7月、フィリピンで4年ぶりに開かれたのは、日本で看護師を目指すフィリピン人の面接会。しかし応募者はまさかの17人と過去最少だった。2009年以降、667人のフィリピン人看護師を受け入れてきた日本だが、今何が起こっているのか?
原因の1つとみられるのは言葉の壁。医療現場でのコミュニケーションは必須で、高度な言語能力が必要になることがハードルとなっているようだ。そしてもう1つが円安の影響。コロナ禍を機に世界で医療人材の獲得競争が激化し、収入の目減りが見込まれる日本で就労したいと思う人は少ないのかもしれない。
さらに人材不足は介護士業界でも。国は技能実習や特定技能制度で外国人も介護施設で働けるようにしているが、現在は適切な指導体制の確保が難しいことから自宅での訪問サービスは対象外となっている。
ただ、高齢化社会ではそうも言っていられない。24日、厚労省では人手不足解消に向け訪問サービス解禁の議論がスタートすることとなった。しかし、できる仕事を拡大したとしても、そもそも人が来なければ無意味――。
課題多き日本が他国に打ち勝ち、人材を確保するには何が必要なのか。25日の『ABEMA Prime』で議論した。
■介護も看護も集まらず…外国人材確保の壁は
神戸で4つの特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人「報恩会」理事長の奥野和年氏は「看護の資格は国家資格で漢字がメインになるが、フィリピン人は英語も非常に堪能なので、わざわざ難しい日本語を覚える必要がない。カナダなどの英語圏で、給料の問題はあるものの、生きやすいところを選ぶのは自然な流れだと思う」との見方を示す。
ベトナムで介護福祉士候補者を募集した中で、競争の激しさを実感したそうだ。「先月、JICAと一緒にベトナムの大学を5校ほど回ってきたが、どこの学校も有能な人材は日本に行かないと。カナダや韓国、ドイツはコロナ前から準備ができていて、そちらへの流れができている。例えば、韓国は雇用許可制といって国の公的機関が一括管理で受け入れも含めてやっていて、外国の人たちにとっては安心が大きい。日本は、介護士は厚生労働省の管轄、技能実習生は経済産業省の管轄になるなど、窓口が多すぎる」。
2025年度には介護職員が32万人不足するとされ、厚労省は外国人材の確保や環境整備が必要だとの方針を示している。そんな中、奥野氏が提唱するのが、外国人介護人材確保のための産官学(神戸市・神戸国際大学・報恩会・JICA)連携の取り組み「神戸モデル」だ。
「ホーチミンやハノイなどの人はわりと就業先があるが、都市部からちょっと離れると介護士、看護師の資格を持っていてもなかなか就業できない。そういう方々にしっかり勉強してもらうために、入国前から日本語を教えて、その後に6カ月留学というかたちで特定技能の資格を取らせる」
このモデルでは、来日時の航空券支給から、留学期間中は授業料・家賃(寮費)・食費は不要で、月に5~6万円の生活費も支給するなど、かなり手厚い制度になっている。一方で、志望者が増えてくると金銭面での負担も大きくなり、対応しきれなくなるのではないか。
「授業から国家試験を受けるまでで大体1人当たり200万円を切るぐらい。技能実習生や特定技能の場合、その教育費やブローカーを含めて400~500万取られるので、半額以下だ。3年経てば資格が取れ、その後はずっと働けるので、来る人も安心できる。看護の資格は非常に難しいが、介護のほうはフリガナがついていたり、日本よりも試験時間が長かったりして、合格率も高い」
彼らの働きぶりはどう感じているのか。奥野氏は「非常に真面目で素直。最初はやはり高齢者の方がどう思うかとドキドキしたが、会話も弾みかわいがってもらっている。“これは大丈夫だ”と思ったので、だんだん増やしていった。働いている人同士も、長くやっているフィリピンやベトナムの子たちが主任など役職に就いているので、彼らにうまく間に入ってもらっている。離職率はそんなに高くない。特に“資格を取らせてもらった”ということをすごく彼女、彼らは思う」と説明。給料も日本人と同水準にしているということだ。
■外国人の訪問介護解禁には不安の声も「現場としては働いてほしい」
外国人の訪問介護解禁の議論がスタートする一方で、「今頑張っている介護士の給料を上げる気はないのか」「家の中に入れるのは心配」などの不安の声も大きい。
奥野氏は「現場から見れば働いてほしい、訪問介護に来てほしいのが本音だ。言葉の壁のこともあるが、そこは1つ条件を設定する。例えば、介護福祉士を受ける日本語のレベルは上から2番目のN2で、日常的な会話ができる。そういう方に訪問介護に行ってもらう、というのは明確だと思う。2、3年近く施設などの現場で働いているからノウハウもある」と述べる。
報恩会では、職員約350人のうち約30人が外国人。そこでの環境を受けて、報恩会で働きたいという外国人もいるという。「受け入れているところには集まりやすいが、日本人のみのところにはなかなか入らない。差が出てきているのはもどかしいところだ」。
元衆議院議員で弁護士の菅野志桜里氏は「せっかく環境が改善しているのにPRできていないのには、1つ原因があると思っている。配偶者も仕事ができたり、子どもも連れて来られたりするのが特定技能の未来にあるということは、やはり政治家の一部は言いたくない。移民につながるからだ。“一定の資格やハードルを設けながらそういう道に日本は進みます”ということを、『移民』と言いたくないがためにPRできないということは、すごく国益を害していると思う」と指摘した。(『ABEMA Prime』より)
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