沈没したタイタニック号を目指して運航された潜水艇「タイタン」の事故により、5人の生存が絶望視されている。アメリカ沿岸警備隊は、深海で発見された残骸が、タイタンの耐圧室の一部との認識を示した。
タイタンは、水深3800メートルまで潜る予定だった。しかし潜水開始から1時間45分後に消息を絶ち、数時間後に2740メートルで「壊滅的な爆縮」が起きたという。
爆縮はどのような現象なのか。潜水艦と深海とのエキスパートである、元海上自衛隊・潜水艦隊司令官の矢野一樹氏によると、「我々は爆縮ではなく、圧壊と呼んでいる」といい、外圧に船殻(せんこく)が耐えられなくなって、押しつぶされてしまうことを意味するという。
爆縮を人為的に起こした実験映像を見ると、全周囲からの強い圧力が一気に内側にかかり、容器が潰れ破壊されてしまうのがわかる。
「押しつぶされる瞬間に、中の空気は一瞬にして高温になる。その途端に壊れた船体から海水が流れ込んでくる。人間が生きられる状況ではない」(矢野氏)
タイタン内部の構造として、船室にはモニターが設置されており、5人乗れば足も伸ばせないほどの狭さだ。タイタンのような潜水艇は一般的に、耐圧殻(たいあつこく)と呼ばれる装置で気圧を保ち、押しつぶされないようにできているという。
「タイタンは4000メートルまで潜れると言っているが、金属疲労が相当進んでいたのだろう。溶接面や船殻自体に腐食がないかを調査して、もし腐食等が認められた場合には肉盛りをして、再び安全潜航深度までの応力に耐えられるように船体を強化しないといけない。金属疲労が大きいと、早く船殻が傷み、今回のように何でもない深度においても圧壊してしまう」(矢野氏)
潜水ツアーを運営する「オーシャンゲート」は、タイタンが5年前の性能テストで、初めて4000メートルの深海に潜ることに成功したとしている。しかし実際は2740メートルで爆縮(圧壊)したとみられる。
矢野氏は潜航可能深度と、船殻が壊れてしまう圧壊深度の間に、どれだけの「安全率」を取っているかが問題だと指摘する。しかし、今回のタイタンの運用は、あまり大きな安全率を取っていないのではと分析している。
タイタンに乗船していたのは、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏が設立した会社の宇宙旅行や南極も訪れた経験を持つイギリス人冒険家、ハミッシュ・ハーディング氏(58)。パキスタン屈指の富豪一家の出身で、イギリス人実業家のシャザダ・ダーウィット氏(48)と、その息子で学生のスレマンさん(19)。元フランス海軍の潜水士で、現在はタイタニックの残骸の権利保有会社で水中調査のディレクターを務める、“ミスター・タイタニック”ポール・アンリ・ナジョレ氏(77)。そして、今回のツアーを運営するオーシャンゲートのCEO、ストックトン・ラッシュ氏(61)の5人。ラッシュ氏の妻はタイタニック号の犠牲者夫妻の子孫であるとも報じられている。
そもそも潜水艇は、どうやって潜水するのか。矢野氏の説明によると、タイタンのようなタイプの場合、基本的にバラストと呼ばれる錘(おもり)を抱えて、水よりも重くすることにより浮力を消し、バランスを取りながら潜っていくという。バラストを放棄すると水より軽くなり、浮上する仕組みだ。
事故に至る一因として、メンテナンスのコストダウンがあったのではないか、というのが矢野氏の見立てだ。タイタン潜水ツアーは7泊8日で、参加費は1人あたり約3500万円。単体のツアーとしては高い印象を受けるが、参加費の総額は1億数千万円程度と考えると、「とても採算がとれないだろう」と語る。
「潜航艇自体が問題。水圧の恐ろしさをまったく知らない人が設計したとしか思えない構造。『安全的に配慮の欠けた船』と言ったら語弊があるかもしれないが、一般の人を乗せることはちょっと考えられない」(矢野氏)
現地で取材するニューヨーク支局の鈴木彩加記者は、すでに原因究明に焦点が移っていると解説する。タイタンは以前から、あらゆる人から「この船は危ない」と指摘を受け、また事故発生を予期した内部告発が行われるなど、業界内では「いわく付き」の存在だったという。
「潜水艇には安全性を認証する機関があるが、認証自体は義務ではなく、タイタンも受けていなかった。自分たちが『安全です』と言い張れば、人を乗せて潜れる状況にあった。ただ、水深4000メートルまで潜れるような潜水艇は世界中で10隻しかなく、そのうちの9隻は認証を受けている。唯一受けていないのがタイタンだった」(鈴木記者)
捜索には最低でも1週間かかるとみられる。無人潜水機による捜索では、発見した破片を引き上げることができなかったが、調査船との共同作業によって、次に破片を発見した時には引き上げられる見通しだ。破片が集まることで、損壊の発生過程などの原因究明につながると思われる。また、運営企業に対する刑事的責任や行政処分、犠牲となった人の家族からの損害賠償などの可能性も考えられるということだ。(『ABEMA的ニュースショー』より)
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