今年は闇バイトで実行犯が集められたとみられる強盗や特殊詐欺事件が大きく報じられ、岸田総理の演説会場では爆発事件が起きた。長野では猟銃などで警官ら4人が殺害されるなど大きな事件が続発している。しかし、警察庁の統計によると、刑法犯の認知件数は2002年以降、減少傾向にある。
では、なぜ治安の悪化を感じるのか? 数字に表れない主観的な治安を“体感治安”と言う。去年の警察庁『犯罪情勢』によると、「10年前と比べて治安が悪くなった」と答えた人は約67%。警察もこの漠然とした体感治安の悪化を懸念している。その原因と対策を『ABEMA Prime』で議論した。
■インターネットで“体感治安”悪化?
犯罪学が専門で警察の政策にも詳しい立正大学教授の小宮信夫氏は「大前提として、認知件数は犯罪件数ではない。あくまでも警察が把握できた件数、つまり被害届が出た数だ。実態に近い『犯罪被害実態(暗数)調査』を法務省が5年に1回程度やっているが、警察統計ほどは減っていない。犯罪の総数は認知件数の6倍起きているとされる」と話す。
また、犯罪の多くは窃盗犯だと指摘。「一番多かったときは、“ピッキング団”と言われるような、各マンションが集団で被害に遭っていた。これは鍵の進歩もありガクッと減った。あとは自転車窃盗だが、あまり乗らなくなったことで減った。そもそも犯罪の半分ぐらいは少年が行っているが、少年人口が減っているので当然犯罪件数も減ってくる」。
体感治安が悪化した状況については、「インターネットの影響が大きいだろう。フィルターバブルやエコーチェンバーと言われているように、1つ事件が起きるとそれが増幅されて、さも多数起きているような感覚に陥ってしまう。これはマクロ的な要因だ。ミクロ的な要因はもっと身近な、特に子どもの犯罪被害で、性被害は非常に多い。法務省の調査によると、16歳以上の性被害は、警察が把握している件数の7倍起きている。16歳以上でそれだから、小学生や未就学児であれば多分20~30倍。そういう空気から、“なんとなく怖いよね”で体感治安が悪化している」との見方を示した。
フリーアナウンサーの柴田阿弥は「人々のリテラシーが上がってきたことで、これまでは見過ごされてたことに対する意識は高くなっている。暗数も減ってるんじゃないのか」と疑問を投げかけた。
これに対し小宮氏は「小学生や未就学児は、そもそも自分が犯罪・性犯罪の被害に遭っているというのはなかなか意識できない。そして、親にも言わない。当然警察も知らないし、暗数調査をやってない」と応じた。
■「海外は人ではなく場所に目を向ける」
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「“世の中悪くなってるから事件が起きてるんだ。犯罪が多発してるんだ”という論調はこの2、30年メディアで言い続けられている。それが人に与えている影響はすごく大きい。さらに、チャンバーの中で“世の中悪くなってる”とみんなが言い出しているところの、マスコミとSNSの増幅効果は結構あるんじゃないか」と指摘する。
柴田は「良いニュースはどうしても大きく報道されない。それが悪いわけではなくて、事件が社会問題になったり、こういう詐欺の手口があるんだと知らせることができる。ただ、大半が良くないニュースだから、世界が悪い方向に行っているように感じてしまう。すごく気持ちが揺れ動いたときに“世の中良いも悪いも決められない”“グレーなんだ”と。“自分は他人は”“男は女は”“日本人は何々人は”だと主語が大きすぎるので、犯罪白書や経済白書をきちんと見たりして、見極められる能力をつけないと現代を生きていくのは厳しいのではないか」と述べた。
小宮氏は「“犯罪が増えている”“事件がいっぱいある”まではいいと思う。その先間違った方向へとメディアが誘導してしまっているのは問題だ。海外では、犯罪機会論をちゃんとやっていて、犯罪が起きやすいのはエリアや地区の話ではなく、入りやすく見えにくい場所だということが分かっている。そこをきちんと分析して、改善しようと世界中でやっているが、日本だけやっていない」と主張。
体感治安が良くなると治安も良くなるのか。小宮氏は「反対のベクトルがあり得てしまうのが問題だ。つまり、体感治安が悪いときに、今日本がやっているように、あの人危ないんじゃないの?とか、不審者に注意しましょう、不審者を見たら110番、と“人”に目がいってしまうと、差別や偏見、いろんなトラブル・対立を生んでしまって、逆に治安を悪化させる。海外は絶対人に目を向けない。入りやすい場所を入りにくくしよう、見えにくい場所を見えやすいようにしよう、そっちの方向に持っていけば治安は改善する。その分岐点が一番難しい」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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