ひき逃げ事件から1年後の遺留品公開に「なぜ今?」、遺族らの疑問 別府警察署「ご遺族に納得いただけたかわからない」に元刑事が苦言
【映像】「別府ひき逃げ」逃亡1年 警察の捜査の今
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 2022年6月29日に大分県別府市で発生したひき逃げ事件。信号で止まっていたバイク2台に軽乗用車が追突し、19歳の大学生1人が死亡、1人がけがをした。警察は現場から逃走した八田與一(はった・よいち)容疑者(26)を道路交通法違反の疑いで全国に指名手配。逮捕につながる有力な情報提供には遺族が最高500万円の懸賞金をかけているが、未だに行方はわかっていない。

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 八田容疑者は事件の直前、事故現場近くのショッピングセンターの駐車場で、亡くなった大学生Aさんに対し一方的な言いがかりをつけていた。大分県警によると、八田容疑者の軽乗用車は時速70キロ以上で追突し、ブレーキもかけずに電柱に激突。被害者2人のバイクは、交差点の先まで吹き飛ばされ、Bさんは奇跡的に軽傷だったが、Aさんは心肺停止となり病院で死亡が確認された。大分県警は、八田容疑者が故意に追突した可能性も指摘しているが、逃走中のため明らかにはなっていない。

 Aさんの遺族と、母親の「ママ友」ら有志で活動する「大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会」は、1日でも早い逮捕を願い、自主的に情報を集め、警察へ届けている。

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「小さな頃から一緒にいて、故人(Aさん)も私たちの子どもと、ずっと仲良く兄弟のように遊んできたので、本当に許せない。同じ子を持つ母として、友人として、できることは寄り添いながら一緒にやっていくしかない」(「願う会」事務局長)
「本当に小さな力なんですけど、自分ができることを一緒にやりたい」(「願う会」メンバー)

 大分県警は5月25日、八田容疑者の車や動画とともに、事件当時の車に残されていたリュックとサンダルなどの遺留品を公開した。しかし、事件から11カ月後の公開とあって、Aさんの母親は「なぜ今なのですか?」とメッセージを出した。

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 事件で奇跡的に助かったBさんは、一般公開で「事件の悲惨さ」が知られることはよいとしながら、「あまりにも遅すぎる。今更って感じ」と苦言を呈する。

 遺留品の公開時、警察は報道から「ご遺族は大事なこれらの証拠をなぜもう少し早く公開してくれなかったのか、疑問に思っている」と問われ、こう答えた。

「公開によっての新たな情報(が得られる可能性がある)。反対に、防犯カメラの性質上、(映像を)公開していいのかどうか。Tシャツの遺留状況についても、万が一、誤った憶測が生じかねない懸念があり、十分検討した上での発表に至った。その点は事前に、ご遺族に説明している。正直、納得いただけたかはわからないが、同じ内容で説明している」(別府警察署交通課・正成祐治課長)

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 また事件当日、変わり果てた息子と対面したAさんの父親は、その後すぐ警察署への同行を求められ、事件の詳細も伝えられないまま、解剖の承諾書に記入するよう言われ、その対応に大きなショックをうけたという。

「死亡確認から2時間ぐらいしか経っていないのに、書類を出してきて『解剖しないといろいろなことがわかりませんので』と。突然そんなことを言われても、サインなんかできない。『サインできないなら裁判所から(解剖の承諾を)取りますから』と一方的に言われて、警察からしたら一事件のひとつなのかなと……」(Aさんの父親)

 元宮城県警で、現在は交通事故調査鑑定人の佐々木尋貴(ひろき)氏は、「最初はご遺族の信頼を勝ち取ること」だと語る。自身も警察官時代、当時18歳の息子を交通事故で亡くした。警察と遺族の温度差を痛感した経験から、難しいことは重々承知していると前置きしつつ、事件関係者には「情報はわかる段階まで丁寧に説明してあげること」が必要だと投げかける。

「初めて遺族という立場になって、自分が扱った死亡事故のご遺族のことを考えた。なんて自分は、適切にご遺族に向き合ってあげなかったのか。『主人の時計知らないか?』とか『メガネがないの』、それに対して『本当にわからない』と追い返していた。『もう来ないでくれ』とまで言った。警察の仕事は、綺麗事やプライドを保つためのものではない」(佐々木氏)

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 元埼玉県警刑事の佐々木成三氏は、遺留品公開前に、しっかり遺族に説明することが必要だとの立場だ。会見で出た「納得いただけたかはわからない」との警察発言は「余計な一言」だとし、理解できるまで説明するべきだと指摘する。

「なぜこの時期に公開するのか。その意図をちゃんと遺族に説明する。世論がどう感じようが、遺族が理解していれば別にいいはずで、『遺族が納得できているかわからないが』という言葉を加えたのは疑問だ」(佐々木成三氏)

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 弁護士の清原博氏によると、捜査の進展状況が逃亡犯に知られてしまうのを防ぐために、遺留品公開を控えているケースはよくあるという。ただ今回は衣服やスニーカーなど、速やかに公開しても捜査に影響が出ないものだと指摘、「本当に遅すぎる。別府警察は反省すべき」との考えを示す。

 元徳島県警警部の秋山博康氏は「警察は被害者の代理人。被害者のため、遺族のために尽力して捜査するのが鉄則」と語る。自らが泥棒被害を理由に警官を志した経験から、「遺族は警察に期待している。その期待に応えるのが警察の仕事」だと話した。

 警察が「捜査してやっている」といった態度になると、遺族との信頼関係は失われてしまう――。その「すれ違い」を解消することから始める必要があると、佐々木成三氏は指摘した。

「(警察への苦言は)批判ではなく、『捕まえてくれ』という期待だと受け止めてほしい。
警察にはいろいろな情報を集約して頑張ってもらいたい。」

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 別府の事件について、警察は情報提供を呼びかけている(別府警察署:0977-21-2131)ほか、番組Twitter(ABEMAニュース/@News_ABEMA)のDMでも事件や容疑者に関する情報を求めている。(『ABEMA的ニュースショー』より)

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