「自分が選手であるのに…このままでいいのかなって思いがすごく強くて。自分を見失いそうな期間が凄く長かった。今までの格闘技人生の中で一番苦しかった」
そのように涙ながらに明かしたのは、強豪ひしめくONE Championshipの舞台で世界の猛者と2019年からおよそ4年半もの間、しのぎを削ってきた総合格闘家の三浦彩佳(TRIBE TOKYO MMA)。2022年1月にONE女子ストロー級王者のション・ジンナン(中国)に敗北を喫して以降、格闘技人生の中で初となる3連敗、絶望を味わうなど、正念場が続いている。
「本当に色々あって、長南さんとも10年間の中で初めて言い争ったりして…」
TRIBE TOKYO MMAでDEEP元二階級王者の長南亮(47)に師事して10年が経つ三浦。気づけばジムの中でも最年長者となり、後輩の視線を感じることもあるという。責任感とプライドゆえに、自らの戦績とジムを背負う重責を自らに課している。
「もうひと段階、レベルアップした三浦彩佳を見てもらいたい」
前戦は今年2月に行われた『ONE FIGHT NIGHT7:LINEKER VS. ANDRADEⅡ』。グラップリングマッチでダニエル・ケリーに挑んだ三浦は、10分1Rを戦い抜くも、ユナニマス判定で敗れた。
グラウンドの攻防でケリーの手が三浦の顔面を搔きむしる場面もあり、当時の事を「何が起こっているのか分からなくて。これ、いいのかな?って思いながらやっていて…」と困惑気味に振り返った三浦。さらに「映像で見たら事故で起きたのではなく、私の顔を見ながら引っ張ってて…」とダーティーながら、勝負に対する執念には感じるところもあった様子。
敗戦ながら、爪痕も残した三浦だが「どんなにいい試合をしても、ダニエル・ケリーの勝利ってなっている。いい試合をしても、負けは負け」とあくまでも客観的かつ冷静だ。
一方、ジムで行った長南との試合前恒例となっている練習では、相手側の組み技のディフェンスを想定し、組む、投げる、動き続ける確認を徹底的に行った。長南の体重は100キロを超える。得意の“あやかロック”に持ち込むために、ハードな追い込みを続けた。
そんな三浦について、師匠の長南は「組んで投げて極めるか、打撃でやられるかのどっちか。それしかない、基本的に。それで勝負するしかない。新しいことを教えてないこともないが、できないものはできない。だから一つの技で行くしかない」と語る。
「調子はいい」と明かす三浦。およそ1年8カ月ぶりとなるMMAでの舞台で戦うのは、21勝6敗14フィニッシュで、テコンドーや散打をベースとする強豪ストライカーのメン・ボー(27)だ。
そんな相手にも三浦は「(対戦が決まって)嬉しかった」と明かす。次期タイトル挑戦者になると思っていたメン・ボーとの対戦が決まったことを、ポジティブに受け止めている。
「大きな一発をもらわないように…」
もちろん、メン・ボーの打撃に対して三浦は細心の注意を払っている。仮にもらうとしても「打撃を見る意識をしています。顔が綺麗で帰ってこれるとは思っていない。ゾンビになると思う」と覚悟も。
2022年4月にダヤン・カルドーゾ(ブラジル)に2RTKO負けを喫して以来、およそ1年8カ月ぶりとなる待望のMMA復帰戦。これまでの道のりは苦悩の連続だった。
「ずっと(試合の)準備をしてて、みんなが活躍してて、なかなか試合が組まれなくて。自分が選手であるのに、このままでいいのかなって。自分を見失いそうな期間が長かった。長南さんとも喧嘩というか、10年間の中で初めて、試合が無かったりとかで言い争って」
そのように三浦が話せば、
「連敗してるんだろ。試合組まれなくなってもしょうがないぞって。そこがなかなか分かってもらえなくて。試合が決まって精神的には正常になった。まったくもって自己中なんですけど、それが彼女」
と師匠として長南は理解を示す。
いよいよ決戦を控え「もうひと段落レベルアップした三浦彩佳を見て欲しい」と決意を語る三浦だが「もう全部がありがたく感じて、当たり前じゃないんだなって本当に感じていて、感謝しています…」と再び涙を流した。
絶望の淵から這い上がった“ゾンビ”が、1年半ぶりとなるMMAの試合でどのような激闘を見せるのか。試合後に三浦が泣くのは、ファンにとってはお馴染みの光景。得意の“あやかロック”を極め、喜びの涙で終わることができるのか。注目したい。