なぜ男女はわかりあえないのか。インターネット上ではその理由が脳の違いであるとして議論が行われているが、はたして男女の脳にはどのような違いがあるのか。脳に関する研究を続ける専門家に聞いた。
男性は論理的に物事を考え、女性は感情的に考える。男女の脳の違いによる差が思考に表れるという、いわゆる「男性脳」「女性脳」の代表的な説だ。
この「男女脳」という言葉が発端でひと悶着あったのが、8月25日から開催される日本PTA全国協議会の全国研究大会である。登壇者の人工知能の研究者・黒川伊保子さんについて、PTA会員らが「『男性脳』『女性脳』といった言葉を強調した言論活動をしてきた」などと指摘し、人選の理由を主催者に求めた。
この件について、ニュース番組『ABEMAヒルズ』の取材に対し、黒川さん側は、次のようにコメントした。
「これは臓器としての“脳”のみを指す言葉ではなく、脳が問題解決をする際に使うシステム、または思考法のことを指しております。こうした思考方法のモデルを知っておくことが男女あるいは立場による隔絶を無くし、相互理解に繋がるという考えで活動しております」
日本PTA全国協議会は講演の内容について、「『男性脳・女性脳』といった言葉を強調したような内容や、ジェンダー平等や男女共同参画社会、性の多様性を認める社会の推進に反するような考えを押し付けるような内容にはならない」として、予定通り開催するということだ。
そもそも、生物学的にみて男女の脳に違いはあるのだろうか。脳機能について研究する慶應義塾大学医学部の山縣文特任准教授に聞いた。
「脳の構造には性差が一部あると考えていいと思う。具体的には、最近の研究でイギリスのバイオバンク約4万人の脳構造のデータから性差を調査したものがあるが、脳の大きさや年齢など様々な条件を調整した後でも、大脳の皮質、体積の全体の約42%の脳の領域で男性の方が女性より大きい部位があったということだ。逆に、24%の領域で女性の方が大きいという結果が出た」(以下、山縣特任准教授)
MRIなどにより脳の構造を調べる大規模研究は様々な機関によって行われ、一部に性差があることはわかってきているという。その要因として考えられているのが、進化の過程、性染色体、性ホルモンなどの影響だ。例えば、生物学的な性別を規定する性染色体の異常によって発症する遺伝子疾患がある。X染色体の欠損が原因で女性が発症する「ターナー症候群」や、逆にX染色体が1本多いことで男性が発症する「クラインフェルター症候群」という病気では、脳の構造に影響があり、身体的な特徴や認知機能にも差が出ると言われている。
「例えば女性のターナー症候群だと、知的能力は正常な方が多いが、視空間構成や計算の処理が苦手だと言われている。一方、男性のクラインフェルター症候群は、高身長や精巣の萎縮、女性化乳房などの身体的な特徴がある」
しかし、注目すべきはその人が育ってきた社会のあり方、つまり“後天的な環境要因”も脳構造に影響を与えている可能性があることだ。
日本を含む29カ国の研究チームがジェンダー・ギャップ(男女格差)などを指数化し、各国の男女約8000人のデータを分析すると、社会的な性差が大きい国ほど女性の大脳皮質の厚みが男性より薄い傾向にあることがわかった。
「後天的な環境要因が脳の発達の性差に影響する。これが、かなり大規模な研究結果で示されている。生まれつきだけではなく、生まれた後の環境的な問題だ。『女性としてこう生きるべき』『男性とはこうあるべき』といった生育の環境要因が、実は脳構造で大きな差を作っていくことが研究で示された」
様々な点で男女の脳に構造的な違いはあるものの、それが行動や認知の差にどう影響しているかはまだ研究段階で結論が出ていない状況だという。
そのため、生物学的な違いと社会的な違いの議論を安易に混同しないよう注意が必要だと山縣准教授は話す。
「認知機能やコミュニケーション能力において、神経心理学・心理検査の結果から、性差は非常にわずかだと言われている。逆に、80%ぐらいがオーバーラップ(共通)しているという結果から、それが『性差』なのか『個人差』のレベルなのか、非常にわかりづらく難しい。ある項目において明らかに性差があっても、それ以外ではそこまで差がない。科学的な答えと我々が日常で感じている感覚は、簡単にすぐには結びつかない。現時点で『男性と女性は元々脳が違う』といった安直な二元論は、なるべく避けたほうがいいと、医療をしている立場としてお伝えしたい」
(『ABEMAヒルズ』より)
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