「医師になりたい人が減っていく。勤務医や研究者の給料が低い」人を救うために自分の命をすり減らす構造が?若手の自殺から考える医師の働き方問題
【映像】自殺前の26歳医師の様子
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 去年5月、神戸市の病院に勤める26歳の医師が長時間労働の末、自ら命を絶った。亡くなる直前の1カ月の残業時間は、200時間を超えていた。6月、労働基準監督署は労災を認定した。

【映像】母親が語った、自殺前の26歳医師の様子

 一方、医師について、病院は「データ入力上で5月は残業時間がない。4月の残業は30.5時間だった」と発表。ポイントとなったのが、論文を読み込んだり、最新の医学について学習する“自己研鑽”の時間だ。院長は「医師の仕事は自由度が高く“自己研鑽”の時間と業務の時間を切り分けることは難しい。過重労働させたという認識はない」とコメントしている。

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 先月31日、厚生労働省で行われた会見で、勤務医の労働組合である全国医師ユニオンは「病院側の労働時間管理に問題があった」と指摘。同会代表の植山直人氏は「いろいろな業務を全部自己研鑽として『労働時間ではない』と、そういうルールを勝手に病院内で作ってしまう」と述べた。

 かねてから過酷な労働環境が問題視されている医療業界。なぜ、悲劇が起こってしまったのか。

 ニュース番組「ABEMA Prime」に出演した、植山氏は「特別ひどい事案だ」と話す。

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「30年くらい前は『医者は労働者ではない』という考え方が大きかった。しかし、多くの過労死裁判が起こり、2000年代の初めに最高裁で『研修医も労働者である』と判決が出た。厚労省も研鑽と労働の違いに対して、一定の基準をちゃんと出している。再発防止のためにも、病院にはきちんとした対応をとってもらう必要がある」

 2022年の勤務医労働実態調査によると、20代医師の14.0%が「日常的に死・自殺を考えている」と回答している。

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 植山氏は「僕もこの結果が出た時は信じられなかった。ほかにも、私たちの調査では『1カ月に休みがゼロ』と答えた勤務医が約5%いた。『専門医の資格を取りたい』『研究者になるために博士号を取りたい』と思っている若い人たちが、研鑽という言葉で非常にこき使われている。全体的に若い医師は、精神的に追い込まれている」と話す。

 来年4月からは複数の業界で時間外労働に上限が設けられ、医療業界でも時間外労働を原則年間960時間、月100時間未満に規制される。しかし、植山氏によると「残業の上限が規制されても、特別措置として年間1860時間の時間外労働が認められている。抜け穴がある」という。

「日本は『お客様』『患者様』と言って、ちょっと歪んでいる部分がある。聖職という名前の下で、働く側の権利が非常に低く抑えられている。ここはやっぱり変えていく必要がある。働く労働者の権利をしっかり守った上で、医療体制をどう作るのか。医療アクセスがいいのは、健康にとってはいいが、医療従事者とのバランスが重要だ。今は労働者側に厳しすぎる。医療は産業だ。IT化して診療範囲も広がっている。世界的にはどんどん医師を増やし続けているのに、日本は極端に医師数を抑制している」

 愛知医科大学病院に勤務する医師の後藤礼司氏は「僕が初期研修に行ったのは17年くらい前で、あえて田舎の病院に行っていた」という。

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「当時、当直明けに帰れるシステムがあったか、エラーを顧みて対処できる労働力が僕にあったかというと決してそうではない。自己研鑽という言葉も本当に難しい。例えば、本人が手術の見学を望んでいた、腕を上げたいがために頑張っていたとして、これは自己研鑽なのか。そこで何か手伝えば、労働になるのか。境界線がかなり微妙だ。例えば、僕は大学病院の教員でもある。家に持ち帰って授業の資料を作る場合、当然労働とみなされない」

 患者のカルテは若手が書くのか。自分の担当は自分で書くのか。

「そこは一般の人たちになかなか、透明性がない。例えば、手術が好きな先生がいて、その手術記事を教育の目的で若手に書いてもらっているケースは多々ある。僕はその手のタイプではないが、それによって若手の技術向上になればいいと思う。カルテを書くのは基本だから、絶対にやらなきゃいけない。やらない人は駄目だ。ところが、当然時間がかかる。チェックする指導医はそのために待たなければならないから、帰る時間がどんどん遅れる。若い医師に『しっかり育ってほしい』と思えば思うほど、残業時間が増える。待っている間に他の仕事ができるといいが、手術などは絶対できない」

 後藤氏によると、医師が作る書類はカルテ以外にも「山のようにある」という。

「違う人が書いた書類を医師がチェックだけになれば、楽になれる。今後、AIなども活用できるともっと楽になると思う。救急や夜間で働く人たちも手厚くしてほしい。僕もやっぱり40代を過ぎて、このまま体力を維持して若い頃のようにバリバリとずっと働けるかというと、たぶん何かの疾病にかかってしまうと思う。このままのハードな生活をしているとどこかでやられる。ブレーキをかけながら自分の健康を保つことで救える命もある。ただ、僕はやっぱり急性期医療が好きなので、同じように『ここで戦いたい』という気持ちを持っている人を折れないように支えていくのは、地域や社会、政治に力がないといけない」

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 その上で、後藤氏は「将来医師になりたいと思う人が減っていく可能性が高い」と指摘する。

「新型コロナ流行時、みんな混乱して孤独な思いをした。僕に子どもはいないが、仮に生まれたら、自分の子どもに医師は勧めない。なぜかというと、僕はおそらく長生きできないから。物価が高くなっても、給料は上がらない。どんどん使えるお金が減って、休みも減っていく。そんな仕事を誰に勧めるのか。勤務医の年収がものすごく高くなって、今より倍以上もらえるようになったら、きつくても頑張る人もいると思う。でも今は週4回、朝9時から夕方5時で働く医師がフェラーリに乗って、研究者ですごく頑張っている人の年収が低いという逆転現象が起きている。言いたいことが山のようにありすぎて、2時間喋っても足りないぐらいだ」

(「ABEMA Prime」より)

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