AI技術は急速に進化し、各国で軍事分野にも導入され始めている。さらに、「自律型兵器」など人間の介入を離れた軍事システムの開発を巡って、国際的な議論が巻き起こっている。
■ガザ地区、ウクライナに投入される最新AI兵器
イスラエル軍による激しい攻撃が続くガザ地区。ガザの保健当局は21日、これまでに2万の死者が出たと発表した。
イスラエルとパレスチナのジャーナリストによる独立系メディアによると、その背景には「大量暗殺工場」とも呼ばれる、AIによる“標的生成システム”の存在があると言われている。
「このAIシステムは、人間の作業をはるかに超える速度で目標を生成することができる。情報筋によると、軍は民家にハマスのメンバーが1人でも住んでいれば大規模な攻撃が可能となったという」(イスラエルメディア「+972マガジン」)
ガザ地区だけではない。ロシアによるウクライナ侵攻の中でも、投入された無人兵器の一部に、自律的に目標を設定する機能を搭載するものがあるなどと報じられている。
そのウクライナでの実戦データを基に各国で自律型兵器や軍事システムの開発が加速する恐れが高まっている。
8月、アメリカのヒックス国防副長官は「ペンタゴン(アメリカ国防総省)は、2026年までにAIによる大規模な自律型システムの配備を目指す」と発言し、低コストで兵士を危険にさらすリスクを減らせる無人機などを積極的に活用する計画を示した。これは数や量で勝る中国の軍事的脅威に対抗するためだとしている。
一方、その中国も軍事博覧会ではAIを活用した兵器を展示するなどしてアピール。こうした開発競争の先に、さらなる懸念がある。
■「自律型致死兵器システム」とは?
「自律型致死兵器システム」とは、自律的に標的や経路を選びだすだけでなく、人の判断を経ず敵を攻撃するシステムだ。今後、このような兵器が開発される恐れが指摘されている。
2013年に国際NGOが「殺人ロボット阻止キャンペーン」を開始すると、国連などで対処の必要性が指摘され、国際的な議論が繰り返されてきたが、いまだ規制するルールはない。
国連のグレーテス事務総長は「人の制御や監視なく機能し、国際人道法の下で使用できない自律型致死兵器システムを禁止する、法的拘束力のある文書について、2026年までに交渉をまとめることも求める」と発言している。
AP通信は「アメリカの科学者や国防総省関係者などは、数年以内に完全な自律型致死兵器が誕生すると予想している」と報じている。
■なぜ人間は戦争をやめられないのか?
『ABEMAヒルズ』はAIの軍事利用について東京大学 先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏に話を聞いた。
━━AIを軍事的に実戦で使用する場面は増えてきているのか?
「既に幅広く使われている。例えば、人工衛星が撮ってきた写真から怪しいポイントをピックアップする、などはAIの得意領域だと思われる。」
「攻撃により民間人が巻き添えになる場合、人間だったら逡巡するが、機械であれば『巻き添え被害のことは知らない』と言えてしまう。それを分かったうえで機械の指定した目標に爆弾を落としに行くのか、というのは人間性の問題だ」
━━AIの戦争への実装によって変わるところ、変わらないところは?
「軍艦や潜水艦には“人間が乗っているからこそ”の行動日数の限界があるが、人間が乗らないとなれば1年中パトロールすることも可能となる。このように『海』『空』の戦いは大きく変わるだろう。『陸』の戦いにおいてはミサイルの射程・命中精度などはAIで向上するだろうが、最後はウクライナ侵攻の戦場と同様に兵士が鉄砲に銃剣をつけて塹壕に飛び込んでいくしかなく、その部分は簡単には変わらないだろう」
━━人の判断を経ず敵を攻撃する「自律型致死兵器システム」については?
「完全な自律型の兵器はまだ登場していないと言われている。ただ今後、戦場で敵を見つけ・敵と判断して攻撃することは、機械がやる時代が遠からず来ると思う。問題は、そういった兵器をどこに投入してどこまでやるのか、それにより何を達成するのかという判断であり、これは人間にしか決められず、機械にとって変わられる時代はおそらく当面ないと思う。
━━国連のグテーレス事務総長は『法的拘束力』を求めているが、実現するか。
「クラスター弾や核兵器同様、多くの国が禁止条約に加盟しても肝心の軍事大国を引き入れることは難しく、世の中からスパッと望ましくない兵器が消えてなくなることはないだろう。ただ、禁止条約が存在するということ自体には意味があり、総意としてロボット兵器のようなものがいいのか悪いのか、規制の対象にすべきなのかどうかという議論をすることは価値がある」
━━なぜ人間は戦争をやめられないのか?
「『人間が死ぬ』という究極に不可逆的な変化を与えることが脅迫・強制の手段になっており、それ自体が権力であるがゆえにやめらない。この殺し合いの部分に極めて厄介な本質があると思っている。もしもロボット同士が戦う“人間が全く死なない戦い”になったら、それは戦争と呼ばれないのではないか。私はいつかこんなことをやめられたらいいと思うが、同時に人間が人間である以上、戦争は続いてしまうと考えている。だからこそ我々は見つめ続けなければならず、戦争を少しでも減らすにはどうしたらいいかを考えなければいけない」
(『ABEMAヒルズ』より)
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