日本人初の4階級制覇王者、井岡一翔(志成)が24日、東京・大田区総合体育館でWBAスーパーフライ級王者のジョシュア・フランコ(米)を判定で下して世界チャンピオンに返り咲いた。

【画像】フランコを“ベロ出し”挑発する井岡 試合後はノーサイドのハグ

 昨年大みそか、WBO王者だった井岡はWBA王者のフランコと2本のベルトをかけた統一戦に挑んでドロー。ベルトを守ったとはいえ、フランコとこのまま決着をつけずしていいのか。そう考えた末に「挑戦者としてベルトを奪う姿を見せたい」と決意してWBOベルトを返上。2015年4月のフアン・カルロス・レベコ戦以来、8年ぶりとなる挑戦者の立場を選んだ。そこまでして退路を断ち、フランコとのダイレクトリマッチにこだわった。

 ところが試合前日、フランコがリミットから2.9㎏もオーバーして計量に失格、王座をはく奪されるという思わぬ事態に見舞われる。試合の価値を貶められ、「フランコに対して怒りはないか」と問われた井岡は「まったくない。自分のやるべきことをやるだけ」と不退転の決意を表明した。

 井岡の覚悟は試合開始と同時にボクシングに表われた。いつも通りしっかりガードを固めながら、初回から様子見をせず、アグレッシブに手を出していく。右オーバーハンドから左ボディのコンビネーション。半年前の第1戦ではフランコの圧力を許してしまい、ロープを背負うシーンを多く作ってしまった。その反省を十分に意識した立ち上がりだった。

「自分が倒されても、自分が倒しても後悔がないように勝負しないといけない試合だった。その気持ちがあれば下がらないし、相手の得意分野で勝てば負ける要素はない」

 フランコの手数を封じる。それが井岡の自らに課したミッションだ。フランコは3発、4発、5発とパンチをまとめるのが得意で、第1戦では井岡を何度もディフェンス一辺倒に追い込んだ。これを封じるための秘策がカウンターパンチだった。相手の一発目のパンチに必ずカウンターを打ち込む。そうすれば相手は2発目、3発目のパンチが出せなくなる。一歩間違えばこちらが被弾するリスクのある方法だが、井岡は覚悟を持ってこの積極的カウンター戦法を遂行したのである。

 これによりフランコは大みそかのときのように自在にパンチが打ち込めなくなった。相手の長所をつぶした井岡は乗っていく。巧なポジショニングを駆使して、右から左ボディ、右ボディストレートから左フック、さらには細かいジャブを織り交ぜ、フランコを井岡ワールドにはめこんでいく。これぞ井岡と言うべき、いぶし銀のボクシングだった。

 フランコも意地を見せ、中盤に波状攻撃を見せて形勢を逆転しにかかったが、一度ペースを握った井岡が崩れることはなかった。井岡は試合終了のゴングと同時に、赤コーナーのコーナーポストに上って雄叫びを上げた。「自分が戦い抜く姿勢を見せることができた」という意思表示だった。

 読み上げられたスコアはジャッジ1人が115-113、残る2人が116-112で井岡の勝利。スコア以上に井岡が試合をコンロトールした試合だった。

 井岡の意志の強さ、強靱なメンタルがこの日の勝利をもたらしたと言えるのではないだろうか。対戦相手の計量失格という試合を台なしにしかねない事態にも動じなかった。試合3日前には突如として昨年大みそかのドーピング検査の結果が発表され、大きく報道された。本人は「自分にうしろめたいことは何もない」と胸を張ったが、これほどの逆風をはね返すことのできる選手はそういないだろう。

 試合翌日、フランコは自らのSNSで引退を発表、キャリアを通じてメンタルヘルスの問題に苦しんでいたことを明かした。だからといって計量失格の問題がチャラになるわけではない。関係者は2度とこのような事態が起きないよう対策を練る必要があるだろう。ただ、精神的にギリギリの状態だったフランコが鉄のハートを持つ井岡と拳を交え、最後まで勝利にこだわり、戦い抜いたこともまた事実として記録しておきたい。

 34歳にして井岡は生き残った。今後はかねて目標としているWBC王者、フアン・フラシスコ・エストラーダ(メキシコ)との試合を実現させるべく、残りのボクシング人生のすべてをかける決意だ。

「(エストラーダと)できてもできなくても戦い続けることを人生として見せていきたい。1年でも2年でも長くボクシングをできるなら、僕の戦う姿をみなさんに伝えたい。それがいつ終わるか分からないけど、戦っている人に対して横を見たらともに走り続ける僕でありたい」

 初めて世界チャンピオンになってから12年あまり。井岡一翔はいまなお衰えぬ闘志で戦い続けている。この先、どんな困難が待ち受けていようと、その姿勢だけは崩さない。そんな強い思い、生き様が伝わってくる試合だった。

【画像】フランコを“ベロ出し”挑発する井岡 試合後はノーサイドのハグ
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井岡一翔、判定勝利で執念&涙のベルト奪取! 逆境乗り越え“体重超過”で王座はく奪の前王者・フランコ撃破
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