今、ライオンの飼育をめぐってある論争が勃発している。それが避妊処置の是非だ。
札幌市円山動物園で飼育されているオスの「クレイ」とメスの「イト」。現在2頭は別々に飼育されているが、同居させるにあたって避妊処置を行うことを園が発表すると「避妊手術するなんてかわいそう!」「繁殖させないのは人間のエゴ!」といった批判が殺到した。寄せられた声は400件以上。それを受けてもなお、円山動物園は動物福祉と繁殖制限の観点から、予定通り処置を施すことを発表した。
ライオンの避妊は人間のエゴなのか。そもそも動物園は必要なのか。『ABEMA Prime』で議論した。
■ライオンの“避妊処置”は人間のエゴ?
円山動物園の対応について、NPO法人「アニマルライツセンター」代表理事の岡田千尋氏は「札幌市は動物園条例を作っていて、アニマルウェルフェアを上げることが動物園を存続させるために必須であると定義づけているし、円山動物園もそれを向上させるための避妊処置だと答えている。動物たちが余剰になることで苦しむ可能性があり、これは正しい判断だと思う」と述べた。
上野動物園で飼育スタッフを経験した、どうぶつ科学コミュニケーターの大渕希郷氏は「私もほとんど同じ意見だ。ライオンにおいては頭数がたくさんいる。また飼育は人間が管理する責任が生じていることなので、アニマルウェルフェアという形で体現していかないといけない。動物園はもともと展示を目的として飼育しているので、必要な処置だったと思う」と語った。
そもそも、アニマルウェルフェアとは「動物が精神的・肉体的に充分健康で幸福であり、環境とも調和していること」を原則としている。大渕氏は「対比として『アニマルライツ』があげられるが、アニマルウェルフェアは家畜動物にも適用される概念だ。人間が動物を何かしらの形で利用する、究極的には犠牲にすることもあるが、それを否定していないところが最も違う」と説明した。
動物には子孫を残していく本能があり、避妊手術はそれを阻害するのではないか。大渕氏は「繁殖の機会もないのに発情している状況は、逆にどうなんだろうと思う。飼いきれないのに、無計画に増やすことには賛同できない」とした上で、「ライオンの生態として、ハーレムを持ったオスは数十分に1回交尾が必要。20秒ぐらいで終わるが、昼も夜もなく行うので、かなりの体力を使う。数年後、今度は若いオスがやってきて戦う…というのを動物園で再現するのかという話だ。やはり飼育という環境で、人間の責任の中でやっていくことが大切だ」と主張した。
■動物園は必要なのか?
動物園は不要と考える岡田氏は、その理由について「動物の権利を奪っていると思う。野生動物は大きな生態系の中で生きているが、隔離された檻の中で見せるということは、野生とは違った知識を植え付けることになる」と話す。
さらに「好きなときに見ることができる環境は、動物たちを物として扱っており、『我々が支配してもいい』という感覚を与えてしまう。今は実物でなくても3DやCGで生態を学ぶことができるし、展示することで動物にも人にもリスクがあるわけだ。動物園は縮小していくことが求められると思っている」との考えを述べる。
対して大渕氏は、動物園は必要だと主張。「展示という意味で、一種の博物館だと捉えている。実物に勝るものはないし、やはり人間はニオイや音など、五感で感じるものだ。ただ、課題は実際にあるし、改善すべきだと思っている。大事なのは“出口”だ。かわいいからとかかっこいいからが目的で行ったとしても、“これでいいのかな?”“違った。こうだったんだ”と気づいてもらえる。そこを動物園・水族館業界が今頑張っているし、現場の飼育員たちも切磋琢磨している」と話す。
さらに、「お金の問題もたしかにあって、公立の動物園は税金が入っているので、市民の理解も必要になってくる。私も動物取扱業という取り組みの一環で、幼稚園などに動物を連れて行って見せる活動もしている。その中で先生に伝えているのが、『ふれあい』という単語は使わないでほしいということ。触っているだけで、ふれあっているわけではないからだ。動物園もいろいろな思いがあってここまできている。まだ終わりではないので、さらなる高みへと上げてもらいたい」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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