「世の中を元気にするために」萩原聖人、自身の楽しさを取り戻すための6年目「『勝って泣こうぜ』は一つの約束」/麻雀・Mリーグ
【映像】Mリーグ2023-24シーズン 開幕直前インタビュー

 その知名度とドラマチックな展開で、この5年間ファンを楽しませてきたTEAM雷電・萩原聖人(連盟)。昨シーズンはチームとして悲願としていた初のファイナルシリーズ進出を決めメンバー入れ替えを回避すると、3位入賞も果たした。ただ萩原の個人成績は落ち込み、またポストシーズンでは病気を患い、一時離脱も味わった。雷電のファン「ユニバース」には、シーズン中「勝って泣こうぜ!」と呼びかけた萩原は、愛する麻雀を楽しむ心を取り戻し、ファンとの約束を果たすために6年目のシーズンに臨む。

【映像】Mリーグ2023-24シーズン 開幕直前インタビュー

-昨シーズンの振り返りを。

 萩原聖人(以下、萩原) チームはいいところまで行きましたけど、個人的には決してよろしくない。ファイナルに行っても素直に喜べないというのはずっとありましたね。麻雀の結果に関しては数字が全てと受け入れるしかないと思うので、これがMリーグに対する現状の僕の力なのかなとは思っていますけど、恐れずに言えば麻雀は勝てないゲームだなと。4人に1人しか勝てない。勝ちだけにこだわってしまうと勝てなかった試合は0でいいのかという話になってしまって、そうは思いたくないなというところはずっと思っています。

 負けても面白かったよと思ってもらえるような試合が果たして去年は何試合ぐらいあったのかなと。自分では決められないので、見てくれている人、応援してくれるユニバースの人たちにどれくらい刺さるのかなというところは考えています。勝てなかったとしても、自分の存在意義がMリーグに果たしてあるのかというところはいつも考えていますね。

 勝っていたらもっといろんなこと言えるのかもしれないですけど、僕もいい歳ですし世の中のいろんなことを自分なりに理解している中で、じゃあ何を見せようかなというところは、そんな単純ではないという風には考えています。

-オフに行われたMリーグトーナメントでは久々に明るい感じで麻雀を打っていた。

萩原 あんなのはたまたまです(笑)。僕は勝った時はたまたまでいいと思っていて、自分がミスをしても相手のミスの方が大きければアガれることもあるし、努力して勉強するとアベレージはかなり上がると思いますけど、そうじゃない部分が勝負を左右するのが麻雀だなと思っている。

 「麻雀はエンタメである」ということは絶対に崩せないと思っていて、残り1枚しかないカンチャンを一発でツモって裏ドラが3枚乗ったらその時点で勝ちという時点でエンタメでしょう。世の中のエンタメもエンタメ要素ばかりだから面白いのではなくて、そうじゃない部分を丁寧にやるからエンタメが活きる。麻雀もそれに近いのかなと思っていて、半荘単位のあり方として僕はもう調子がいいとか悪いとか言うよりも、自分の好きな麻雀とどう向き合えるかというためにやっています。

 去年少し大きめの病気をして、このまま死んだら麻雀打てねぇのかなとか、ヒロアカ(漫画「僕のヒーローアカデミア」)の最終回、読めねえのかなとか(笑)。いろんなことを考えた中でMリーグにいる意味みたいなものが、あの時に死んでいたら残ったのかどうかみたいなことは考えたので。そこはブレずにやりたいと思いますね。

 5年間やってきて自分なりにファンとの向き合い方も見えてきた感じがします。勝って意味を残せるというのがベストですが、それだけにとらわれていたら僕が思っているような麻雀界の未来は来ないかもしれないし。

-ファン側もMリーグの5年間で少しずつ変わってきた。

萩原 ファンというよりも麻雀が好きな人たちが麻雀プロを潰すということはすごくある。その人たちの全ての首を縦に振らせるというのは無理なのでそれはまず置いといて、Mリーグを見て麻雀を始めましたという人たちが増えたというのが良かったんだろうなと思います。

