立憲民主党の川田龍平議員が「オーガニックな食事で、子どもの発達障害の症状も改善!」とSNSに投稿し、その根拠を疑問視する声が上がっている。
12月7日、立憲民主党の川田龍平議員がある特定の農薬について書かれた本を引用する形で、冒頭の文言をSNSとブログで投稿。あわせて、オーガニック給食の導入を進める自身の活動をPRしている。
この投稿に対しSNS上では「根拠の提示を求める」「誤った情報で当事者を苦しめるな」などの声のほか「関連しているかも…」と不安視する声も上がっている。
『ABEMAヒルズ』では11日、川田議員に投稿内容の根拠などについて質問したが、15日正午までに回答は得られていない。
オーガニックとは、化学肥料や指定外の農薬、遺伝子組み換え技術を使わないことなどを指す。オーガニックな食事で発達障害が改善するのか、また特定の農薬の使用と発達障害の関係について、管轄する省庁は
「エビデンスを確認しているものはない」(厚労省)
「農薬の使用によって発達障害が引き起こされるかどうかについて、因果関係は確認されていないと承知している」(農水省)
としている。食品の健康への影響を審査する食品安全委員会も同様に「因果関係は確認されていない」としたうえで、残留農薬の基準値については「国際機関のリスク評価の値に準じた形で決めている」としている。
一方で、現時点で因果関係が確認されていないということは将来的な影響の有無を示していないともとれる。
■「川田議員の投稿」はどこが問題だったのか?
『ABEMAヒルズ』は化学物質が人間の発達や健康に及ぼす影響について大規模な調査研究を行っている国立環境研究所のエコチル調査コアセンター次長 中山祥祠氏に話を聞いた。
中山氏はオーガニックについて「人の発達への影響を見たような研究はほとんどなく、発達に影響があるかどうかはまだ言える段階ではない」と説明。
中山氏らのグループは11月、8500組を超える妊婦のネオニコチノイド系農薬被ばく量と子どもの4歳までの発達指標(年齢相応のことができるか)を調査した結果「関連が見られなかった」と発表している。とはいえ、発達にはさまざまな側面があり、これだけで影響がないとするには不十分だという。
人を対象とした研究の難しさには、「大規模な人数を何年も追跡しなければならないこと」「農薬を摂取した人としていない人の比較状況を人工的に作りだすのは倫理的に不可能であること」なども挙げられる。
そのため、科学的に真摯で厳密な姿勢をとるほど、影響の有無は簡単には断定できない。
ではそうした状況の中で、「オーガニックな食事で発達障害の症状が改善する」といった断定的な情報に接した場合には、どう向き合えばいいのか?
中山氏は「我々は『証拠の重さ』を考える。“誰かがこうなった”という症例の報告のみなのか、あるいはオーガニックを食べた人も食べなかった人も全部ひっくるめた研究の結果なのか、ということを見ることが大事だと思う」と述べた。
例えば、食品安全委員会の審査などでは、論文や実験の数だけでなくその質も考慮され、多くの人が評価に関わっているという。一方、今回の川田議員の投稿では、発達障害のうちのどのような症状を指すか、「改善」という表現が適切なものなのかも不明瞭だ。
たとえ「発達への何らかの影響」と考えたとしても、研究数が少ないため、数多くの論文を集めて解析するなど「科学的に高い証拠レベル」での検証はできない状況だという。
「オーガニックに限らず、世の中には『これでガンが治った』というような話が尽きないが、『それをやらなかった人たちは何人いたのか』という点に関してはほとんど言及されない。我々はそういった話をあまり信用しない」(中山氏)
■科学的に真摯な報道とは?
川田議員の投稿に関してノンフィクションライターの石戸諭氏は「1番の問題は関連があると断定してしまった発信にある。中山氏のように科学に対して真摯な姿勢をとると影響はないと強く断定することはしないが、影響はあるという高い証拠レベルの検証もないということになる。つまり、川田議員のように今の段階で影響があるとするのはかなり無理がある。
SNSなどでは断定的な発信をしている人は、わかりやすく強い言葉を使いがちで、そこに惹かれてしまう人もいる」とコメント。
さらに、「政治的なポイントもある」と指摘。
「この投稿を立憲民主党がどう見るかだ。彼らが仮に自民党から政権を奪取した際に発達障害を改善するという名目でオーガニック給食を導入するのか。さすがにそんなことはないと信じたいが、政党としてのスタンスをはっきりする必要がある」
「川田議員の支持者や、断定的な極論に振れてしまう人たちを止めることはできないが、科学的なエビデンスがまったく確認されていない状態で、彼らの考え方が政策に反映されないかをチェックしていくことが重要」と述べた。
一方、今回のように「影響がある」という言説が目立つ現象について、エコチル調査コアセンターの中山次長は「パブリケーションバイアス」を指摘する。
「『影響がある』という結果は影響力のある雑誌に載るなど話題になるが『影響がない』という結果はニュースにもなりづらい。一般の人たちのところに届く情報としてはバランスが悪い可能性がある。そういう状況を広く見た上で情報発信していくことは私たちの責任だ」
石戸氏も中山氏に同意しつつ「『ある』か『なし』かは50対50ではない問題は多い。間にはグレーゾーンが広がっているが、研究は積み上がっている。こうした問題について、かつては両論併記をすることでバランスを取るという考えが主流だったが、現代はこれではダメだ。断定はできない中でも、メディアとしてはどちらの主張がより科学的な検証を経た証拠を扱っているか、証拠レベルの高い研究が集まっているかなど、事実に則して主張の重みづけをした上で伝えていくことが重要だ」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)
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