを退ける判決を下し、男性は控訴する意思を示している。
これにパックンは「後から文句を言う権利は当事者にあるので、こういうケースは裁判で争えばいいと思う。ただ、子どものビジョンを子どもが背負わなければいけないような育て方は、あまりよくないのでは」と述べた。
南氏は「公権力が介入して親を止めることは、理屈上も技術的にもできないと思う。とはいえ、親は『子どものためにやってあげているんだ』と言い訳をして自分がしたいことをやっている場面はいろいろあるはず。SNS投稿を含めて、『あなたのためにやったんだ』ではなく『私のためにあなたを使った。ごめんなさい』と言える覚悟で親はやるべきだ」との考えを示した。
■子どもにどう伝える?教育が必要なのは親?
そもそも子どもの同意をどう取るか、子どもにどう伝えるかという点について、子役時代から活躍する俳優・安達祐実の母親であるタレントの安達有里はどう向き合ってきたのか。
安達は「SNSはなかったが、例えば雑誌。誰が見るかわからないが、その範囲では問題ないようにかなり気をつかっていた。『一度間違えると誤ったイメージがついてしまう』という状況は今と変わらずあったと思う」と話す。
一般社団法人SNSエキスパート協会の後藤真理恵代表理事は、シェアレンティングのリスクについて、「デジタルタトゥーとして公開したものが一生子どもの人生に付きまとう」「犯罪に巻き込まれる」と指摘している。
また、弁護士ドットコムの調査によると、約4割の親が我が子をSNSなどに「1年以内に投稿」と答えている。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は、親へのリテラシー教育が必要だとの考えを述べる。
「問題はシェアレンティングの副作用が大きいことを気づかずにやっている人がいること。子どもの保護のためにも、場合によっては『個人意思が確認できない18歳未満の子どもの画像を上げるのはやめましょう』という啓蒙活動が必要だ。
学校教育でSNSの問題を取り上げていないのが大問題。SNSの危険事例やLINEのトラブルなどを中学校から教える。それから親も、PTAの集まりが小学校からあるので、そこで『子どもの写真を上げるのはやめましょう』と話し合うべき。うちの子どもは私立の小学校だったが、実際に『学校行事の写真を撮ってアップするのはやめてください』ときっちりしていた。これは私立・公立に関係なくやるべきだ」
これに安達氏は「SNSがない時代に育ってしまった親世代はリスクの深刻さが分かっていない。今急に『え、SNSすごいな』という感覚なのだと思う」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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