結婚20年目の佐藤(仮名)さん夫婦。夫・たかしさんと妻・かおりさんは現在、2人の娘とともに幸せに暮らしているが、実は長年ある問題に悩み続けてきた。
【映像】「自己愛性パーソナリティ障害」が引き起こすモラハラ行為の数々
それはたかしさんが抱える「自己愛性パーソナリティ障害」だ。自己愛性パーソナリティ障害とは偏った自己愛から、自分は特別な存在だと思い込み、より多くの称賛を求め、平気で他人を見下したり、他者との共感性に乏しいといった特徴を持つ精神疾患。専門家によるとパワハラやモラハラを起こす一因とも言われており、特徴的なのは「自覚を持たない」ということ。無意識に周りの人を精神的暴力で追い込んでしまうという。
妊娠している妻の椅子を蹴り上げ全治1か月のけが、娘は円形脱毛症などに
たかしさんの場合、普段はやさしい夫だが、かおりさんが他の男性を褒めたりすると豹変する。「飲食店を経営してどんどん事業拡大している友達がいるが、そういうことを話すと目つきがワッと変わって、毛穴から怒りのオーラがバンバン出るような感じ。物が飛んできたり、妊婦のときに座っている椅子を蹴り上げられて全治1カ月くらいのけがをしたことも…」(かおりさん)
否定や見下されることを極端に嫌い、ひとたび機嫌を損ねれば、重度のモラハラが始まる。子どもたちにも暴言や暴力をふるうため、長女は円形脱毛症や自殺願望、リストカットなど深刻な影響を受けた。
悩んだかおりさんが専門家などのアドバイスを受け、たどり着いた答えが「自己愛性パーソナリティ障害」。だが、もちろんたかしさんは「俺は違う」と19年間一切受け入れなかった。
「娘が同じような結婚生活を送ったとき、ただ黙ってるだけでいてほしくなかった」夫と向き合い続けることを決めた妻
モラハラが始まった当初、おとなしく言うことを聞いていればいいと従順にしていたかおりさんだが、そうすることでたかしさんの言動はさらにエスカレート。
そこで、かおりさんは向き合い方を考え直すことに。「もし娘が結婚をしたとして、同じような相手との結婚生活の中で、ただ黙っているだけにはなってもらいたくなかった。なので反発というか、ずっと話し合って向き合うという計画を話した」(かおりさん)
とはいえ19年の間には、逃げたり、距離を取ることもあった。離婚届を突きつけたこともある。
そんな時、たかしさんは「(自分は)一生懸命仕事してるのになんでこんな態度とるんだとか、自分が正しいとか“君は何も分かっていない”とか、そういう態度でずっといた」と振り返る。
それでもかおりさんは、折に触れて自己愛性パーソナリティ障害の症状やモラハラの定義を見せ、「あなたのしていることはモラハラだ」とたかしさんに突き付けることを止めなかった。
「最初は、いやここまでひどくないだろうとか、これは違うぞという感じで否定していたんですけど、やはり何度も続くと、もしかしたらそうなのかな?と」(たかしさん)
そして、たかしさん自身もネットなどで調べていくうちに徐々に自覚が芽生えていく。
それに加え、子どもたちからのSOS、警察や児童相談所の介入。さらに、昨年たかしさん自身にがんが発覚したことで、命のはかなさや家族のありがたみに気づくことができた。
「過去を振り返って、奥さんや子どもの立場で考えたときにもうえらいことをしてしまったなと」。
長女の懸命な訴えもたかしさんの心を動かした。「自分はもう間違いなくこの障害を持っていると自覚している」(たかしさん)
かおりさんも「機嫌が悪くなって逆上しそうになった時に、ちょっと黙ったりとか、少し別室に移動したりすることが増えて、明らかに前よりも家庭の中で問題が起きることは減った」と変化を口にする。たかしさんが、努力して変わろうとしてるということだ。
「自分はすごい」なのに「ストレスに敏感」 自己愛性パーソナリティ障害を克服することの難しさ
精神科医・府中こころ診療所の春日雄一郎理事長は、「自己愛性パーソナリティ障害の患者は“自覚”を持たないことが多い」と語る。
春日氏は、自覚しにくい理由はいくつかあると前置きしたうえで、「自分はすごい」「自分よりも相手が下だ」と思っている点を挙げた。自分より下の人の意見を聞こうとはなかなか思わず「そういう謙虚さを持ちづらいというところが第一点」。
さらに「ストレスにはすごい敏感で、繊細な面がある方が非常に多いと言われる。そうすると、それに直面することを避ける点においても、なかなか(他人の意見を)聞くことは難しい」と自己愛性パーソナリティ障害を克服することの難しさを訴えた。
たかしさん・かおりさんのケースについては「自覚するまでが一番大変。いろんな経験があった上で、自覚して受け止めたのがすごく貴重なことで、大きな一歩だと思う」と称賛。
一方で、自己愛性パーソナリティ障害の人は“ストレスに敏感”という点において「大きな出来事がないと(自覚を促すことは)なかなか難しい」とも指摘する。
また、自覚を促そうにも、“人格”を指摘すると、より拒否反応が強くなってしまう。そのため、人を傷つけたり見下してしまう“行動”が良くないという指摘をしていくのが大事ではないか、と提言した。
(『ABEMA Prime』より)
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