「発展途上国に行って“ありのまま”を伝えても全然届かない」コミカルな1分動画に“社会課題がギッシリ” 狙いは?
【映像】3日ぶりのシャンプー→「泡、最高!!」(トムさんの動画)
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 流暢なナレーションとコミカルな動きで、1分ほどの短い動画で身近な社会課題を発信するメディアがある。情報が届かない人に社会課題を知るきっかけを作りたいと話す発起人の想いを聞いた。

【映像】3日ぶりのシャンプー→「泡、最高!!」(トムさんの動画)

 YouTubeやTikTok、InstagramなどのSNSで1分ほどのショート動画を中心に動画を投稿している「RICE MEDIA」。このメディアを立ち上げたトムさん(28)は現在、動画の企画や出演など、制作の全てに携わっている。

「一言で言うと、世の中で起こっている社会課題に対してまだそこまで強く興味を持っていないような人たちにまで情報を届けられるようなメディアとして生まれた」(トムさん、以下同)

 動画を立ち上げたきっかけは、学生時代に感じたジレンマだった。ジャーナリストを目指し、発展途上国を数多く訪問。いま起きていることをありのまま正しく伝える。しかし、これだけではより多くの人に情報が届かないことを知った。

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「関心がある人はすごく見てくれるが、色々な方々の反応を見たときに、そういう社会問題があまり身近じゃないというか、ただただ起こっていることを発信するという形では、その情報が届かない人たちがいるのかもしれないと感じた」

 情報が行き届かない人たちに社会課題を知るきっかけを作りたいと、2021年にRICE MEDIAでの投稿を開始した。

 日本で初めて、プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例を施行した京都・亀岡市を訪れたり、ニワトリの「幸せ」と向き合う農園を取材したりと、扱うジャンルも様々だ。現地に直接足を運び得た情報を“拡散性”の高いショート動画にまとめ日々投稿している。

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「(ショート動画は)『おすすめ』という、ホーム画面に流れてきたものをみんながザッピングしていくような構造になっているので、わざわざ調べるほどではないけれど、流れてきさえすれば“ちょっと気になって見てしまう”ような、決して無関心ではない、潜在的な関心を持っている人たちに情報を届けることができる」

 環境問題など、重く受け取られがちな社会課題を時に楽しく、ユーモアを交えながら発信している。使い捨てプラスチックに頼らない“1カ月プラなし生活”や、フードロスだけで生活するなど体を張った企画も実施。こうした地道な活動が実を結び、YouTubeのチャンネル登録者は33万人を突破した。

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 こうした中、トムさんにはある危機感が芽生えているという。

「影響力が出れば出るほど、誤った情報を発信してしまうと逆に僕たちがフェイクニュースの拡散地みたいになってしまうので、そこはかなり意識して取り組んでいる」

 「社会課題の未認知を打破する」ことがRICE MEDIAのミッションだと話すトムさん。今後もより多くの人に社会課題を知るきっかけを届けたいと話す。

「すごく深いコンテンツを作っていくとか、いわゆる従来のジャーナリズムはこれからも必要だと思うし、そこはそのメディアの方々に任せようと思っている。僕たちは今までのジャーナリズムでは届かなくなってきてしまっているような人たちにも届く声・情報を作っていこうという思いでやっている。本当に多くの方々に社会課題に興味を持ってもらうようなきっかけを、色々なチャネル(媒体)を通して発信していけたらいいなと思っている」

 短時間で社会課題を伝える取り組みについて、ダイヤモンド・オンライン編集委員の神庭亮介氏に考えを聞いた。

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━━この取り組みについてどう思う?

「すごくいいと思う。環境問題などを語るときにどうしても説教臭くなるというか、届きづらい側面がある。ジャーナリズムが『何を届けるか』は昔からあまり変わっていないが、『どのように届けるか』を洗練させていくことも必要。それを最前線でやろうとしているように見える」(神庭氏、以下同)

「紹介したい言葉がある。作家・井上ひさしさんの名言で、『むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに』というもの。僕自身も心がけているが、なかなかできない。難しいことを難しく伝えるのは誰でもできる。だからこそ、難しいことを面白く、愉快に伝える取り組みは大切だ」

 また、SNSの利用目的を2019年と2023年で比較した調査がある。(出典:第一生命経済研究所)

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・新たな知識や情報を得るため
2019年 51.5%、2023年 36.6%

・商品を購入するときの参考にするため
2019年 14.3%、2023年 23.4%

 「新たな知識や情報を得るため」という回答は減っているが、「商品を購入するときの参考にするため」が増えるなど、SNSは共有から“情報を収集するツール”へと利用者の意識が変化しているようだ。

━━利用目的の変化をどう見る?

「僕はネットメディアで発信する側でもあるが、テキストでニュースに接する人と動画で接する人は、それぞれ別の世界にいると感じることもある。それを繋げていく努力も発信者側には必要だ」

「情報の集め方もかなり変化していて、わざわざリンクをクリックしてその先に飛ぶのが怖い、面倒だと考える若い人も多い。X(旧Twitter)でも、テキストを画像化して投稿だけで完結するように工夫している『スクショメディア』などもある。今回の“1分間で伝える”というやり方も、若い世代の視聴習慣に合わせた工夫を感じる」

━━受け取る側の注意点は?

「短い時間で興味を引こうと、刺激的な情報を入れてくるフェイクニュースもある。XやTikTokでは、フォローしていない発信者からの情報もおすすめされる状況があるので、特に注意が必要だ。センセーショナルな情報にはすぐ食いつかず、一拍おいて適切な距離感を心がけるといい。最初から『盛られている』とみて、差し引いて考える。情報源がどこなのかを確認し、冷静に読む・見ることが大切だ」

(『ABEMAヒルズ』より)

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