経産省トランス職員が逆転勝訴も「自認だけでいい」ではない? 性的少数者と職場環境の未来は
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 性同一性障害と診断されていた経産省の職員が庁舎内で女性用トイレの自由な使用が認められず、2階以上離れたトイレを使うよう制限されたことを不当だと訴え、国に処遇改善などを求めていた裁判。11日、最高裁が初めての判断を下した。

【映像】2015年に提訴した原告の経産省職員

 一審の東京地裁は「女性用トイレの使用制限は違法」だと認めた。しかし、二審の東京高裁は「適法」だとする判決に。職員側の上告で、争いは最高裁の場にもつれ込んだ。争点となったのは、「トイレの使用制限は問題ない」とした、人事院の判断が違法かどうか。注目された判決は、「著しく妥当性を欠いたもの」として違法性を認め、職員側の逆転勝訴を言い渡した。

 判決を受けた会見で、原告の経産省職員は「大事なのは自認する性別に即した社会生活を送ることであって、トイレやお風呂など矮小化して議論すべき問題ではない」と述べたが、今回の判決は今後、社会にどんな影響を与えるのか。『ABEMA Prime』で議論した。

■提訴から8年「誠実に段階を踏んでこられたのだと思う」

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 男性から女性へ性別変更したNPO法人「MixRainbow」理事長のみのり氏は「個別の事情がいろいろある中で、今後判例を蓄積していくことで良い方向に進むのではないかと、純粋によかったと感じた」と今回の判決にコメント。

 著書に『私たち弁護士夫夫です』がある弁護士の南和行氏は「まず前提として、判決の対象は、本人が『改善してほしい』と言ったことに対する人事院の判断だ」とした上で、「会見で『トイレやお風呂の問題に矮小化しないように』とおっしゃっていたが、“これだけ困っているんだ”という個別具体的なことを目の当たりにした時に、私たちがどう受け止めて、どう問題の解決にあたっていくか。人事院がやったような“みんなもびっくりしているから、あなたが我慢しないと仕方がない”というのは駄目なことで、“この人の問題をまずどうしよう”から始まってこそ妥当で公平だ、と最高裁が言ったことに大きな意味があると思う」と述べる。

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 この経産省職員は、健康上の理由で性別適合手術は受けていないが、ホルモン治療を続け女性として生活。2010年から同僚への説明会などを経て女性の身なりで勤務し、更衣室の利用も認められていた。みのり氏は「なぜトイレだけに人事院が制限をかけたのか。更衣室とトイレで扱いが異なるのは違和感しかなかった」と疑問を呈する。

 また、提訴した2015年から8年という時間の経過に、「社会はすごく変わってきたが、在職しながらのトランスは本当にハードルが高い。男性時代に一緒に働いていた人もいれば、あとから入省してきた人もいて、社内における人間関係の再構築はすごく大変なところがある。後から入省してきた人に“なぜこの人はいつも他のフロアしか使わないの?”と違和感を持たせるのもおかしい話だ。この上告人は上司に相談したり、説明会まで開いたということなので、誠実に段階を踏んできたのだと思う」と推察した。

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 子ども時代から心身の不一致に悩んできたみのり氏は、54歳で性別適合手術を行い、戸籍上の性別変更を行った。「自分が違和感を持った時、家族にもうかつに言えないわけだ。家族であっても偏見を持っている人がいて、それこそ家を追い出されたという話もたくさん聞く。そういう意味で、今私が活動しているような相談できる場所は必要だと思う」と、移行の最中にある社会の現状に言及した。

■「“自認だけでいいのか”という声が拡散されるが、そういう話ではない」

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 ジャーナリストの堀潤氏は「次のステージに向かえる大きな一歩だが、積み残された次の議論がある」と指摘。「この判決が出たことによって、“自認だけでいいのか”“手術を受けなくても認められるのか”“とんでもないことが起きる”ということがツイートされ、拡散されているが、そうではない。100人いれば100通りの状況があり、周りの環境もそれぞれだ。“トランスジェンダー”という一つの大きな主語で語られるようになってしまっていて、ここは丁寧に整理しないといけない」と投げかける。

 原告の職員は「他のまだまだ差別が残っている事案に対しても応用できるような判決ではないか」と述べている。みのり氏は「まさにそのとおりだ。女性更衣室についても、トランスジェンダーが来るから着替える場所を特別に用意するということではない。中には乳がん経験者の方で、同じ女性用更衣室でも着替えるのが恥ずかしい、難しいという方もいらっしゃる。そういう見方をしていくと、LGBTだけではなく全体がいかに良くなっていくかを考えるきっかけになったと思う」との見方を示す。

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 その上で、「今回は職場での話だったが、各企業がどのような動きをするかがとても大事だ。LGBTを理解して支援する『アライ(ALLY)』の人たちを増やす施策として、コミュニティを社内で開催するとか。名前は聞いたことがあるけど詳しくは知らない、という人がたくさんいると思うので、そういうものを話し合う機会を一度作っていただくといいと思う。これまで男女を分けた上で社会のシステムなり環境が構築されてきた。“性別がない”という人もいる中で、いかに全員が幸せになれるかをいろいろ試しながら、時間はかかるかもしれないが最適解を見つけていけたらと思う」と述べた。(『ABEMA Prime』より)

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