 麻雀からではなく、選手からファンになったというのが今までの麻雀界にはなかったこと。実際どうなんでしょうか、5年経って何か変わったんでしょうか?いろいろ聞かれる側でそんなに大きく変わったかな?と思うんですね。結局何が一番盛り上がったかというと1年目なんですよね。見ている人の数では(当時を)超えているかもしれないけど、ある種の盛り上がりとかそういうのを超えた年とかあったかなと。今年は話題性も多いと思うんですけど、1年目を超える熱は僕はあんまり体感していない。

 eスポーツでもユーザーは増えていると思うんですよね。だけど盛り上がりというとやっぱり僕が危惧していたマンネリもある。見る人が増えるというのは無限に増えていくけど、やる人が増えるというのはかなり限界がある。ビジネス的なことを言えばスポンサーさんが増えましたとか、いろんなイベントができますとか、それはあくまでビジネスであって、全体として麻雀を盛り上げる次の一手って何なんだろうなと思います。それはもう僕世代じゃないなとも思っているところもある。もっと若い世代がちょっとずつ自分たちを抜いてくれるようなことがあればいいなと思います。

-月刊コロコロコミック(少年漫画誌)でMリーグが取り上げられたこともあった。

萩原 低年齢層に麻雀を勧めるというのが現段階で正しいのかがわからないです。雀荘にも入れないです。そういう動きがにわかに盛り上がっているっぽいですけど。だけど絶対盛り上がって欲しいので、若い子たちが塾のように麻雀を学ぶ、Mリーグを目指すんだったらしゃべらないといけないよとか、何を意識するべきなのかとか、楽しく学べるような学校を作れないかなと思ったことはあるんですよ。今の状況だと若い子たちを活かしきれない。本気でMリーガーを目指せる環境ではないからそこも難しいところだなと思っているんですよ。

-麻雀界が将棋界を参考にする部分も多かった。そちらの方向に進むのか。

萩原 将棋はエンタメとは言いづらいとは思うんですよ。わかりやすくファンが見ていて「よっしゃー!」というような場面が麻雀に比べて少ない。将棋の世界と同列に並べるのは将棋に対しても失礼だと思うし、麻雀とはちょっと別物かなと。

 麻雀プロはなりやすいですよ。将棋は大変。その部分でもまだまだそういう話じゃなくて別物かなと。頭脳ゲームという時点でしょうがなく並べられてきた気がするんですよ。これだけ麻雀が盛り上がって見てくれる人も増えた。この時点で将棋とは別物ですよと言ってしまった方がいいのかなと。

 それぞれの楽しみ方もあるし、麻雀ってこういう風にファンがつくことがエンタメなんですよ。将棋にもそういう瞬間があったかもしれないですけど、藤井聡太君の将棋は「魅せる将棋」だと言われたことがあるんですけど、僕はどこを見せられてるのかがわからない(苦笑)。

 Mリーグも6年目って中途半端ですね。麻雀で言ったらちょうど1段目ですから、これから重要な選択が関わってくる。テンパイしている人もいるしもう降りようかなという人もいるしリーチもかかり頃ですからね。

-今シーズンのテーマは。

萩原 「超脱力」ですね。目標はもう優勝しか残っていない。「今年こそ」みたいな感じがもっと若ければあるんでしょうけどね。あと10年もすれば還暦を超えるのかと思う。10年経ったら(Mリーグには)確実にもういないわけですよ。残された時間が少ないですし、体が元気ならいいなと。

-(雷電ファンの)ユニバース的には涙はお預けになっている。

萩原 そうなんですよね。「勝って泣こうぜ」っていうのをこれは一つの約束。散々負けてなかなか勝てない中でもやっぱり応援してくれる、熱量というのは本当にどこにも負けないという自信がある。チーム自体を愛してくれている。

 他のチームにもあると思いますが、これはうちが一番だと思うところでもあります。彼らと喜びを分かち合える瞬間があればいい。心とバランスが噛み合わないというのがここ何年間かあったんですよね、だから今年は力を抜こうと。だからMトーナメントも本当に力が入ってないんですよ。勝っても負けてもいいと言われるとダメだという声があると思うんですけど、そうじゃないんです。最善は尽くす。それをちゃんと分かってもらえるような麻雀が出ればいいなと思っています。

