部屋中に置かれた大量のフライパン。全て傷が付いていたり、焦げていたりして、ほとんど使い物にならない。それらを真剣にチェックする人々。「宝の山」だと語る彼らは、何をやっているのか。
「どういったフライパンがあるのかを解析して、そこから『餃子の改良』に生かしたい」(研究員)
神奈川県川崎市にある、味の素が冷凍食品の研究・開発を行う工場。同社の「ギョーザ」といえば、20年連続で売上No.1となっている看板商品だ。油と水が不要で、フライパンひとつで簡単かつパリパリの羽つき餃子が作れると大人気。2021年の東京オリンピックの選手村の食堂でも採用された。
開発担当者は、各地の餃子店を食べ歩くなど、これまで研究を重ねてきた。とくにこだわった点は——。
「誰が食べてもおいしいと思われるように、まずジューシーなこと。店で食べる時も、パリっとした羽が広がっているとテンションが上がる。パカっとひっくり返すと、羽根が丸くきれいにきちっと付いている」(味の素冷凍食品 マーケティング部・山下賢吾さん)
実際にプロの料理人にも食べてもらった。
「おいしい。お肉の味もちゃんとして、薄皮でさっぱりと。何個でもいけちゃう」(大連餃子基地DALIAN 麻布十番店・福島将一店長)
福島店長によると、餃子はプロでもコツがいる繊細な料理。特に羽つき餃子は、フライパンに皮をくっつけずにパリっと仕上げることが意外と難しいという。
「水が蒸発するまで待って、羽根の色を見て、あげる。微妙な差で焦げたりしちゃう。強火だったら、中に火が通らない」(福島店長)
そうした調理のストレスを解消したのが、味の素の冷凍餃子だった。山下さんが「先人たちの『餃子愛』が詰まっている」と語るのが、水と油、粉をあらかじめ凍らせて、餃子の底にドッキングさせている「羽の素」だ。これによって、凍ったまま並べて中火で5分間蒸し焼きにするだけで、パリっとジューシーに焼き上がる。
「1日に何十回も焼くこともある」と語るのは、味の素冷凍食品 商品開発部の宅宮規記夫さん。冒頭にフライパンをながめていた人物だ。フライパンで焼く実験を20年間繰り返し、羽根の広がり方やはがれ方を研究した結果、フライパンに張り付かない冷凍餃子が完成した。
しかし、「フライパンに張り付かないって聞いていたのに、焦げた」といった投稿(現在は削除)が寄せられてしまった。
「我々も自信を持っていたので盲点だったというか、反省した。1回調理がうまくいかなかったという経験があると、二度と食べたくないし買いたくないと思う。きれいに焼けたという人を増やすためにも、いろいろなフライパンを研究して、どんなフライパンでも焼ける調理にしなければならない」(山下さん)
そこで、「弊社の冷凍餃子が張り付いてしまうフライパンをお持ちの方は、着払いでお送りください。研究開発に使用します」と呼びかけると、1週間ほどで全国から2000個以上のフライパンが届いた(現在は募集締め切り)。実は多くの消費者が同じ不満を抱いていたのだった。
フライパンをながめると、利用者の食生活や性格が見えてくる。
「正直想像を超えている。我々にとっていい気づき」(宅宮さん)
「我々が実験室で使っているのは、きれいなフライパンだったと改めて感じる」(味の素冷凍食品 商品開発部・上山宏一さん)
届いたフライパンで試しに焼いてみると、「ぜんぜん剥がれない……」。研究開発においては「まだまだやることがいっぱいある」という。
「お客様それぞれのこだわりとか思いが見えたのは、すごく驚いた。どこまで行っても、きっとゴールがない。我々がそこに満足したら、もう進化はない。時代に合わせて、常に進化させていかないと」(山下さん)
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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