先月、氷上の格闘技・アイスホッケーのリーグが開幕。アメリカでは4大スポーツとして知られる同競技だが、日本のトップリーグに相当する『アジアリーグアイスホッケー』の釧路(ひがし北海道クレインズ)では給料の未払いが続き、選手やコーチがこぞって退団する事態が発生した。現在、栃木日光アイスバックスのチームディレクターを務める土田英二氏は「長い時間アイスホッケーを支えていた方々も釧路を離れてしまう。その影響は非常に大きい。競技としてもここが非常に苦しい立場で、本当に踏ん張りどころ」と話した。
【映像】“給料未払い”も白熱『アジアリーグアイスホッケー』で選手激突の瞬間
スポーツチームには選手の給料、道具費用、試合会場の使用料など、多額の資金が必要だが、不景気やコロナ禍を理由に親会社がクラブ運営から離脱。選手たちへの給料未払いが発生した。
一方、かつてマイナー競技だったバスケットボールは人気が急上昇。5日に開幕した国内リーグのBリーグ会場には多くの観客が詰めかけた。この夏、盛況のうちに幕を閉じたワールドカップの日本代表効果もあり、熱量はますます高まっている。
その最中、Bリーグは新たな構造改革を発表。チェアマンの島田慎二氏は「クラブの経営が健全性、成長性のバランスをしっかり持てるようなビジネスモデルに転換していく必要があるだろうと考えている」と話した。リーグに残る条件として設けられた基準は入場客数平均4000人、売上高12億円。実際にはわずか数クラブしか満たしていないという厳しい基準を作った意味とは。
11日の『ABEMA Prime』では改革の仕掛け人、島田チェアマンと自身も給料の未払いを経験したという土田英二氏とともに、スポーツビジネスの未来について考えた。
プロアイスホッケーに見るマイナー競技の厳しい実情
いまプロアイスホッケーはどのような状況に直面しているのか。土田英二氏は「我々日本トップリーグは、過去には中国やロシアなども参加していたアジアリーグに参戦している。ただ、なかなか事業性を持てておらず、少しずつチームが疲弊していっている。そうしたなかで給料未払いも発生した。チームが本拠地とするリンクは概ね年間を通して使用できるものの、真夏に試合を行ってもなかなか集客に苦労するので、シーズンはやはり9月から3月頃をメインにして行っている」と現状を明かす。
また、競技特有の事情について「1試合22名の登録人数だが、バスケなどに比べて非常に多い。リンクの使用料や道具費、アジアリーグは国際リーグのため移動費なども含めて費用がかかる状況。今我々は転換期を迎えている。実業団時代が長かったため、自分たちでお金や価値を生み出す体制ではなく、親会社の資金で運営する流れがあった。ただ今は全てクラブチームになったので、少し変革の兆しが見えてきた」と述べた。
マイナーから人気競技へ Bリーグが歩んだ道筋
一方、2022-23シーズンは入場客数300万人突破で過去最高を達成したBリーグはどうか。
島田チェアマンは「今はワールドカップを含めてバスケ界も盛り上がってきているが、10年ほど前は実業団のクラブやチームが廃部になり、給料未払いや経営が非常に厳しい状況があった」と述べた。千葉ジェッツの代表だった当時を振り返り、「お金がない、お客さんが入らない、スポンサーがつかない、銀行からお金を貸してもらえない。そんな状況で“バスケで飯を食うなんて無理”という雰囲気が会社内に充満していた。まずはマイナーであろうが1億、2億くらい稼いで食べていけるようにするぞという意識改革から入ったと思う」と述べた。
「マイナーであることをネガティブに捉えず、ビジネスとして売上をアップさせ、利益をあげ、会社を回していくことを考えれば、お客さんが入らないならコストを抑えるしかないし、予算がなければそれなりの選手を獲得することに留めるしかない。身の丈に合った運営をしながら、それではいつまでもブレイクスルーできないので、ビジョンや夢を語り、クラブの未来を地域の皆様に伝えて資金を集め、支援体制を強化するという、二段構えが大事だと思っていた」と道筋を説明した。
また、「バスケは5人がコートに出ており、1チームの所属選手は12人ほどだ。野球やサッカー、ホッケー、アメフトと比べて団体競技としては圧倒的に選手数が少ない。コンパクト経営ができるという部分が入口としてあった。選手が多いと、年俸をたとえ抑えられてもそれなりの費用になってしまう。そこは我々がうまくいった要因かと思う」と特有の事情にも言及した。
プロ化については「実業団でもプロクラブでも、結局資金を投下しなければならない。企業が拠出していくという構造は基本的に変わらない。ただ、プロクラブでやるには、基本的に一社提供ではなく地域の中小企業を含めて多くの方たちの支援やファンを巻き込まないと成り立たない構造だ。必然的に企業努力をする、怠慢にならないところが一番良い」とメリットをあげた。
スポーツビジネスの未来とマイナー競技の存在意義
このように徐々に成長してきたBリーグは今、大胆な構造改革を行っている。なぜここまで踏み込んだのか。島田チェアマンは「Jリーグがやっている昇降格制度をBリーグも採用していて、降格したくないから選手へ資金を投下する。それで上がった人件費を賄うために企業努力をして稼ぐという構造がエンジンとなって成長してきた背景がある。どうしても勝敗にフォーカスしてしまい、年間1つの優勝チーム以外は苦労するところがたくさんあった」と問題点に言及。
続けて「自治体やファンなど地域の人たちに支えられ、皆さんが応援してなんぼだ。勝敗に翻弄されて、勝てなかったり降格したりすると経営が厳しくなっていく状況を変えないといけない。勝つことを目指すのがスポーツの神髄だが、事業をきちんとしたうえで勝つほうが地域とのつながりも含めて、健全なクラブが増えるだろうということで発想を変えた」と述べた。
プロスケーターで元フィギュア世界女王の安藤美姫氏は「フィギュアはアイスホッケーと同じで、数人から始まって、メディアに取り上げられ、選手がライバル視するようになって、ジュニアやその下の子たちが育ってきた。それで全体が強くなるから、誰が出ても世界で戦える競技になったと思う。1人に投資することで、その子を見た同世代の子たちが育つ。そこで土台ができ、その世代が大人になった時にオリンピックや世界選手権に出るようになる。それがテレビで放映され、国民が観る。普段観ない競技でもオリンピックは観る」と自身の経験も踏まえて語った。
これを受けて土田氏は「我々も地域に根ざしたクラブチームで、給料未払いなどが発生し、本当に困った時期もあったが、ジュニア育成はやめなかった。すると、昔育てた子どもたちが大人になって我々のチームに入ってくれるようになった。小さな街でやっているチームだと街の人たちもとても喜ぶ。“隣の家の息子さんが頑張ってアイスバックスに入った。じゃあ観に行こう”といった良い循環が生まれた」と語った。
「あとはスター選手を作ることだが、我々は団体競技なので、2種類しかないと思っている。スーパーエリートを作るか、裾野を広げてピラミッドを上げていくかだ。競技人口を増やしてその中からスーパーエリートが出てくることは期待しづらいので、我々のとるべき道は資本を投資してスーパーエリートを作り上げていく方法ではないかと感じている」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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