「ノーベル賞級の研究成果」と「研究費」の意外な関係が明らかになった。
ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベル氏の遺言、「人類に最大の利益を与えた5分野に賞を贈る」「国籍を問わず、最も価値ある人に授与して欲しい」に従って、1901年から始まった世界的な賞、ノーベル賞。
受賞した5つの研究結果がどのような研究なのか注目を集めているが、世界中では日々様々な研究が行われている。その様々な研究をするにあたって必要不可欠なのが「研究費」だ。
「研究費の大小」がどれだけイノベーションを導くのか、また、ノーベル賞級の発見に結びつくのかについて、筑波大学医学医療系の大庭良介准教授らのチームが研究した。
生物医科学分野における、研究費金額帯別の研究代表者一人当たりに対するノーベル賞級の研究成果を示したグラフがある。
緑色で色分けされた3本のグラフは「研究費受給前3年間」、「研究費受給開始後3年間」、「研究費受給開始後4~6年目」を表し、右に行くほど多くの研究費をもらっていることになる。
このグラフを踏まえて、「研究費が多ければ多いほど、革新的な研究成果が期待できるわけではない」と大庭氏は話す。
「まず一つ言えるのは、もらった後は少し伸びるが、4~6年目には(成果が)出せなくなってくる。また、研究費受給により成果が高まるのは5000万円まで。それ以降は“狙った金額を積めばより(成果が)出てくる”という結果にはならないようだ」(大庭氏、以下同)
グラフを見ると、5000万円以上の研究費を受けた場合、研究費を受ける前の方が成果が大きく、「4~6年目」の成果はさらに大きく下がっていることが分かる。
「これまでも、高額な研究費を特定の分野・研究者に投資した方がよいのか、あるいは、少額でもいいから幅広く多くの研究者に渡したほうがいいのか、どちらの効果が高いのか長年議論されてきた」
大庭氏が行った研究では、500万円以下の研究費を様々な研究者に広く渡した方が、より研究成果が出やすいという結果も出たという。
また、近年、科学的理論向上を目的とした、すぐに成果が望めないような基礎研究を進めために支給される研究費は年々減っている問題に対し、大庭は「しかし、今回の研究で、基礎研究の分野においては過去の業績に関係なく、低額でよいのできちんと配った方が投資効果は上がることがわかった」と明らかにした。
大学の研究費事情について、東京工業大学の西田亮介准教授に話を聞いた。
━━この調査結果をどう見る?
「研究費を“広く薄く配る”か、既存の政策である“特定の研究者に集中的に投資する” のかという選択への関心は研究者の間でも高く、良くも悪くも選択と集中が規定路線だった。ところが、研究者はそれに対して『ベースの研究費が少なくなりすぎているので、広く薄く配ることが重要ではないか』と主張していた。そういったある種の肌感をサポートしてくれる重要な研究結果の1つという印象だ」(西田氏、以下同)
「特に、今回の研究は医療・生命分野に限ったものだが、色々な研究分野がある中でも、これらは特に“選択と集中”と整合性が高いと考えられていた。しかし、VTRのニュアンスと少し違うが、わかりやすくコスパという言葉を使えば、その分野においても広く薄く配った方がコスパは高いという結果のようにみえる」
━━他の分野でも調査は可能?
「研究成果をデジタル化している理系全般は可能ではないか。文系の中でも、経済学や心理学の分野は、研究成果をデジタル化して論文で共有し、引用しやすくすることが常態化しているので、そういった分野においては同様の研究ができる可能性がある」
大庭氏は、大学が法人化したときに運営費交付金が削られていき、その代わり競争的資金に変わったと話す。基盤的に活動できる所に配られるお金はどんどんなくなっているのが一つの現状だという。
「これには少し補足が必要だ。現在の国立大学は国立大学法人という独立法人のような仕組みになっている。運営費交付金は研究費も含めた基盤的な予算で、研究費そのものではない。施設の改修や我々の給料にあたる人件費も含む、ペースになる資金。これは削減しないという国の公約だったが、過去20年間、削減傾向が続いていて、特に地方の国立大学などで研究費のみならず基盤的な資金が決定的に不足している。ちなみに規制も厳しく、また国立大学の性質からしても安易な授業料値上げも好ましくない」
「最近の大学では、ベースで配られる研究費がとても少ないので、各研究者が多くの書類を書き、種類によって異なるが3〜5倍程度の採択率の科学研究費補助金などに応募している。それがなければ研究を遂行するどころか、PCすら満足に購入できない。文系はあまりお金がかからないと思われがちだが、理工系の研究者たちもそういう状況だ。運営費交付金が無ければ特に国立大学は経営が成り立たない状況だが、これを減らし続けている一方でどうやって世界と戦えというのか大変不思議だ」
━━そもそも競争的資金とは?
「コンペ形式の研究費獲得競争のようなもので、分野、金額の規模毎に費目が分かれ、研究計画書と予算計画を準備し審査を受けて採択されれば研究費が配分される。倍率がそこそこ高いので結構落ちる。所定の研究費というの極めて少ないので、学会に成果を報告しに行くこともできないし、他の研究者がどんな新しい研究をしているのか勉強しに行くこともできない。背に腹は変えられず、自腹を切ることも以前から状態化している。私大に所属する研究者の研究費は大学によるので一概にはいえないが、一般に所定の研究費は国立大より少ないとされる」
━━研究費とはどういう資金なのか?
「どんな成果が出るのか、用途や社会実装、応用可能性があるのか事前にわからない。斬新な研究ほどすでにわかっている評価軸に乗りにくいという難しさもある。競争的資金に乗るのはトレンドに乗り始めたような研究で、0を1にするよりも、1.2を2や3と大きくしていくようなものが評価されやすい。こういったものは確かに選択と集中が適切かもしれない。同時に、0を1にする研究がいつ、どこで、誰によって行われるかわからないので、ある程度の金額を幅広く配らないと研究の裾野や層の厚みは広がらないはずだ。日本は今そこが揺らいでいる。直感的には、1人の研究者に対して100~200万円程度の研究費をベースで配るとよいように思えるがどうか」
(『ABEMAヒルズ』より)
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