2社からクビを宣告された立場にも関わらず、不当解雇をタテに勤めていた会社から合計4700万円の和解金を勝ち取った“モンスター社員”が話題を集めている。
現在は、兵庫・芦屋市でUberEatsの配達員をしている佐藤大輝氏(32)。かつて大手運送業と美容関係の会社で正社員として働いていた彼は、どちらの会社からも解雇を宣告された。しかし、これを不当だとして2社を提訴。結果どちらも“解雇撤回”した上で、1社目は700万円、2社目からは4,000万円の和解金を支払った。
その後、一連をSNSで発信し話題に。タイトルは『モンスター社員の「円満退社」の手口』。佐藤氏は、「解雇通知書とは高額当確実の宝くじ。ごちそうさまです!」と晴れやかだ。
「円満退社」の手口
そもそも、なぜ解雇になったのか。
1社目について、佐藤氏は「やらかしたわけではない」と言う。成績は良くなかったとしつつも100時間に及ぶ残業や「辞めろ」と胸ぐらをつかまれたことなどをあげ、会社側に問題があったと主張した。
2社目は「勤務態度不良」。佐藤氏によると勤務時間の範囲内で仕事をしていた実感はあり、査定も標準を上回っていた。ただ、会社から支給された携帯に休日や勤務時間外に連絡が来ても対応しなかったこと、さらには「対応したくない」と意思表示をしたことにより解雇を匂わされた。そこで「違法労働をしろということか?と聞いたら“そんな感じ”という発言があったので録音した」と佐藤氏。1社目の経験もあり、「和解金を取れる」と初期の段階で感じた。
2社目の和解金は、500万円の提示からはじまったが、断り続けたところ最終的に4000万円にまで上がった。当時の年収は500万円だったので、およそ8年分の給与を和解金で得たことになる。
解雇の壁
労働契約法第16条には「解雇は客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」とある。この“客観的に合理的な理由”がネックとなり、解雇は認められないとされた判例は6割以上にのぼる。高すぎる解雇の壁に悩む企業は多い。
株式会社レギュラス代表取締役の小塚祥吾氏は「クビとは言っていないが、もう会社に来なくていいよ、と言ったことはある」とコメントし、「上司の命令だから休んだ、と言って、働いていることにして休んでいた人がいた」と自身の経験を語った。
解雇問題に詳しい、働き方改革総合研究所株式会社・代表取締役の新田龍氏は「クビに関して裁判で争うケースはそんなに多くない」とし、「令和3年の1年間では、解雇にまつわる労働局、労働基準監督署の相談件数が約3万3000件。その中で実際に裁判に至ったのは1000件くらい」と紹介。また、和解金の相場は平均300万円、中央値で150万円だとし、佐藤氏が受け取った和解金は「かなりレアなケース」と説明した。
では、なぜ企業側は4000万円も払うことになったのか。
新田氏は「企業側の労務管理が明らかにダメだった」と断言。賃金を支払わずに休日対応を強要することになる労基法違反にあたり「企業側にもツッコまれたら痛い点はあった」と述べた。
さらに日本の問題点として、解雇の金銭的な解決ができない点を挙げた。現状では「会社に戻りたいので解雇を無効にして欲しい」と訴えるしか方法がない。佐藤氏のケースも「本当は戻る気がなくても『戻らせてくれ』と訴える。でも会社は戻らせたくない。それで話が長引いてしまい、会社は長引いた分だけのお金を払わなくてはならなくなり、この金額になった。手切れ金という形だ」と推論した。
小塚氏が、佐藤氏について「なんとなく会社に解雇されそうな雰囲気が見えている」と感想を話すと、EXIT兼近大樹も「会社側としては4700万円払ってでも“いなくなってくれてありがとうございます” ということかもしれない」と同調した。
とはいえ、労働者側から考えると、不当に解雇されないようにするのは大事なことだ。佐藤氏は、解雇時の“極意”として「証拠を片っ端から集める」「始末書・退職届は自分から出すな」「社員の証言はあてにするな」をあげる。
3つ目については「証言は証拠の価値がほぼない。パワハラなど、いざという時に仲間に証言をしてもらおうと思う人は多い。だがそれは愚策で悪手」とバッサリ。裁判で、自身にとって不利な証言が出てきても勝訴したことを根拠に挙げ、「発言も録音に残す。記憶じゃ駄目」と強調した。
モンスター社員をクビにするには
また、今の制度では、従業員がサボっていたり、仮に犯罪で逮捕されたとしても、ほとんどの場合解雇することはできない。問題がある社員を正当に解雇することはできないのだろうか。
新田氏は、法律上はクビにできるとしつつも「従業員が解雇不服を訴えた場合は、会社が負けてしまう可能性が高い」と説明。実際、逮捕を理由に懲戒解雇したところ、従業員が不服を訴え、無効になったという判例もある。たとえ刑法犯であっても、逮捕された時点ではダメで、起訴や有罪になった場合にだけ認められる。新田氏は「就業規則の作り方が大事」だと語る。規則に明確なルールが書いていないにも関わらず、社長が勝手にクビ宣告をしてしまい、後になってから揉めるケースが多いからだ。
また、解雇のしやすさについて新田氏は「世界で一番楽なのがアメリカ。勝手な理由で『お前はクビだ』と言っても問題ないというルール。それ以外の国だと、ヨーロッパも日本と同じくらいの難易度だ」と解説。ただし、日本が会社単位で採用しているのに対し、他国はポジション単位での雇用。「マーケティングのマネージャーであれば、その経験や資格を持った人を採用する。能力がないことが後で分かったら、それを理由にクビにできる」と新田氏。一方、日本の場合は、「能力がなかったらまずは他の部署に異動してから..と何段階かある」と説明した。
上場企業で管理部門の責任者をしていた小塚氏は、採用時の失敗談を披露。経理部長を採用するも、PCスキルは不十分、経理や仕事の知識もない、入社前の経歴もほとんどが嘘だった、という困った例だ。
こういったケースでは、周りの有能な社員が辞めてしまう。「こんな人に高額な給料を払っているのかと不満が生じ、有能な社員がいなくなる」(小塚氏)
雇う側が使える権利は2つ、賞与のカットと部署異動だけだ。前述の経理部長も異動させることで退職を促した。「よほどのことがない限り、日本では解雇できない。態度が悪いとか、仕事ができないというだけでは解雇ができない法律になっている」と嘆いた。
解雇をめぐる規制緩和について、新田氏は「もっとゆるくしたほうがいい」とキッパリ。解雇が厳しいと採用を厳しくしなければならない。そして採用が厳しくなれば受かりにくくなり、ブラック企業であっても辞めにくくなるという悪循環ができるからだ。
その上で、解雇の”金銭的な解決”を提案。判例によると「月の給料の半年分くらいを積めば和解で合意することが多い」と言い、「労働契約法第16条、合理的理由の中に6カ月分の給料を支払えば解雇できるという条件を入れるといいのでは」と話していた。
(「ABEMAPrime」より)
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