子どもの中学受験をきっかけに家族関係が破綻し、中には離婚に至る夫婦もいるなか、離婚経験者の証言を元に書かれたセミフィクション『中受離婚』(集英社)が話題となっている。
【映像】母親が「あなた、ホームレスになるわよ!」と言ってしまう心理とは?
父「ソウタ、聞いてるか」
子「うん」
父「パパとママは離婚することになった。ごめん、ソウタ……」
子「そんなの絶対、嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」
中学受験に対する夫婦の価値観の違いから、すれ違いが増え、溝が深まり、離婚に至る…。その様子を描いた『中受離婚』の著者、教育ジャーナリストのおおたとしまささんにリアルな中受離婚の現状について話を聞いた。
「何かもともと(夫婦間で)違和感があったところが、中学受験においてごまかしきれなくなった、ということだと思う」(おおたさん、以下同)
日ごろ、薄っすら感じていた相手へのモヤモヤが、中学受験という機会によって浮き彫りになるという。
「(中学受験の)目標とか目的をどこに置くかというところでも、すれ違いを感じることがあるかもしれない。それの達成のためにどこまで時間やお金をつぎ込むのかも、(中学受験は)やりだしたらキリがないことなので、どこで手を打つかという部分で夫婦の意見が分かれることもあると思う」
「『(受験勉強に)関わるだけ関わった方がいいんだ』と思っている親もいるだろうし、『いやいや、偏差値は上がるかもしれないけど、それは本当に子どものためになるのか?』と考える親もいる。その人が中学受験をどういうレベルで捉えているかの温度差が露呈してしまう」
中学受験に関してのんびり構えていた父・竹晴と、幼少期からせっせと息子に習い事をさせていた教育ママ・葵。家の中では日々、成績不振の息子に対する母の怒号が飛び交う。
母「なんでこんな簡単な問題ができないの?ママが厳しくしているのは、あなたの将来のためなのよ。このままじゃ、あなた、ホームレスになるわよ」
そして、母から息子への一言が父を呆然とさせた。
母「もう、死ねよ」
「子どもへの接し方に対して父が『それはないんじゃないか』と、たまりかねて口を出す。そうすると母は、自分としては一生懸命やっていて、多少言い方がきつくなってしまうことを自分でもわかっている。でも『それを指摘されるとなおさらムカつく』ということも人間はあるだろう。どつき合いのように発展してしまって、それが決定的な傷を、特に母の心に作ってしまって『もう無理!』となる」
中学受験への意見の対立から、結局2人は離婚を決意する。
「親としてどこまで(中学受験に)関わるかというところのスタンスがズレる。それが、相手の価値観のとても深い部分や人格的な部分、あるいは生き方とか、そういったものと非常に重なりやすいと思う。この違いが明らかになったときに、『この人とずっとやっていくの無理かも』といった大きなことに気づいてしまう」
しかし、この気付きは必ずしも悪いことではないそうだ。
「中学受験をやっていて、『何、あいつ!』『何、あの人!』と思う瞬間はほとんどの夫婦にあると思う。そこを前向きに『自分たち夫婦の課題がこれで見つかったんだ』と、(それぞれの違いを)子どもへの関わり方、中学受験への関わり方の選択肢の幅なんだと捉えられるかどうか。違いを認め合わずどちらかに一致させるために綱引きをしてしまうか、その違いを価値として認めるかということの差が、その後の夫婦の歩みを変えていくのだろう」
夫婦の価値観の違いは決してネガティブなだけではなく、選択肢の幅になるのだ。では、夫婦仲を保ちつつ、中学受験を乗り越えるコツはあるのだろうか。
「“見たくないものを見なければいけなくなる覚悟を決める”こと。夫婦をやっていれば常にピンチの連続で、ピンチにおいて違いやお互いへの違和感のようなものが生じるのは当然のことであって、それを乗り越えるたびに夫婦関係が進化し、強くなっていく。それが夫婦だと思う」
違いの気付きによって、その後どう行動するかは夫婦の自由でもあるとおおたさんは言う。
「発展的解消としての離婚も十分あり得る、その選択肢もありだと。離婚をちょっと前向きに捉えた上で、『それでも私たちは一緒にいた方がいいよね』と思えるのだとしたら、『あぁ、これはすごく幸せなことなのかもしれないな』という心のおおらかさというか。離婚も絶対悪と思わず、むしろ選択肢の一つと捉えることで得られる心のゆとりだと思うので、そう心掛けてみるのも一つの手ではないか」
(『ABEMAヒルズ』より)
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