10月11日、東京証券取引所に「カーボン・クレジット市場」が開設された。企業や自治体などがCO2排出量の売買を行うが、そもそもどのような制度でどのように地球の未来に貢献するのか? 『ABEMAヒルズ』ではアフリカでスマート農業を進める社会起業家の牧浦土雅氏に話を聞いた。
カーボンクレジットとは、CO2などの温室効果ガスの削減量や吸収量をクレジット(排出権)として発行し、取引できるかたちにしたもの。
東京証券取引所が扱うのは国が削減効果を認定した「J-クレジット」で、「省エネ」「再エネ(電力)」「再エネ(熱)」「森林」など6つに分類されている。206事業者(10月18日時点)が参加し、累計売買高は8営業日で1万トンを超えた。
━━東証にカーボン・クレジット市場が開設されたことをどのように捉えているか?
結論から言うと「やらないよりもやった方がいい」。EUでは2005年に排出量取引市場を開設したが、日本はそれから18年遅れの開設。期待はしたいが課題は多い。ヨーロッパの企業は脱炭素に先進的で、取引市場は世界最大のマーケットだ。対して、日本は世界で5番目に温室効果ガスを出しており、企業の需要はあるもののこうした枠組みはなかった。だが8営業日の売買が1万トンと、日本の年間排出量10億トン超に対し3桁足りない。
━━206事業者が参加した点については?
参加する企業は今後増えてくると思うが、J-クレジットは「省エネ」「再エネ」の価格が1000〜3000円と安価であるため企業が安く買うことができるのが問題だ。企業は自助努力をしてCO2を削減した上でクレジットに頼らなければいけない。
━━東証のカーボン・クレジット市場における最大の課題は?
日本国内で生産されたJ-クレジットしか取引が認められていない点だ。J-クレジットは世界で大きく求められている「追加性」が非常に低い。日本の森林はクレジットを買って守らなくても大規模な伐採をされることは滅多にないため「追加性が低い」が、対してブラジルの森林はクレジットによって森林破壊防止にお金が使われなければ伐採される可能性が高いため「追加性が高い」と言える。J-クレジットはカーボンクレジットとしての評価が少し低い。
━━国はどんな関わり方をしている?
東証のカーボン・クレジット市場は経済産業省をはじめ、多くのルールメーカーが関わっている。制度を作るにあたって欧米のルールメーカーと議論はしたが結局は日本独自のものになってしまった。「ジャンクカーボンクレジットと呼ばれる全然CO2を吸収していないものを日本市場に流入させたくない」という議論はあるものの、現状のままでは脱炭素という世界の喫緊の課題解決に到底たどり着けない。
政府が主導した方が動きやすいという日本企業の性質は理解できるが、企業が「自主的に」自社の脱炭素達成のためにクレジットを購入し、市場をつくっていくべきだろう。
━━日本は2030年度の温室効果ガス46%削減を目指しているが、達成できるか?
今のままではかなり難しい。再エネの割合を大幅に上げたり、排出権の仕組みを使って途上国と一緒にプロジェクトをやるなど、革新的な手法が今後1~2年で求められていく。さもなければ、日本が世界の市場から取り残されてしまうだろう。
━━牧浦さんは脱炭素でどのようなプロジェクトを手掛けているのか?
農業による具体的なプロジェクトだ。耕すことで土が蓄えていた炭素が大気に出てしまうため不耕起栽培(耕さない栽培)によってCO2を土に閉じ込め、さらに炭素を排出する肥料も減らしている。それによって、今までと同じ生産量を確保しながら投下する肥料のコストを減らし、カーボンクレジットを生成していく。農家からすると、コストは下がり、追加収入を得られる。アフリカから世界の脱炭素化に貢献できるのだ。
━━AIを駆使してリジェネラティブ農業をアフリカで普及しているとのことだが、どのようなものか?
リジェネラティブ農業はコスト削減にもつながって、カーボンクレジットによる追加収入も見込めるが、やり方が分からない小規模農家が多い。我々がこれまで培ったデータをチャットボットに入れ込むことで「私、明日から農業を始めたい。まずは何を始めたらいい?」と聞くとGPSが緯度と経度を計算して、「あなたの農地ではこうした手法でこのくらいの肥料を使えばこの程度の収入が見込めます」と回答してくれる。この仕組みを進めれば、日本からアフリカの小規模農家を支援する仕組みにもなる。
(『ABEMAヒルズ』より)
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