 うちのチームは、今年はみんなファイナル優勝と思っていますし、僕も一緒です。過程のあり方はそれぞれですよねという感じかな。Mトーナメントで調子が良かったとしてもリーグ戦に対して手応えというのは自分では分からないです。

 原因は必ずあるんですけど、なんでこんなに負けるんだろうと。プロになった瞬間から全く勝てなくなったんですよね。Mトーナメントは勝っても負けても振り込んでも楽しかったです。Mリーグでは、すごくつまらない(笑)。勝っても負けてもです。勝てば嬉しいですけどこの勝ちはまた続けなきゃいけないとか、責任感なんですかね。

 Mトーナメントの場合はいい意味で無責任でした。だから5年間で責任の背負い方がもしかしたら違ったのかもしれない。いろんなものとの向き合い方、ファンの方だったりチームだったり、自分にとっての正解はこうなんじゃないかというのはなんとなく感じました。

 それは病気をしたことも大きいのかもしれない。明日死ぬかもしれないなというようなところを体感できた。明日死ぬかもしれないと思って麻雀打ったらこんなに幸せなことはない。そんな感じはあったかもしれないですね。麻雀として考える思考はそこまで変わってないんですけど、選択の幅が変わったとか意識が変わったと思います。

-萩原選手が出場する時のファンのリアクションは大きく違う。

萩原 若い時に「強いやつと打ちたい」という感覚だけで打っていた時は勝っても負けても楽しかった。Mリーガーになると責任があるので、負けて嬉しいというのは許されない。でも達人のスポーツ選手とか棋士の人は負けても楽しいというマインドがあるはずなんですよね。負け惜しみにしか聞こえないような、そういうマインドに自分がなりすぎていたのがいっぱいあったのかもしれないです。ライバルへリスペクトは忘れないですけど、自分もここに選ばれて本当は強かったんだなというのはもうちょっと思い出して楽しみたい。それはもう全身全霊をかけて楽しむというか。Mトーナメントとか(日本プロ麻雀)連盟さんの対局でやらせてもらう時はそんな感じがすごくありますね。

 僕の言葉が本当に皆さんに届いていればいいなと思います。僕はこういうところで必ず本音で話す。ただエンターテイメントというのは本音で話せばいいというものばかりでもないので、その言葉に何を装飾するかって、それが必要な時もあるしシンプルに「好きだ」「愛してる」というだけでいい時もあるし、それは時と場合と状況と相手がいるということが重要だったりします。

 勝者がいれば敗者がいるみたいないろんな要素を考えて、今日はこれを発信しようとしゃべる場合はちゃんとしゃべっていますし。芸能界がいたからそれができるというよりかはMリーグに来て試合に出るからわかるというのがありますね。

 世の中でこんな出来事があったというのは、Mリーグではリアルタイムで発信できるじゃないですか。だから今見ている人が気になっていることも発信できるんですよ。そういうこともやることでインタビューもメディアの人が書きやすくなったりとか、今これに関心があるんだなっていうことから何かが広がったりとかっていうのがある。

 基本的にインタビューでは麻雀の話はほとんどしない(笑)。それはもう見てもらっているんで結構どうでもいいんですよ。世の中の人を元気にするためにやっているものじゃないですか、絶対的に。そこが絶対的なベースなんですよね。しゃべるにしても何しても見てくれている人が「見てよかった」「明日も元気に頑張ろう」となってくれるのが、本当にそれが一番重要。勝った負けたの上下のブレだけじゃないぞと。だから萩原聖人はラスになっても今日のインタビューが面白かったから明日頑張ろう、みたいな。あの一打がダメで、失敗しちゃってすいません、ということに特化して見ている人も「あれはリーチだな」みたいなことで終わってほしくない。どうせ次の試合または打つわけで終わりじゃない。個人的に反省することはもちろんしている。それは僕は表現しない。違った形で表現したいと思っています。

◆Mリーグ 2018年に全7チームで発足し、2019-20シーズンから全8チーム、2023-24シーズンからは全9チームに。各チーム、男女混成の4人で構成されレギュラーシーズンを戦い、上位6チームがセミファイナルシリーズに進出。さらに上位4チームがファイナルシリーズに進み優勝を争う。優勝賞金は5000万円。
ABEMA/麻雀チャンネルより)

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Mリーグ 配信情報まとめ
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