「見ちゃいけないと思っていた」久保ユリカが「青春ブタ野郎」シリーズ劇場最新作で意識した演技プランとは？

　2023年6月に公開された劇場アニメ「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」は、主人公・梓川咲太（あずさがわさくた）の妹・梓川花楓（あずさがわかえで）が物語の中心となり、彼女の進路をめぐる繊細なストーリーが描かれた。12月1日より公開中の「青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない」はその直接の続編で、「青春ブタ野郎」シリーズの《高校生編》完結となる位置付けだ。

【動画】青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない

　「青春ブタ野郎」シリーズでは神奈川県の藤沢が舞台となり、思春期特有の感情が「思春期症候群」と呼ばれる不思議な現象を引き起こすという、思春期ファンタジーが描かれる。花楓はいじめがきっかけで思春期症候群を発症し、そのストレスから記憶を無くし別人格の「かえで」となって、2年間家から一歩も出ずに過ごしていたが、2018年に放送されたTVアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」の終盤に花楓の人格に戻ることに。しかし、「かえで」として過ごしていたときの記憶は失われてしまう。

　ノートに記された「かえで」の記憶を知った花楓は「おでかけシスターの夢を見ない」で「かえで」の意志を継いで兄の咲太やその恋人の桜島麻衣（さくらじままい）らが通う峰ヶ原高校への入学を目指すも、花楓を支えるさまざまな人とのやり取りを通じて、最終的には自身の意思で通信制の高校へ進学することを決意した。

　花楓役を演じた久保ユリカは、前作「おでかけシスターの夢を見ない」のアフレコは、先んじて収録された咲太役の石川界人と麻衣役・瀬戸麻沙美の演技を聴きながら1人で行ったとインタビューで話してくれ「花楓自身が自分に向き合う状況に近い形でアフレコに挑めたので、よかったと思いました」と振り返る。

　「ランドセルガールの夢を見ない」では、咲太と花楓の父親と母親も交えて家族のシーンが多く描かれるが、アフレコは一緒に行えたとのことで「お父さんお母さんと一緒に録るのがだいぶ久しぶりだったので（花楓と同じように）本当に再会したみたいな気持ちでアフレコに臨めたのですが、そういう計らいだったのかなって（笑）。すごく役者の気持ちを汲んでお芝居をさせてくれる環境だったと思います」と語ってくれた。

　「おでかけシスターの夢を見ない」にて花楓を兄として親身に支えていた咲太は、「ランドセルガールの夢を見ない」では自身の存在が世の中から消えてしまうという思春期症候群を発症する。視聴者の目線と本編での花楓の目線、そして演じる久保からの目線はそれぞれ異なる。

　そのことについて久保は「どうしても「かえで」にしても「花楓」にしても、咲太は声を荒げたり号泣したりというような直接的な感情の発露を、妹の前で絶対に見せないんですよね。基本的に飄々としていて「お兄ちゃんってほんとふざけてばっかり！」とか「ちゃんと聞いてよ！」みたいに言われるテンション感で（笑）。

　生々しい家族の距離感、妹とお兄ちゃんの距離感だからこそ咲太は見せたくないし、見せる必要がないからこそ――最後の最後には変わるのですが――花楓の目線から見るとずっと（咲太の）印象が変わっていないんです。ただ、久保ユリカとして見ると「ちゃんと人間してるな！」と思って、すごく愛おしくなりました！

　一緒のアフレコ現場でも、本編中の花楓と咲太の関係性を重視して、あえて石川の芝居を意識しないようにしていたという。「花楓の前で見せないからこそ、（石川がテストで涙を流す芝居をしたときも）最後の最後まで石川さんを意識しないようにしていました。見ちゃいけないと思っていたからこそ、わざと遠ざけるようにして」

　インタビューの最後に、改めて「おでかけシスターの夢を見ない」を経て「ランドセルガールの夢を見ない」での花楓の演技に変化があったのか聞いてみる。「両作の短い時間の中でも、花楓自身が確実に今までとは違うスピード感で成長していると言いますか、変わりたいという思いが強くなっていることを私自身が感じていたので、より花楓としての芯を持って演じました。咲太の妹である花楓という部分もすごく意識して挑ませていただいています」と語ってくれた。

　「おでかけシスターの夢を見ない」で成長した花楓が、「ランドセルガールの夢を見ない」ではどのような一歩を踏み出すのか。兄である咲太の関係性をはじめ、描かれる家族の物語をぜひ劇場で見てほしい。