東京・新宿区の路上で、タクシー運転手がハト1羽をひき殺したとして逮捕、5日に検察庁に身柄を送致され物議を醸している。事件は目撃者の通報により発覚し、警視庁は獣医による解剖によってハトの死因を特定。さらに、防犯カメラやドライブレコーダーの映像などから容疑者を割り出した。逮捕容疑は鳥獣保護法違反。調べに対し、運転手は容疑を認めた上で、「殺すつもりはなかった」「道路は人間のものなので、よけるのはハトの方」などと供述している。
運転手は身柄送致の翌日には釈放されたが、SNSなどでは「現代の生類憐みの令」「厳しすぎる」などの声があがる。今回の逮捕・拘束は妥当だったのか、『ABEMA Prime』では「異常だ」と訴える弁護士に見解を聞いた。
目の前にハトがいるのに思い切り急発進したこと、時速50キロ制限の道路を約60キロで走ったことが、「目撃者の通報」で寄せられている。逮捕について警視庁は「プロのドライバーなので模範となるような運転をしてほしい」「年末に酔っ払いの飛び出しや路上で寝ている可能性もある。規範意識を持って運転してほしい」としている。
ロー・リンクス法律事務所所属の井垣孝之弁護士は「『模範となるような運転を』という目的で本当に警察が逮捕状を請求しているのだったら、それ自体が違法だ。逮捕というのは重大な人権侵害で、留置所で過ごさないといけないし、実名で報道されたりする。許されるのは、裁判のために被疑者の身柄を確保し、証拠を収集・保全する必要がある場合だけだ。模範なんて不当な目的で逮捕する必要は全くなく、本人を呼び出して注意すればいいだけだ」との考えを述べる。
逮捕状発布の要件は、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる理由がある」「逮捕の必要性がある」場合。逮捕の必要性の主なものとして「逃亡のおそれ」と「罪証を隠滅するおそれ」があるが、今回の事件はそうした要件を満たしていたのか。
元警視庁刑事で防犯コンサルタントの吉川祐二氏は「明らかな故意がうかがえ、ハトを殺傷する目的もあったと取れるわけだ。そのことから逮捕状を請求したということに何の問題もないと思っている。実際に身柄を確保して本人と話をする必要があることや、ドライブレコーダーを破棄・削除されてしまう可能性もある。タクシー会社に所属しているような人でも逃走することは十分ある」との見方を示す。
これに井垣氏は反論。「鳥獣保護法違反は1年以下の懲役、100万円以下の罰金という軽い罪だ。今回の件でそもそも犯罪になると初めて知った方も多いと思うが、ハトをひき殺して“やばい、捕まるかもしれない。逃げよう”と思う人がどれだけいるのか。タクシー運転手という仕事があり、ご家族もいたとしたら、全部ほっぽり出して逃げるのか。今回の裁判官は“逃げる可能性がある”と判断したという、そこがおかしいという話をしている」と述べた。
逮捕状の発布率は98.8%。井垣氏は「裁判所は“令状自動発券機”だ」と指摘し、3つの問題点を指摘した。
「“令状自動発券機”は僕の造語ではなく、一般的に言われていること。1点目、簡易裁判所の判事が多くの審査をしているが、事務官や書記官が判事になっている場合がおそらく8割。要するに司法試験を受けていない方が大半だ。また、令状審査は当番制になっていて、警察は“簡単に逮捕状を発付してくれるのはこの人だ”と狙って請求するという。2点目、逮捕状の請求が一度却下されたとしても、裁判官を変えてリトライできる。なので、事実上100%発布される。3点目は、逮捕状発布の正当性が検証できないこと。逮捕の後に続く原則10日間の拘留に対しては、準抗告という形で不服申し立てができるが、逮捕に関しては一切認められてない。誰がなぜ発布したのか、それが間違っていたかどうかという検証が、法律上も判例上もできないとされている」
一方で吉川氏は「私も何十件、何百件と逮捕状を請求してきたが、“ここで駄目だったからあそこに行く”というのはやっていない。発布されにくい裁判官も実際いるが、その人を避けるとか、曜日によって何日間か寝かしておくなどという流暢なことも警察の捜査では行っていない。逮捕状が請求できる時は車で飛んで行って、すぐに行う。しかも、分厚い資料も持っていき、却下されないかと考えながら待っている。98%という数字に皆さんとらわれているが、それだけ慎重に捜査しているということだ」とした。(『ABEMA Prime』より)
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